僕が心臓のネジを巻く時 -24ページ目

僕が心臓のネジを巻く時

出来れば僕が動かなくなった後でも、この世界が平和であって欲しい。大切な人達が幸せであってほしい。

どこにでもいる

普通の犬として生まれた僕は

偶然、見かけたライオンに憧れて

なれるはずもないのに

ライオンになろうと思った


その姿はとっても恰好よくて

たてがみがとても凛々しくて

強そうで勇ましくて

堂々と歩く姿を見て

僕もライオンになろうと思った



そして旅に出た

その旅先で出会った女の子


その女の子は

とてもわがままで

だだをこねては僕を困らせて

さみしがり屋のくせに強がりで

泣き虫のくせに頑固で

僕のいうことをいつも聞いてくれない

でも僕のしっぽをしっかり握るものだから

あまりにもぎゅっと握るものだから

なぜだか僕も

彼女を守りたいと思うんだ


彼女が大事にしていた人形に

僕が名前を付けてあげると

彼女は喜んで

その人形に語りかけた

そしてその人形を

大切にする彼女を見た僕は

なぜだか彼女を守りたいと思ってしまった

ライオンでもない

ただの犬が

そんな夢物語を考えてしまった


僕の背中ですやすやと眠る彼女が

どうして僕を選んだのか

どうして僕についてきたのか

わからないけれど

僕は彼女の幸せそうな寝顔を見て

とても幸せな気持ちになった


だから僕はこの女の子を

ここに置いていこうと思った

ライオンになりたいと思う僕が

この先、この子を守れるだろうか

ただの犬でしかない僕が

自分の身を守るのが精一杯の僕が

この先、この子を守れるだろうか


きっと彼女は起きた時に

僕がいないと必死に探すだろう

そして僕がいないことを知ると

いっぱい泣くだろう


それでもこの先のことを考えると

その方がいいだろう

だから、そっと彼女をここに置いていこう


そうして僕は彼女を地面にそっと置いて

小さく吠えて別れの挨拶をした


すると彼女は眠りながら

僕のしっぽを掴んだんだ

あまりにもぎゅっと握るものだから

僕はそこから動けなくて

仕方がないから

僕はその晩、ずっと夜空を見て考えた


ライオンでもない僕が

この子をちゃんと守れるだろうか

この先、しっかりと

この子の笑顔を守れるだろうか

僕は昔、見たライオンの姿を

思い浮かべて眠りについた




あれから僕は

やっぱりライオンにはなれなくて

まだ、普通の犬のままだけど

彼女が僕の為に作ってくれた

草でできたたてがみが

僕をほんの少しだけ強くした



アリ達は毎日あくせく働き
キリギリスはその横で遊び続けました




冬になって食糧がなくなることを恐れ
アリは毎日、毎日、必死に働きました




でも地球が温かくなったせいで
いつまで経っても寒くなりませんでした
むしろ暑さのせいで
せっかく貯めた食糧まで腐り始めました




それでもアリは毎日、毎日
あくせく働きました
毎日、毎日、列をなし
心を亡くすほど
忙しく働きました



その様子を見ていたキリギリスは
喧嘩に負けてボロボロになっていた
カブトムシにお願いをしました





「僕のきれいな羽と、君のボロボロになった羽を
 交換してくれないか?」




カブトムシは喜んで交換し
ボロボロの姿になったキリギリスは
その姿でアリの下を訪ねました



来る日も来る日も
アリは食糧を集め
カブトムシは闘いを挑み
キリギリスは羽を交換しました



そんな様子を上から見ていたチョウが
キリギリスに尋ねました




 「どうしていつも、ボロボロの羽と交換するの?
  どうしていつも、アリ達に頭を下げるの?
  そんな事をしなくても
  あなたは十分いい生活を送れるでしょう?
  あなたは気づいているでしょう
  この世界が変わってしまったことに
  



  地球が温かくなったことに
  気付かないやつが馬鹿なのよ
  負けると分かっている勝負に
  挑み続けるやつが間抜けなのよ
  そう思わない?」



するとキリギリスは笑って答えました



 「これは物語なんだ
  その中で僕の役目は
  夏に遊んで冬に反省する
  そうすることで読む人に
  何かを伝えることができる



  でも、この世界は変わってしまった
  地球は温かくなり
  真面目に働くことが馬鹿の様に思われ
  負ける勝負に挑むことが
  間違いの様に思われる
  そんな世界に変わってしまった



  

  でも、それは違う
  そうやって大切なことが
  失われてはいけないんだ
  どんなに世界が変わっても
  大切なものまで変えてはいけないんだ
  だから僕は馬鹿なフリをする




  僕が馬鹿なフリをすることで
  アリは働くことに意味を見出し 
  カブトムシは勝負に挑み続け
  物語を読む人達に
  大切な何かを伝えることができる
  


  そうやって世界を変えることが出来るんだ




  真面目に働く者が
  損をする世界ではだめなんだ
  負けても負けても
  勝負を挑み続ける世界じゃないと嫌なんだ
  大切な物語が失われていく
  世界ではだめなんだ




  だから僕は馬鹿なフリをする
  それが僕の役目だから」




「そんなの間違ってると思う」
チョウがそう言うと
キリギリスは笑ってこう応えました



「間違いを教えるのが
 物語の中での僕の役目だよ
 それは今も昔も変わらない」




そしてキリギリスは
今日もボロボロの姿で
アリの所へ向かいました



その背中が本当にボロボロで
可哀そうなくらいボロボロで
この美しい世界で1番
格好悪くて
格好いいものでした

僕がその場所に行くと

すでに多くの人が集まって

今か今かと待ち構えていました





王様の命令で罪人を

公開処刑するというのです

しかもその罪人は

数々の悪行を重ねてきた極悪人

見物人の中には

処刑を望まない人がいないほどでした




皆が罪人に向かって石を投げ

罵声を浴びせる中

いよいよ死刑処刑人が現れました




それはそれは大きな大男

大きな斧を持ち

顔が分からないように

仮面をつけていました




大男が死刑台に上り

大きな斧を振り上げると

皆が一斉に雄たけびを上げました




でも、その瞬間

処刑人の動きが止まりました

よく見ると、罪人が涙を流していました




今更、何を・・・




皆がそう思いました