奇跡の河口湖!自転車部隊は行く【第5話・完結編】
【前回からの続き】
全くの立ち往生だった。先へも進めない。ましてや後戻りもできない。
坂道は登れない…しかもパンクで「ジャイアントホープ」(ジャイアントEscape R3)はダウン。いよいよ進退窮まった…。本部にレスキューを要請…とも思ったが、それはやはり最後の手段だ。このチームの経歴に泥を塗ることになる。まずは最後まで死力を尽くすのだ。
自動パンク修理装置?
そんなものあるわけない。いくら数々の特殊最新装備を持っているとしても、これだけは自らの手で行わねばならない。そんなに都合の良い機械などあるわけないのだ。幸いにも換えのチューブは2セット持参していた。初心者には欠かせないタイヤレバーもしっかり3本揃っている。
B夫とA子の捜査官チームは閉店した中古車販売店の入り口付近に適当な場所を見つけると、ちょっと心を落ち着け、B夫は早速パンク修理のため前輪を取り外した。
A子は低く積まれたブロックに腰を下ろし、心配そうにB夫のたどたどしいパンク修理を見守る。
あ、そうだ。敵のアジト…、いやペンションに連絡しないと…
B夫は通常型携帯を取り出すと、電話をかける。
首謀者と見られる男が電話に出た。だが、あくまでとても感じが良い。こんな感じの良いペンションが敵のアジトになっているなどまるで嘘のようだ…だが、油断はしない。
B夫はアクシデントが発生し、もはや7時30分までに到着することは不可能になったことを伝えた。今晩のディナーそのものもあきらめるしかない状況であること、そして到着時刻が全く読めないことも付け加えた。夕食はどこかのコンビニ弁当でも仕方ない。だからもう私たちを待たなくて良いから…そこまで伝えた。あくまで一般サイクリストとしての会話だ。
だが電話の向こうの彼はあくまで親切だった。
「わかりました。でもできるだけお待ちしますよ。くれぐれもお気をつけて。」
★「ご機嫌モニター」が告げる異変
自転車のパンク修理がやっと終わった。B夫は思わぬ労働でかいた汗をタオルで拭った。それにしても携帯用ポンプでの空気入れ作業は骨が折れる。250回はポンピングしただろうか…、最後の方は本当にものすごい力でのポンピング作業が要求される。どうにかならないのだろうか…。
前輪にかろうじて6気圧前後まで空気を充填された「ジャイアントホープ」は再び立ち上がった。さぁ、自転車に関してはもう問題はない。あとは二人が走れるかどうか…それだけが問題だ。
ただ修理に時間はかかった。もう時計は午後7時30分を告げている。
完全なタイムアウトだ。
もはや今晩の任務遂行は不可能だ。だが残りはたったの十数キロ。せめて、敵のアジトまでは到着したい…それが今のB夫のささやかな願いだった。
A子はどうだろう…。
「大丈夫か?」
「うん。」
「歩いて押す?それとも乗れる?」
「乗ってみる。」
それがA子の答えだった。それほど力強くはないがハッキリした答えだった。迷いはない。
二人はそれぞれのクロスバイクにまたがると、ゆっくりだが再びペダルを回しはじめた。坂道だ。それほど楽ではない。ゆっくりと、だが着実に目的地へと2台のクロスバイクは進みはじめる。
B夫はふと例のGSOM(「ご機嫌モニター」)をチェックする。
おや?
嘘!?
