ラスムッセンの悲劇!シーン1(本物編) | 自転車で糖尿病を克服した!

ラスムッセンの悲劇!シーン1(本物編)

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●シーン1 フランス・ピレネー山脈・オービスク峠


話はいろいろと交錯する。ここではラスムッセンが登場する。

あの「世田谷の電動ラスムッセン」のことではない。本物のラスムッセンのことだ。いわゆるクライマーとして一流の実績を持つ細身のプロサイクリストだ。

出身はデンマーク、チーム「ラボバンク」に所属する。ラスムッセンが峠で本気を出したとき、その高いアベレージスピードにほとんどのサイクリストは付いて行けない。その実力は「ツール・ド・フランス山岳賞~マイヨ・ブラン・ア・ポワ・ルージュ」獲得の実績が証明する。だが、今回の彼の狙いは山岳賞ではなかった。サイクリストなら誰でもあこがれる「マイヨ・ジョーヌ」獲得、つまり総合優勝を狙っていたのだ。


場所はフランス、「オービスク峠」、2007年7月25日。ツール・ド・フランス第16ステージも終盤戦に差し掛かっていた。


ラスムッセンの総合優勝のためには、直接のライバル、スペインの新鋭コンタドールを叩かなければならない。他のライバル達はすでにトップグループの高いアベレージに付いて来られない。今トップグループを形成しているのはわずかに3人~ラスムッセン、コンタドール、そしてライプハイマーだけだ。今日も一昨日の第15ステージ同様、コンタドールとの一騎打ちになる可能性がある。


コンタドールが仕掛けた。


上り坂とは到底思えないスピードでコンタドールが一気に飛び出す。


ラスムッセンちぎれたか…?一瞬距離が開くが、一昨日と違って今日のラスムッセンは落ち着いている。


無理してコンタドールのインターバル系ダッシュに付き合うことなく、得意の“高いアベレージスピード”を維持することのみを心がけ、じわりじわりとコンタドールとの距離を詰めていく。


勝負はまた振り出しだ。


コンタドールもなかなか動かない…。


いや、今日に限っては動けなかったのだ。コンタドールはチームメイトのライプハイマーがいるというアドバンテージがあるにもかかわらず、実のところ、ラスムッセンの高いアベレージスピードについていくのが精一杯だったのだ。そう、先ほどのダッシュは実は“ブラフ”だったのだ。だがそれにラスムッセンは騙された。


ラスムッセンも無理なダッシュはかけない。第15ステージで勝利を焦って、コンタドールのペースに巻き込まれ、あやうくタイム差を付けられそうになった経験が彼を消極的にさせる。


誰も仕掛けないという膠着した状況でゴールだけが近づいて来る。ラスムッセンは前を走る撮影隊のバイクに対ししきりに「もっと前へ行け」というしぐさをする。見ようによっては王者の貫禄とも言えないこともないが、一番焦っていたのはもしかして彼自身だったのかもしれない…。


最後の山岳ステージ、登りゴールのゲートまで残り1km。


ここに至りやっとラスムッセンは気づいた。


「コンタドールはもう足がないのじゃないか…」


彼は、スーッと加速する。後ろを確認する。やはりコンタドールはもう付いてこられない。ラスムッセンの賭けは吉と出た。こうなると山岳王、ラスムッセンの独壇場だ。遅ればせながら、山岳王がやっと山岳王らしい走りをこのオービスク峠で見せた。そうなると、さすがにスピードが違う。ラスムッセンは3位のコンタドールに40秒以上のタイム差を付け、トップでゴール。今回のツールで2度目のステージ優勝を飾る。


総合優勝ももう99.9%確実になった。2位のコンタドールには3分10秒もの大差を付けた。これはもうコンタドールにとっては致命的と言っても良いタイム差だ。第19ステージのタイムトライアルでラスムッセンが大失敗でもやらかさない限り、勝利のマイヨジョーヌはラスムッセンのものになる…誰もがそう思った。


だが、悲劇はその数時間後にラスムッセンに訪れることになる。


シーン2「激闘ラルプデュエズ編」へ続く


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