再録10:参考になる1冊 | Hiroshiのブログ

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これは「参考になる1冊」とすべきだろう。特に影響を受けたということはない。

 

 

『中華民族の多元一体構造』

費孝通編纂、風響社、2008年初版。

 

反論満載になる本だが、これが現在の中国の《中華民族》のイデオロギー的定義。著者らの結論は編者が最後に語る以下の通りだと理解した。

 

『漢人は華夏民族を主体として、不断にその他の少数民族を吸収、受け入れて次第に形成され、発展してきた。華夏族それ自身もそれぞれの少数民族により相互に同化、融合して形成されてきた… 少数民族は漢族に変わりうるし、漢族も少数民族に変わりうるのである』

著者らはそのことを論証する為に様々な例を挙げ、漢族が少数民族になり、また漢族と少数民族の間の融合の例を挙げる。しかし、その努力が「最初からある結論」に向かっての論証であるという感を歪めない。

 

著者に対する1つの批判として「中華民族というのは、政治的な概念であって、民族学上の名称としては相応しくない」というのがある。それはその通りだが、誰しも自分の立ち位置でしか物を考えられないという限界がある。そのことに対して、歴史家(『スペインとイスラム;あるヨーロッパ中世』の著者)であり、かつ政治家でもあったサンチェス・アルボルノスの言葉が思い出される。

『…私の作品も、将来修正を余儀なくされることだろう。すべての歴史の専門書は、その修正を享受し、またそれに苦しむものである。 歴史が永遠の生成と死-新たな生を与える死-の学問である以上、それに似せて、それにかたどられて生まれた実りも、同様の輪郭を持っているのである…』

歴史学者、民俗学者に限らず、人を研究対象とする研究者は、その限界故に『修正(批判)を享受し、またそれに苦しむ』のだ。

 

もともとこの本を読むきっかけとなったのがあの昆明でのテロ。 ウイグル族の中国における立場は中国が「中華民族」と呼ぶものの中に彼らがしっくりと収まれないことに原因があると思われる。そしてこの「中華民族」という概念を既定した重要人物の一人がこの本の主要な著者である費孝通氏。
 

<データーベースとして>

1953年の第一回全国人口調査において、自己申告により登録された民族名称は全国あわせて400余りに達したが、現在便宜的に民族は56とされている。(中国大使館HP)

https://www.mfa.gov.cn/ce/cgosaka/chn/zt/zggk/t536214.htm