『銃・病原菌・鉄』
ジャレド・ダイヤモンド、草思社、2000年初版。
彼は初期には鳥類の研究者であった。そしてニューギニアでの野鳥のフィールドワークをしている時、ニューギニアの政治家ヤリが著者に問いかけたことが、この分野に入るきっかけだったという。その言葉とは。
『白人とニューギニア人の文明の発達度の違いは何によるのか?』
そして彼はそれまで言われていた、
『民族によって歴史が異なる経路を辿ったのは、民族間の生物学的差異というのは間違いであると確信した』更に、
『(少数のスペイン軍がインカを)征服出来た。それらの直接の要因とは、スペイン人がヨーロッパからもちこんだ病原菌であり…更に技術(特に武器)であった』とする。冒頭に彼の結論が書かれている。
『ヨーロッパ人がアフリカ大陸を植民地化できたのは人種的な差があったからではなく、地理的偶然と生態的偶然の賜物であると』つまり、『大陸の大きさ、東西に長いか、南北に長いか。栽培化や家畜可能な野生動物がいるか等』
それを歴史学のみならず、進化生物学や分子生物学、地質学、考古学、さらには言語学などの様々な手法を用いて迫った。
ここまで聞くと著者は環境決定論者のように聞こえるだろう。しかしエピローグでそうではないことを明瞭に示す。
もし環境が全てを決定するなら何故、肥沃三日月地帯が最初の飛躍のみならずその後の歴史でもリードしなかったのか? 何故中国、世界最古の農耕をスタートし、かつ紀元前2世紀以後何度かの中断はあれ、統一国家を維持してきた中国が世界中を植民地化しなかったのか?
これに対する著者の意見には同意できないが、それに対しては別の『イスラム世界はなぜ没落したか?』を書いたバーナード、ルイスの意見に同意する。つまり、末期のイスラーム世界が外部の文化や学問に対し全く興味を失っていったから。
話を元に戻すと、
「農耕民を狩猟採集民より有利な立場に立たせた条件の1つは… 人口の緻密な集団を形成できたこと」
それが武器などの技術の発達を促し、更に牧畜は様々な病原菌(人畜共通病)に対する免疫を獲得した。 それは、<集団感染症は、狩猟採集民や焼き畑農業の集落ではびこり続けることは出来ない>から
また、小規模血縁集団から首長社会へと大きくなる過程で、首長の存在や権威を正当化するためのイデオロギーが必要となる。その点において宗教こそピッタリのものだったのだろう。社会が1つの宗教を共有することで、赤の他人同士が、お互いに殺し合う事なく一緒に暮らす為の下地が出来たとする
つまり、食糧生産=農耕をはじめたら人口が増大し、それに伴い、(初期に多くの犠牲を伴いながらも)伝染病に強くなり、さらに人口の集中は様々なイデオロギー(宗教)や技術の発達を促す。そのようなことは狩猟採集民の集団には起こらない。これが両者の力の差を生み、農耕民は進出する先で狩猟採取の先住民に遭遇すれば彼らを追い出す(あるいは民族浄化する)ことが出来る。
以上、著者の考えに全面的に同意出来るわけではないが、それなりに納得しうる論理性がある。個々のデーターの信憑性や、解釈には注意が必要だが全般的には信頼性が高いと思う。(<これについては、その後彼のデーター採取が恣意的であるとの意見も聞くが?)
しかし、なにより評価するのは難解ではないこと。衒学的ではないという点。つまり読者が彼の論理の展開を追体験できるという最もサイエンスで重要な手続きを踏んでいる点だ。それが思想やイデオロギー系の本より信頼できる。
<データーベースとして>
一年生植物の野生種は予測不能の天候異変に対応する為に、全ての種子を同じタイミングで発芽させない。さもないと、発芽した自分の子孫が旱魃や霜でやられてしまい、種の存続が危ぶまれるから。 栽培種ではこの発芽抑制メカニズムに変異を持ち、一斉に発芽させるミュータントを入手出来るようになって栽培化された