「ジャイアントホープ」救出作戦!(「ジャイアントホープ」危機一髪!【後編】)
つい先月のある木曜日、B夫はとある任務の最中、愛すべきクロスバイク「ジャイアントホープ」を秋葉原の駅近くに駐輪した。任務が終了し、駐輪場所に戻ってみると…「ジャイアントホープ」の姿がない!
B夫はあまりのショックでしばしその場所に立ちすくんだ。
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ふと、我に帰った。
あまりの驚きと落胆で、しばし思考停止状態に陥ったものの、B夫の脳内でやっとのこと“緊急事態対処プログラム”が始動しはじめた。
ロスした時間は約30秒。だがまだ打つ手はあるはず…。
決してあきらめない。
これこそが秘密捜査官訓練所で徹底的に教え込まれたテクニックの神髄だ。B夫はそのことを思い出すと、危機回避のセオリー通り、まずは犯人が残した手がかりがないか、目を皿のようにして現場付近の捜索をはじめた。
あ、その前に衛星画像だ。
衛星画像で時間を遡れば、犯人が「ジャイアントホープ」を連れ去ったその瞬間の様子がわかるはず…そう思って技術部のA子捜査官に電話をしようとしたが、思いとどまった。
今日はA子は外出中だ(もちろん別の任務だ)。誰もいない支局では衛星画像処理ができない!
えぃ、仕方ない、伝統的手法で捜査をするか…。
「ジャイアントホープ」を駐めておいたのは、まさにこの場所だ。そう、このあたり。
何か手がかりは……
血痕もない。何かの破片も見あたらない。当然のことながら争いのあった形跡もない。ただ「ジャイアントホープ」のみがこつ然と姿を消している。まるで神隠しのようだ。見事ともいえる仕事っぷりだ。
うむ、犯人は相当の手練れだ。少なくともそれは読み取れる。
さらに現場を丹念に検証する。
だが、何もない。何の証拠も、手がかりも見あたらない。
こ、これは難事件だ。本部に救援を要請…
そう思ったまさにそのとき、B夫の視界の片隅にあるものが目に入った。
看板だ。何の派手さもない、デザイン性も感じられない、あくまで事務的な看板だ。
このあたりの電気店のものでないことはすぐに見てとれる。
な、なに…えーと…
そう、その看板は千代田区が設置したものだった。
「自転車放置禁止地区…」
そんな文字がB夫の目に飛び込んでくる。
「放置された自転車は撤去…」
そんなことも書いてある。
さらにその看板には、秋葉原一帯の地図が描かれている。地図内に赤い斜線で強調されたエリアがある。今まさにB夫が立っているその場所は、完全にその“赤い斜線地区”に含まれている!
え、そ、そうか…。そういう可能性もあるな。
B夫はある種の憤りを覚えながらも、わずかながら「ジャイアントホープ」救出の可能性が出てきたことに安堵の思いを抱いた。
悪意を持ったテロリストの仕業であれば、今後の展開は難航が予想される。場合によっては、命を賭けて敵のアジトへと決死の突入をしなければならないかもしれない…。
だが、千代田区がやったことであれば、秘密捜査官としての肩書きを使う必要すらない。
ただ単に善良な市民を装えば良いこと。多少面倒くさい書類に記入しなければならないかもしれないが、手間としてはそんなものだ。「ジャイアントホープ」はほどなく自分のもとへ戻るはず。
それにしても、あの2本の強力ロックを打ち破るとは大した技術力。
B夫はあらゆる事態を想定して、決して安くはなかった強力ロックを導入したのだ。
1本は鎖タイプ。秘密結社級の破壊装置を持ってすれば簡単に切断できるものの、市販の金ノコ程度ではおそらく切断に小1時間はかかるだろう。
そしてメインロックとなるもう1本はさらに強力なもの。直径約3cm、長さ約1メートル20センチのその強力ロックは見た目からして頑丈そうで、気の弱いこそ泥なら、見た瞬間に破壊をあきらめること確実だ。
千代田区の自転車撤去実行部隊はあなどれない…。もしも千代田区が本当にそれをしたとするなら…。
だが、まだ犯人は千代田区と決まったワケではない。“思いこみ”こそが捜査官の敵となることがある。そう、まずは確認だ。
看板には自転車保管場所の場所は描かれているが、連絡先は書いていない。当然の推量の結果として千代田区役所がまずは捜査の対象となる。
通常型携帯で区役所に電話をする。
電話が何度か転送され、担当と思われる部署の人が電話に出る。
B夫は状況を説明した。場所を聞かれたので正確に場所を答える。
しばらく間があった後、彼の答えはB夫の予測(期待)を裏切るものだった。
「その地区では今日は自転車撤去はしていませんよ。」
「え、本当に間違いないですか?」
「ええ、間違いありません。」
彼の答えはあくまで非情だった。彼はB夫の自転車をそこらの乗りっぱなしのママチャリと同じに考えているのだろう。あくまで事務的な対応だ。もっとも彼が「ジャイアントホープ」の重要性を知るはずもないが…。
B夫は他の可能性に頭をめぐらせながらも落胆は隠せない。簡単な礼を言うと電話を切る。捜査は振り出しだ。
盗難の可能性が高くなった。しかもこの強力ロックを打ち破っての盗難だ。素人のはずがない。
あぁ、「ジャイアントホープ」よ、どこへ行ったのだ? 教えてくれ、誰か!
誰か?
