僕が心臓のネジを巻く時 -26ページ目

僕が心臓のネジを巻く時

出来れば僕が動かなくなった後でも、この世界が平和であって欲しい。大切な人達が幸せであってほしい。

彼らは疲れているんだ

だからもうこれ以上

僕の話を聞いて疲れたくはないんだ





彼らも苦しいんだ

だから僕と向き合うことを諦めたんだ






彼らも、もうこれ以上悩みたくないんだ

だから悩みの種の僕を捨てたんだ






だから彼らは聞こえないふりをしたんだ

だから彼らは見えないふりをしたんだ

だから彼らは面倒臭いものを

ゴミと一緒に丸めて捨てたんだ







だから僕も怒りという感情を捨てた

それは彼らを傷つけるものでしかないから

僕も喜びという感情を捨てた

そうやって余計な期待はしないことにした

僕も悲しいという感情を捨てたんだ

どんなに泣いても彼らは見えないふりをするから

どんなに叫んでも彼らは聞こえないふりをするから

だから僕はすべての感情を捨てたんだ

そんなものは持っているだけ

無駄だということが分かったから







そうして僕は機械になった

何も考えずに言われた通り動くことを選んだ

「お前は死んでいる」と言われた

殺した相手に言われた

話を聞けと言われた

笑えと言われた

だから話を聞いたんだ

だから笑ったんだ

それで彼らは満足して帰って行ったんだ

機械相手に自分の話を永遠として

帰って行ったんだ

機械が作りだした笑顔を見て

安心して帰って行ったんだ







僕はそれを見ても

悲しいとは思わなかったんだ

その感情はとうの昔に捨ててしまったから

皆さんは黒点というものを知っていますか?」






その先生は授業の最後に話を始めました







「正式には太陽黒点といいます

 太陽の表面にある黒い点のことで

 実際にはこの部分も光を放っているけれど

 周囲よりも弱い光なので

 黒く見えるそうです・・・」






僕はその話を窓の外を眺めながら

聞いていました

僕の隣の席の女の子は

友達に手紙を書いていました

その後ろの優等生は

他の勉強をしていました

その隣の僕の友達は

寝ている様に見えました







その話を誰も聞いていないように見えるのに

その先生は話を続けました








「黒点は周囲よりも弱い光なので

 黒く見えるのですが

 それでもそこは光を放っています

 確かに光を放っています

 周りの光が強すぎるので

 黒く見える

 ただ、それだけなんです






 皆も同じです

 どんな人でも光を放っています

 どんなに黒く見える人でも

 光を放っています

 だから皆も光を放ち続けてください






 皆が光を放つことをやめたら

 植物は育たないでしょう

 動物は死んでしまうでしょう

 光はなくなるでしょう

 だから光を放ち続けてください






 あなた達がどんなに弱い光であっても

 誰かに黒い影のように言われても

 あなたを必要としている人達がいます

 だから光を放ち続けてください

 どんなに弱い光でも

 どんなに黒い光でも

 一生懸命、命を燃やして生きてください

 そして光を放ってください」






僕はその話を窓の外を眺めながら

聞いていました

僕の隣の席の女の子は

友達に手紙を書いていました

その後ろの優等生は

他の勉強をしていました

その隣の僕の友達は

寝ている様に見えました






そうして話が終わると
先生は教室から出て行きました

あれから十数年が経ち

僕らは大人になりました

そして僕は偶然、同窓会の帰り道で

その話を思い出しました

そして空を見上げました










夜だったので、そこに太陽はありませんでした

でも、僕は話をしました












「ねぇ、黒点って知ってる?」








すると、あの時、僕の横で
友達に手紙を書いていた彼女が言いました






「太陽黒点のことでしょ?

 太陽の表面にある黒い点で

 実際にはこの部分も光を放っているけれど

 周囲よりも弱い光なので

 黒く見える

 その点のことでしょ?」









彼女に続いて、あの時、その後ろで

他の勉強をしていた優等生が言いました








「黒点は周囲よりも弱い光だから
 黒く見えるけど

 それでもそこは光を放っている

 周りの光が強すぎるので

 黒く見える

 じゃなかったっけ?」







そして最後に、あの時、その隣で
寝ている様に見えた僕の友達が言いました







「俺達も同じ

 どんな人でも光を放っている

 どんなに黒く見える人でも

 光を放っている

 俺達がどんなに弱い光であっても

 誰かに黒い影のように言われても

 俺達を必要としている人達がいる

 だから俺達は光を放ち続ける

 どんなに弱い光でも

 どんなに黒い光でも

 一生懸命、命を燃やして生きる

 そして光を放つ

 そういうことだろ?」








なんだ、聞いていたのか
あの時、あの話を皆も聞いていたのか





僕が笑ってそう言うと
友達が言いました





「聞いてないのはお前だけだと思っていたけど?」




それを聞いて
僕は笑いました

友達も笑いました

そして皆笑いました









そしてそんな夜でも
太陽は僕らにしっかりと

光を届けていました

月を通じて

僕らをしっかりと

照らしていました







僕らが大人になっても
夜道に迷わないように