グリーンだ。
A子は“安定ご機嫌状態”にあることをGSOMは示している。B夫は驚いた。言ってみれば“にこにこ状態”とも言える非常に好ましいメンタルコンディションだ。この“ダブル・アクシデント状況”という究極の非常事態の中で、A子が精神的安定を保つことは極めて難しいだろう…と思っていたが、さすが秘密捜査官(!)と言うべきか、さすがはあの試練を乗り越えたA子 と言うべきか、この状況下でなんとA子は“にこにこ状態”にまで自分をコントロールしてきたのだ。
A子はスピードを上げ、自ら進んで前に出た。B夫を引きながら自分のペースを守り、あくまで目的地を目指す構えだ。
「自分のペースでいいからね。」
B夫の声に頷くと、つい1時間前のA子からは考えられないペースでスペシャライズド製のクロスバイクを走らせる。
つまりはこういうことだった。
パンク修理がまさに救いの神となったのだ。
約30分近くに及ぶパンク修理の間、A子はドリンクを補給しながらじっくりと身体を休めることができた。さきほどのマックフライポテトやチキンバーガーが身体に浸透してきたこともあるのだろう。結果的にこの貴重な休憩時間の間に、A子の身体は信じられないくらいに回復したのだ。
気温が先ほどよりもずっと下がり、“快適”とさえ言える気温になったことももちろん大きいだろう。だが言ってみればこれはまさに“パンクの奇跡”、落胆するほどの不幸が実は次のラッキーへの入り口になっていた!!そんな“運命の不思議”を表すとても良い例かもしれない。
いずれにせよ。ディナーを逃した(=任務が遂行できなかった)という点を除いては、状況がはるかに好転してきたことは事実だった。
先ほどまでとは逆の順序----A子が前を引き、B夫が後ろを走る----という二人の捜査官チームはなんとか無事にペンションへと向かうことになったのだ。
もちろん上りは続いている。決して楽な平地ではない。場所によっては道は細く、クルマ達の横を走り続けるのは大変なことだ。
だが、GSOMは依然グリーンのLEDを灯したままだ。A子の“ご機嫌状況”はいまだに完璧だ。スピードもそれほど速くはないが、もはやそれほどの“遅いスピード”でもない。なんとかペンションまでたどり着ける。今夜の寝場所だけは確保できる!それを確信するには充分なスピードだった。
★そして…
B夫の腕時計は8時28分を指していた。
思ったより早く着いた。いや実はこのペンションにたどり着く前に道を1本間違え、なんと富士スバルライン方面へと富士山を登りそうになったのだが、なんとか百メートル程行っただけで間違いに気づいたおかげで、正しい道へと戻ることができた(もしこの道を間違っていたら、このブログはもう数話を楽に要することになっただろう…幸いなことだ)。
そんなオマケも付いたが、到着予定時間を大幅に遅れてはいたが、なにはともあれ、A子とB夫は目的地のペンションへとたどり着いた。
もう完全に真っ暗になっていた林の中の一本道の先、遠くの方からペンションの光が見えて来たとき、B夫が抱いた感情は、アポロ13号の宇宙飛行士が近付いてくる“我が故郷地球”に対して抱いたのと同じ種類のものであったことはほぼ間違いない。
A子だって同じだ。一週間前の“試練”、そして今回の“超苛酷”な河口湖への自転車ツアー…自転車がらみであまりにタフな経験を積むことになったが、それを彼女は乗り切ったのだ。確かに自分の足で、はるか遠くにあったペンションまでたどり着いたのだ!彼女の瞳が感激の涙を抑えることができず、最後の数十メートル、運転に多少の支障を生じたことは想像に難くない。
★ディナー~潜入捜査は?
そして、到着してわかったもうひとつの嬉しい誤算があった。
このペンションでは、A子とB夫のためにまだディナーを待っていてくれたのだ!本来ならもうとっくに帰っているはずのシェフもスタンバイしてくれていた!
A子とB夫はサイクリング用のジャージ姿のまま、顔も洗わずにビールを飲み、ワインを飲み、ディナーにむしゃぶりついたことは言うまでもない。最高の味がした。まさに、まさに2006年度最高のディナーとなった。
潜入捜査?
あ、そう、もちろんその日は捜査にならず、二人ともディナーが終わると、そのままダウンしてしまった。二人は仕事をこなすにはあまりに疲れ過ぎていたのだ。
そして翌日、捜査を行った。近所へも足を伸ばし、河口湖近辺の捜査もしっかり行った。
そして出た結論。
シロだったのだ。つまり、そのペンションはテロリストのアジトではなかったのだ。彼らはあらぬ疑いをかけられていただけだったのだ。
それが確認されると、A子とB夫にできることは、この二泊三日の旅行を楽しむことだけだった。二人が残りの時間をしっかり楽しんだことは、もちろん言うまでもない。
★そして最後に帰り道の話
任務を終えた二人は翌々日、同じようにクロスバイクで河口湖のペンションを出発し、世田谷B地区を目指した。ただ、帰り道は往路とは全く違っていた。特に最初の数十キロはまさに夢のようだった。
だって2~3回ペダルを回すとあとは何もしなくても進んで行くんだもの…。そう、まるでマクドナルドで出会ったあのスクーターのエンジンを取り付けたみたいだった。もちろん多少の上りはあったけど、それは前々日の“試練”を乗り越えた二人にはそれほど記憶に残るものではなかったようだ。
これで、A子は確実に進化した。A子の自転車能力は充分に満足すべきレベルまで進化した。B夫にとってもそれはとても嬉しいことだった。(もちろん彼の方には反省すべき点はあったが…)
ただ、ひとつだけ、A子の心が満足していないものがあった。
克服しなければいけない課題。
あのことだ。
そう、ビンディングペダル…。
そして、この河口湖へのツアーの1年後、彼女はきっちりとその“借り”を返すことになる。
「A子のビンディングペダラーへの道」【詳細編】は次回の予定!
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