そう、誰かに聞けばいい。何らかの手がかりが見つかるかもしれない! あきらめは禁物だ!
そう頭を切り替えると、B夫はすぐ目の前の電気店を見上げる。
ちょうどその大型電気店では街頭での呼び込みを行っている。
女性が1人、さほど興味の沸かない呼び込み用のセールスポイントを口走っているが、もう一人、店員と思われる男性が店内と路上を行き来している。明らかにアルバイトの学生ではない。主任クラスと思えるようなある種の貫禄がある。
その男性なら何かを知っているかも…そんなインスピレーションを感じたB夫は、彼に聞き込みを開始した。
出てきた答えは驚くべきものだった。
彼は犯行現場を見たという。ちょうどその場所に居合わせたという。
「トラックで来た男性3人組がなにやら苦労してロックを切っていましたよ。かなり手間取っていたみたいです。時間かかってましたけど。あ、あの自転車でしたか…。」
「で、その人たちはどんな感じでした? そう、何か特徴でも何でも教えてください。」
B夫は少しの情報でも得ようとさらに質問をする。
(凶悪なテロ組織の可能性がある。店員や警備員に被害が出なかったのがなによりだ、と思ったがそれでは相手を動揺させることになる。そのことはあえて口には出さない。)
「えーと、確か、青いつなぎのようなものを着ていましたかね。」
青いつなぎ…キーワードがひとつ出た。確かに彼は犯行現場を間近で見ていたようだ。まだそれほど時間も経っていないからか記憶も鮮明なようだ。
「あ、そうそう。その人たち、腕章をしていましたね。」
「確か…千代田区と書いてあったような。」
出た!決定的証拠!
やはり千代田区だ!「ジャイアントホープ」は撤去されたのだ!
B夫は親切な電気店主任に丁寧にお礼を言うと、早速次の捜査に取りかかる。
もう一度千代田区役所に電話をする。先ほどの部署につないでもらう。もう一度確認してもらうためだ。
だが、もし、千代田区が本当に今日自転車撤去をしていないとなると、千代田区を装った自転車窃盗組織が存在することになる…そうなったら非常に厄介だ。本部に警告を出してもらわないと…そしてブログでもそのことを広めないと…。
先ほどの自転車回収部門の担当者が再び電話に出た。
なんとか頼み込んで、撤去作業がなかったのかどうか、もう一度確認してもらうよう要請する。電気店主任から聞いた情報も付け加える。
あまり乗り気ではないような対応だが、B夫の勢いに押されたのか、ちょっとお待ち下さいとの言葉のあと、数十秒の沈黙がある。B夫はなんとか冷静さを保ちながら、再び彼が電話口に戻るのを待つ。
「あ、秋葉原の万世橋のすぐそばですよね。今日やったみたいです。自転車回収。」
ついに真相究明だ!「ジャイアントホープ」は戻って来る!
B夫は思わず大型電気店に投げキッスをしたい気持ちになった。だが立場がそれを許さない。代わりに心の中でもう一度電気店主任にお礼を言うと、「ジャイアントホープ」回収のため、自転車保管場所へと向かった。
待ってろ「ジャイアントホープ」、今迎えに行ってやるからな。
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電気店主任の証言、そして区役所の担当者の言葉は本当だった。
「ジャイアントホープ」は、自転車保管場所の片隅で、寂しそうにB夫を待っていた。心細かったろう…。でももう大丈夫。まさに感激の再会だ。
人間の目には見えないが、確かに「ジャイアントホープ」は泣いていた。B夫にはわかる。
ただ、国家の組織は、文字通りタダでは「ジャイアントホープ」を返してくれなかった。
4,000円という“身代金”が必要だったのだ。B夫は渋々要求に応じた。これ以上「ジャイアントホープ」に辛い思いをさせないためだ。
でも良かった。これですべて元通り。失ってみてはじめてわかる、大切さ。
駐輪は注意しないと…。まさに今後の自転車選びにも影響を及ぼしかねない、真昼の大事件だった。
ちなみに、強力ロック2本は完璧に切断されていた。
話を聞いたが、やはり“自転車回収実行部隊”は特殊装備を持っているとのこと。担当者は「電ノコ」という表現を使ったが、それでもこの2本のロックの切断は結構大変だったようなニュアンスだった。
この事件の後、B夫はさっそく新しいロックを購入した。
もちろん、もっと強力なヤツだ。
うたい文句は「電ノコでも切れない!」。
フフフ、秘密捜査官は一度犯した失敗は二度とは犯さないのだ。次は電ノコでも切断できないゾ!これを切るには最先端テクノロジーの特殊装備が必要だ!二度とこんなことは起こさないからな!
「ジャイアントホープ」、許してくれ。オレがハンパなことをした。次回は徹底的に守ってやるからな!
「ジャイアントホープ」は最強ロックを得て、さらに強靱な“街乗り用特殊クロスバイク”になった。まだまだ進歩し続ける…この世に“悪”と“矛盾”がある限り!
【「ジャイアントホープ」危機一髪!後編 完】
※この記事はあくまで事実に基づいて書かれていますが、その状況設定や描写の中に若干の妄想が含まれている可能性があります。ご注意ください。
結構長くなってしまいました。またもや「続く」かと…。でも無事で良かったです「ジャイアントホープ」。前編を読んで心配してくれた皆様、心配かけて申し訳ありませんでした。そして最後まで読んでいただいた方、ありがとうございました!
次回は、ロードバイクでのはじめての走行会参加!の予定
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