自転車で糖尿病を克服した! -146ページ目

緊急事態発生!自転車部隊は行く 【第4話】

2台のクロスバイク! 今回の任務で大活躍した2台のクロスバイク(2007年9月撮影)。「ご機嫌モニター」や「飲食店レーダー」、「半重力アシスト装置」などの特殊装備が施され、現在も任務遂行には欠かせないギアとなっている。(「半重力アシスト装置」はこの作戦「オペレーション・リバーマウス」(河口湖特殊任務)での苦い教訓が生かされ、作戦後に装備されたもの---ボトルホルダーに見えるものがそれだ)。

これは装備するだけで自転車の体感的重量を軽減する効果があり、通常では約10.8kgのジャイアント・エスケープR3が、約6.8kg程度(UCI規定での最軽量状態)にまで軽量化されたのとほぼ同等の軽量化効果がある。ちなみにこの装置は10kg程度以上のクロスバイクに取り付けると非常に効果的だが、もともともっと軽量のロードバイク(たとえば8kg程度の比較的軽量のもの)に取り付けると約4.0kg程度の重量と同等になってしまうため、風にあおられたりなど危険性があり、今のところロードバイクへの取り付けは禁止されている。

なお、この装置の情報は内通者がいたのか、T-Mobileやランプレといったいくつかの有力UCIプロツアーのチームへと知られることとなり、問い合わせが何件か来ているという。来年のツール・ド・フランスではこの装置を付けて走るチームが現れるかもしれない!(今のところUCI規定には「半重力装置」を禁止する規定はなく、今後数年間はノーチェックでレースでの使用ができるだろう。おそらくその後は禁止されることになるだろうが…)

この装置も市販されたら大注目商品となることは間違いない。軽量マニアなら何百万円出してでもおそらく買うだろう。


【前回からの続き】


バイオレットアラート


もはやA子にとっては限界だった。


真夏の炎天下を100キロ近く走るだけでも大変なのに、しかもコースプロフィール を見ても明らかなように、ずっと上り基調ときている。それでも意外に“根性持ち”のA子捜査官だからこそここまで頑張れたが、もういつ力尽きてもおかしくない状況だった。


日頃、厳しいトレーニングを積んできたB夫捜査官は、まだ限界までは到達していなかったが、もはや疲労は隠しようがない。できるなら、もし可能なら、今すぐにここで2時間ほど休憩できれば楽になれるのに…そんな妄想を押しのけるのに苦労しているような状態だったのだ。


ビデオ屋の軒先で15分の休憩を取ってからまだ数キロしか走っていない。だがどうも後ろを付いてくるA子が遅い…、いや遅いのはわかるが、明らかに普通じゃない走りのようだ。大丈夫なのか…


B夫がふとGSOM(=「ご機嫌モニター」)を見ると、ちょっと前までは黄色ランプだったはずなのに、なんと紫色のランプに変わっている!まずい、これは大変だ。


この状態は赤ランプの状態よりむしろ厄介だ。この紫色のLED光は「バイオレット・アラート=ご機嫌探知不可状態」を表しているのだ。「ご機嫌探知不可」とは、怒ったり、切れたりという意識的な状態すら起こりえない状態、つまり意識がもうろうとしてきていることを意味する!ヤバイ!なんとかしないと!


二人はスローペースながらも、なんとか津留の町へと入って来ていた。


B夫は、捜査官としての全神経を働かせ、“今できる最良の問題解決方法”探索モードに入った。あらゆる危機的状況において、あくまで冷静に、使えるものすべてを動員して危険から自分の身を守る…捜査官養成所で徹底的に訓練されたスキルだ。サバイバルのための基本中の基本ともいえるテクニックだ。今まさにB夫はその力を試されるときが来ていた。


B夫はとりあえず目の前にあるすべてのものに全神経を集中した。


あった!


解決方法だ。


黄色い山形のマークのあれだ。


マクドナルドだ。


ここなら冷房の効いた部屋でA子に必要なすべてを与えることができる!おぉ神様ありがとう!


B夫はA子に右手のサインでマクドナルドに入ることを伝えると、二人は“砂漠のオアシス”とでも呼びたくなるそのハンバーガーレストランへと入った。これでなんとかA子の体力を回復できる。だが6時半に予定されている秘密ミーティング、いやディナータイムに間に合う可能性は限りなくゼロに近付いた。


任務を取るか、仲間の命を取るか…B夫にとってはまさに苦渋の決断だったのだ。


“永遠”に等しい十数キロ


マクドナルドはやはり効果的だった。


それほど休憩時間を取れないのはわかっていた。だができる限りそこに長くいた。身体が欲する塩化ナトリウム、つまり塩味の効いたポテトフライで栄養の補給もした。A子の弱った身体はそこそこ回復したように見えた。意識もかなりはっきりしてきたようだ。B夫もかなり元気を取り戻した。


ペンションにも電話をした。ディナータイムに遅れる可能性があるということを伝えた。「多少遅れても大丈夫ですよ。1時間くらいなら遅れても大丈夫ですから。シェフもまだいるので…」というありがたい言葉がなんとか励みになる。


カップルで旅行中のスクーターに出会った。彼らはエンジン付きだ。楽しそうだ。ラクチンそうだ。目的地はおそらく河口湖近辺だろう。もし許されるなら彼らのスクーターに装備されているエンジンを奪い、A子のクロスバイク(スペシャライズド・クロスライダー)に付けてあげたいとB夫は思った。


だが、それはできぬ相談だ。


自転車で目的地まで到達することに意義があるのだ!がんばれA子、がんばれB夫!もう目的地は目と鼻の先だ。7時30分までに着けばいい!ディナーには間に合う!任務は果たせる!すべては報われる!急ぐのだ。Go Go Go!


