自転車で糖尿病を克服した! -174ページ目

ラスムッセンの悲劇!第二部[激闘編]

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●シーン2 東京都世田谷区のある激坂区間~通称「ラルプデュエズ峠」


2006年、春のある朝。気温は20度前後。晴れ。理想的ともいえる天候だ。


サイクリング日和というのはまさにこういう日を指すのだろう。爽快に風を切りながら、今日も彼女は快調に電動自転車を走らせていた。毎週月火木の3日間は高級住宅地のはずれにあるスーパーでパートとして働くのが彼女のスケジュールだ。今日は火曜日、オープンの15分前にはスーパーに入らなければならないため、少しだけ急いでいる。


去年、約10ヵ月前に夫に購入してもらったオレンジ色の電動自転車は今日も快調だ。自宅からスーパーまでは約3キロほどだが、途中きつい坂があるので、普通の自転車では骨が折れる。ちょっと値段は高かったがあえて電動アシスト自転車を購入したのは、この坂を楽に登るためでもある。その効果は彼女自身いつも実感していた。他の人たちが皆自転車を押していても、彼女だけはいつも大きなストレスを感じることなく、自転車に乗ったまま坂を登り切ることができたからである。


一見、何の不自由もない生活をおくり、幸せそうに見える彼女だが、実は最近、ひとつだけ気になっていることがあった。


なんだか誰かに付けられているような気がする…のだ。


ストーカー? そうかもしれない。


ただ、確信があるわけではない。誰か心当たりがあるわけでもない。気のせい、ただ単に気にし過ぎているだけなのかもしれないが、何度か不審な人影を見たような気もするし、一度は夜帰宅途中に自転車で後を付けられたこともある。そのときには、電動アシストがなくなる時速24km以上を必死にキープし、わざと大回りしながら自宅に戻ったこともある。


爽やかな朝だ、そんなことは忘れてパート先のスーパーへと彼女は急ぐ。あの坂を越えればあとは数分…、ギリギリだが時間までに着くはずだ。


やがてオレンジ色の電動自転車はいつもの急坂に差し掛かる。


ちょっと力を入れてペダルをこぐ。何台かの自転車をパスしながらいつものように坂を駆け上がる。


ちょうど中腹を過ぎたあたりだろうか、ふと気づくと後ろから自転車の音がする。かなり力を入れているようで、彼女にすごいスピードで追いついてくる。


「自転車?」


「私と同じように電動かしら?」


彼女は本能的にスピードを上げた。連日登っている坂だ。150メートル登ったくらいではまだまだ足に余裕がある。だが後続の自転車の音はさらに大きくなり、距離が近づくのを感じる。


一瞬、あのストーカーのことが頭をよぎった。


「そんな莫迦な、こんな爽やかな朝なのに、しかもこんな坂道で…」


だが、彼女の身体は本能的に反応した。ちょっとした恐怖が彼女に鞭を打つ結果となったのだ。


その瞬間彼女はクライマーサイクリストとなった。腰をサドルから浮かし、ダンシングの姿勢で、この激坂の残り100メートルを登りはじめた。


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●シーン3 東京都世田谷区のある激坂区間~通称「ラルプデュエズ峠」


彼は、まさにもう少しで勝利の雄叫びを上げるところだった。


場所はいつもの「ラルプデュエズ峠。」あの、例のオレンジ色のフレームがまぶしい電動ママチャリにもう少しで追いつき、追い越せる。相手が「世田谷の電動ラスムッセン」だろうが、「高級住宅街の山岳王」だろうが、この坂でちぎってやる!そう思って努力してきた苦労があとほんの数メートルで報われる…そんなところまできていたのだ。


だが、そこはさすがに「電動ラスムッセン」と呼ばれるほどのサイクリストだ。簡単に後塵を拝したりはしない。


彼のガンメタのマウンテンバイクが、まさにオレンジ色の電動自転車を捉えるその寸前、彼女はダンシングの体制を取り、一気にダッシュ。後続のマウンテンバイクを引き離しにかかったのだ。


「う、うぬ、電動ママチャリ恐るべし!簡単には抜かさせないということか!」


「電動ラスムッセン」が乗るオレンジ色の電動自転車はスーッと離れていく。


「あ、あと少しだったのに…、く、くそ」


彼はあくまでシッティングのまま、ケイデンスをさらに上げた。ほんの半年前まで、この坂を登ることすらできなかったにしては、上出来のペダリングだ。


しかし、距離は詰まらない。


約3メートルほどの距離を置きながら、電動自転車とマウンテンバイクという2台の異様なペアは坂を登り続ける。


この約1年3ヵ月後にツール・ド・フランスで展開される山岳ステージの一騎打ちのように…


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●シーン4 東京都世田谷区のある激坂区間~通称「ラルプデュエズ峠」


彼女の顔は恐怖で引きつりはじめていた。


「ヤツはまだ付いてくる。こんなに力を入れてこいでいるのに…。」


「まだ振り切れない…、あ、あのストーカーだったらどうしよう。」


彼女の頭の中には、もはや通勤途上という意識は完全に消え失せた。いまや防御本能のみが身体を支配し、アドレナリン大噴出状態となったのだ。普段では考えられない力が出る状態である。


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●シーン5 東京都世田谷区のある激坂区間~通称「ラルプデュエズ峠」


彼は焦った。あと少しで抜かせる…ところまで来たのに、そこから例の「電動ラスムッセン」は信じられないダッシュを見せている。


「このままでは抜かす前に坂が終わってしまう…!!せっかくビンディング付きの新型マウンテンバイク、Giant Rock4500を投入したのに…」


まだ発展途上の彼の場合、立ちこぎをすると急速に体力が奪われてしまうことは、何度かの痛い経験で知っている。だが、ここはシッティングで余力を残し登っている場合ではなくなった。


彼はサドルから立ち上がり、ダンシングで最大の力を入れてペダルを踏みはじめた。

こうなると、サスペンション付きであることが疎ましい。ペダリングパワーが逃げてしまうからだ。


しかし、努力は報われはじめた。じりじりと電動自転車との距離が縮まる。


「ようし、行くぞ、もうすこしだ!」


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この続きは次回、[完結編]で!



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