「ジャイアント・ホープ」危機一髪!【前編】
それはつい先月のある木曜日のこと。
連邦秘密捜査官としての顔を持つB夫は、急いで防弾チョッキ、いや違った、防寒用ジャンパーを身に付け、必要な装備品を、背中に背負う特殊仕様リュックに詰め込んでいた。
時間がない。
思わぬ不覚だった。
まさか寝坊した…など本部に報告できる訳もない。
適当な理由、それも正当に聞こえる極上の嘘を考えなければ…。B夫は焦っていた。
その日の朝は、番狂わせから始まった。
すでに予定より40分も遅い。その理由はここでは詳しく書かないが、睡眠時間の管理に失敗したとだけ書いておこう。秘密捜査官としてはあるまじき失態だが、失敗を嘆いている暇はない。常に前進し続ける…それこそが捜査官の使命なのだ。
いずれにせよ、事態は逼迫していた。もうすでに連邦捜査局世田谷B地区支部を出発しなければならない時間を過ぎている。だが装備に不備があっては大変だ。後々の任務に差し支える。
こんな時こそ落ち着いて…と彼は自分に必死で言い聞かせていたのだ。
やがて、通常の約4分の1の時間で出発準備を完了したB夫捜査官は、いつもの相棒「ジャイアントホープ」ことジャイアント・エスケープR3を自転車ハンガーから引っ張り出すと、急いで飛び乗り、いきなり250ワットを超える出力でペダルを踏み込んだ。
ウォームアップをしている余裕などない。すぐさまケイデンスは90を超える。
本来は適切なウォーミングアップをすることで、後々のパフォーマンスが向上するのだが、今日ばかりはそんな余裕などない。やけに気合いの入ったクロスバイクが一台、渋滞するクルマたちを尻目に時速30km/h以上で細い幹線道路を駆け抜ける。早くも心拍数は上がりぎみだ。
第一の目的地は秋葉原。そこまでは「ジャイアント・ホープ」で行く。そこからは自転車を降り、筑波行き特急電車「つくばエクスプレス」に乗る。任務予定地は筑波駅からほど近い場所にある研究施設。連邦機密なので任務の内容を公開する訳にはいかないが、今後の連邦捜査局の命運を握るかもしれない重要な任務となる。
秋葉原まで電車でなく自転車で行く理由?
それは敵の追跡を阻止するためだ。健康のため…というのはあくまで第3、第4の理由でしかない。電車やバスでは敵に容易に後を付けられる。クルマでも同様だ。機動力の乏しい乗用車では敵のスクーターから逃げ切れる道理がない。
だが、自転車はそんな意味でも理想的だ。機動力は抜群。原付並みの速度を出せる一方、その小ささを活かしどんな細い隙間にも入っていける。歩道に逃げ込んだり、一方通行を合法的に逆行することさえ可能だ。命知らずな敵の特殊部隊に万が一追われることがあったとしても、自転車でなら逃げ切れる。
そう、自転車は連邦捜査局にはなくてはならない万能な交通手段だったのだ。
幸い敵に尾行されている気配はない。
B夫はロードバイク並みの速度で休むことなくクロスバイクを走らせる。
出発は遅れてしまったが、これならさほど遅れずに秋葉原に到着することができそうだ。B夫はほっと胸をなで下ろした。
11月も中旬なのに暑い。汗が出る。自転車は自分自身がエンジンとなるため、季節を問わず実は暖かい乗り物だ。
話はそれるが、スポーツ自転車に乗らない人にはそのことがわからないらしく、この季節になると「そんな格好じゃ寒いでしょ…」とか、「もっと上に何か着ないと風邪を引くよ…」などと言われることがあるが、それこそ、大きなお世話だ。これ以上暑くなっては不快で仕方ない。東京で自転車に乗る限り、どんなに寒くてもそれは最初の5分だけだ。特に暑がりのB夫はいつもそんなことを感じていた。
やがて「ジャイアントホープ」は秋葉原に到着する。
良かった。遅れはほんの5分だけだ。これなら任務遂行に支障はない。
B夫はある大型電気店の前のガードレールに「ジャイアントホープ」を極太ロック2本で固定すると、「つくばエクスプレス」の駅へと早足で向かう。標準型携帯を取り出し、別の支局からの相棒にほどなく待ち合わせ場所に到着することを告げる。
全てはうまく行く。全く問題ない。B夫はどうやら朝の番狂わせから立ち直りつつあった。時刻は午前10時5分過ぎ。まだまだ朝の慌ただしい雰囲気の残る秋葉原駅の雑踏へとB夫は消えて行った。
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任務も無事終了した。すべては順調だ。筑波の研究施設での任務を終え、B夫は再び秋葉原駅へと戻ってきた。
時刻は午後2時半。多少空腹感がある。そろそろ遅い昼食を摂った方がいい。
B夫はそんなことを考えながら、秋葉原駅の改札を出る。
このまま「ジャイアントホープ」に乗ってどこかのレストランを探すか…。B夫は、「ジャイアントホープ」が駐輪されている大型電気店前を目指す。
任務に気を取られて忘れていたが、「ジャイアントホープ」は無事だろうか…。朝急いでいたとはいえ、極太ロック2本で厳重にガードレールに固定してきた。素人レベルの機材では破壊は不可能なはず。きっと大丈夫。そう思い直し、ちょっとだけ早足で大型電気店前へと歩く。
だけどなんだか胸騒ぎがする。本当に相棒「ジャイアントホープ」は無事だろうか……?
この日に限って、B夫はなにやら嫌な予感を感じていた。そもそも朝の出だしがいけなかった。その後しっかりと任務は遂行した。だから最悪の事態は避けられた。だけど何かがしっくり来ない…。その思いはまだ続いていた。
やがてB夫は万世橋の交差点へと出る。
「ジャイアントホープ」はあの大型電気店の前に駐めておいたよな。
あれ、確かあそこだったよな…。
B夫は青信号に変わるのももどかしく、交差点を小走りに渡る。
大型電気店の前だ。
確かにこの場所だ。
な、ない!
え、「ジャイアントホープ」がいない!!!
B夫は立ちすくんだ! あたりを見回した。もちろんどこにも「ジャイアントホープ」の姿が見えない。影も形もない!
急いでいたからといって、場所を間違えるはずもない。
確かにこの場所、このガードレールに極太ロック2本で固定したはず…。
その場所のすぐ前では大型電気店が街頭キャンペーンを行っていた。キャンペーンガールが、B夫の驚きと落胆とはあまりに対照的な声と雰囲気で街行く人に呼び込みを行っている。
約2年近くもの間、忠実な相棒であり、友でもあり続けた「ジャイアントホープ」。幾多の感動を共有してきた「ジャイアントホープ」が、秋葉原の雑踏の中、こつ然と姿を消してしまった!
約20秒間、B夫は何もすることができず、ただその場に立ちつくしていた。
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【次回へ続く!】
さぁ、困ったことになった。果たして「ジャイアントホープ」は???
※この記事はあくまで事実に基づいて書かれていますが、その状況設定や描写の中に若干の妄想が含まれている可能性があります。ご注意ください。
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