時刻は午後6時をもう15分ほど過ぎていた。残りの距離は15km程度だろうか。


平均時速15kmで行けば1時間で着く。残りの道のりにはそれほどの激坂はないはずだ。そうであれば問題はない。B夫はさきほどより心持ちスピードを上げて先を目指す。A子もなんとか着いてくる。大丈夫かも…


B夫はもういらぬ嘘はつかない。「この先はフラットで楽ちんだ」などという不要な嘘でA子を苛立たせても何の役にも立たない。「ご機嫌モニター」は相変わらずイエロー表示だが、このままなら大丈夫だ。先へ向かうのみ。


だが、そこからの道のりも決して楽なものではない…ことにすぐ気づいた。


登っている。


斜度はそれほどではないが、確実に上り勾配だ。


今度はA子の足が心配だ。


力が入るのだろうか?もうかなりの標高差を登って来ている。あと少しだ。もってくれ!


なんとかしばらく走った。少しでも目的地までの距離を稼ぐ、その一念で二人はひたすらペダルを漕いだ。


いくつかのコーナーを曲がった。


あるコーナーを曲がり終えて、ちょっと直線に入った。先が見えた。


「あぁ…」


B夫は絶望する自分を感じた。


急なのだ。勾配が急なのだ。ここからしばらくずっと上り勾配なのが見える。傾斜にして5~6パーセントほどはあるように見えた。この坂を自転車にまたがったまま登るのは大変だ。A子は…と思ってB夫は後ろを振り返る。


なんとA子はおもむろに自転車を降りた。そしてこうB夫に告げた。


「あたし、もうダメだ。押して登るから…B夫は先に行っていいよ…」


恐れていた事態になった。


A子がもう登れない。ここまでがんばって来たA子は、力を振り絞ってペダルを漕いで坂を登る…という行為に疲れ果てたのかもしれない。


「もうあと、10キロちょっとだよ。もう少しがんばれば…」


B夫は励ましのセリフを何とか組み立てようとしたが、もはやその言葉に説得力は全くない。一瞬後には風にかき消されてしまうだけだ。


A子の“歩いて登る”という意志は、今回ばかりは本物だ。あたりはもう随分暗くなってきていた。


B夫は天を仰いだ。


作戦失敗だ。


任務遂行不可能だ。


歩いてこの坂道を登ったのでは、どうあがいてもディナータイムの終了までにペンションに到着することはできない。いやディナータイムだけの問題ではない。時速数km/hで歩いていては到着までここから何時間もかかってしまうではないか…。誰もいない夜の山道を自転車を押してだらだら歩き続ける…そんなことができるワケはない。


ど、どうしよう…。


焦っても仕方がない。緊急事態だからこそ、じっくり考えよう。走れないものはしょうがないんだから…。


A子に続き、B夫も自転車を降り、歩道に上がる。


二人の孤独な捜査官はそれぞれのクロスバイクを押しながらとぼとぼと歩道を歩きはじめた。


坂道は長い。歩みは遅い。1分や2分進んでも大して距離は稼げない。あたりまえだ。本来の自転車の速さが欲しい…時速10kmでいい。それだけでも出せればなんとかなるものを…。


B夫は絶望していた。A子はこの先のことを考える余裕などなかった。


人生というのは不思議なものだ。多くの場合、落胆の先には落胆しかない。そう、不幸はたいていダブルパンチで襲うのだ。このケースも決して例外ではなかった。


「おや…」


B夫は彼のクロスバイク「ジャイアントホープ」の前輪の動きがおかしいことに気づいた。


明らかに違和感がある。


「何だろう…」


あれ、前輪の空気が抜けている…


ほんの数分前までなんてことなかったのに…。歩道の上に何か鋭利な金属でもあったのかな…ま、まずいな。


よく前輪を確かめた。


パンクだ。


やはりパンクだった。もう絶対にディナータイムには間に合わないという絶望的な状況の中、歩道を自転車を押して登る二人に追い打ちをかけるように不幸が襲ったのだ。


これで完全に望みは絶たれた。B夫はA子の顔を見た。A子も呆然としていた。


「と、とりあえずパンク修理をするから…」


もう日は暮れてあたりを闇が包みはじめていた。目的地はほんの十数キロ先、だがあまりにも長い十数キロだ。“永遠”に等しい距離に思えた。時刻はもう午後7時。作戦が失敗したことは明らかだった。


【次回へ続く】

完結しなかった!ゴメンナサイ!でもこのあとに奇跡が!本当の完結編は明日アップの予定!


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