建物の賃貸借契約においては、通常その使用目的というものが決められています。

 

 

たとえば、住居に使用するためという目的で借りた建物を、不動産会社の事務所として使用した場合は、どうなるでしょうか?

 

 

また、倉庫として借りた建物を使って、飲食店を開業してしまった場合はどうなるでしょうか?

 

 

 

<目次>

1.賃貸建物の使用目的について

2.使用目的違反の場合、どうなるか?

3.今日のまとめ

 


1.賃貸建物の使用目的について

 

民法では、賃貸借契約において、借主は、契約又はその目的物の性質によって定まった用法に従い、その物の使用及び収益をしなければならないと定めています(民法616条・594条)。

 

 

したがって、建物の借主は、この建物の用法を守って目的物を使わなければならないという義務を負っていることになります。

 

 

通常、建物賃貸借では、契約において、住居、店舗、事務所など、その賃貸建物の使用目的(用法)が定められます。

 

 

たとえば、「借主は、本件建物を住居としてのみ使用することとし、その他の目的で使用することはできない」といった趣旨の文言が、建物の賃貸借契約書に入れられることがあります。

 

 

このように、借主が、使用目的(用法)を守る義務を負っているのは、建物はその使用方法によって経年劣化の程度が違ってきたりしますし、使用目的の違いによって賃料の金額にも影響してくる問題ですので、貸主・借主間の信頼関係にとって、使用目的は重要な事項であると考えられるからです。

 

 

したがって、たとえば、借主が建物を住居という使用目的で借りた場合には、当然住居としてしか使用することはできず、それを店舗にしたり、会社の事務所として使用することは、契約違反になるというわけです。

 

 

ですから、こうした使用目的違反(用法違反)があった場合に、貸主としては、違反している借主に対して、本来の使用目的に沿って使用するように求めることができることになります。

 

 

問題は、使用目的違反があったとして、貸主は、借主との間の賃貸借契約を途中で解除して、違反した借主に対して、貸している建物の明渡しの請求(出て行ってくれと求めること)ができるかどうか、という点です。

 

 

2.使用目的違反の場合、どうなるか?

 

この点、確かに、借主が使用目的に違反した場合には、上記のとおり賃貸借契約の債務不履行(義務違反)ということになります。

 

 

ただし、不動産の賃貸借契約においては、借主にわずかな義務違反があっただけで、法律上貸主が契約の解除及び明渡しの請求ができるということになると、借主としては自分の住居や営業の拠点を失ってしまうことになりますので、借主にとってはあまりに不均衡な損失が発生してしまいます。

 

 

そこで、不動産賃貸借契約の世界では、信頼関係破壊の法理といって、借主にわずかな債務不履行があるだけでは、貸主は契約の解除を行うことはできず、賃貸借当事者間の信頼関係を破壊する程度の強い程度の債務不履行があった場合に、初めて契約の解除ができる、という解釈が行われています。

 

 

この信頼関係破壊の法理は、法律の条文で明確に定められているものではなく、裁判例等によって確立した法律の解釈です。

 

 

この理屈によれば、借主の建物の使用目的違反があっても、それが小さな違反に過ぎないような場合は、未だ信頼関係が破壊されていないとして、貸主からの解除は認められないことになります。

 

 

それでは、どの程度の違反があれば、信頼関係が破壊される程度の強度の債務不履行と評価されるのでしょうか?

 

 

この点は、借主の使用目的の違反の程度の大きさや、それによって貸主が被る不利益、近隣の住民への影響などを考慮して判断されることになります。

 

 

それでは、冒頭の事例で、住居として借りた建物で、不動産業の事務所として使用してしまったというケースはどうなるでしょうか?

 

 

これは、不動産業の事務所としての使用の態様にもよることになりますが、純粋に事務所として使用するのがメインであり、それほど多数の従業員や顧客がその建物内を出入りすることがなく、建物の損傷もほとんどないようなケースであれば、未だ信頼関係は破壊されていないとして、貸主からの解除は認められにくいとと思います。

 

 

それでは、倉庫として借りた建物で、飲食店を始めてしまった場合はどうでしょうか?

 

 

この場合、倉庫として使用する場合と、飲食店として使用する場合とでは、一般的には飲食店として使用した場合の方が建物の損傷は大きくなります。

 

 

飲食店の形態にもよるでしょうが、近隣の住民に与える影響も小さくありません(騒音や飲食物の臭気など)。

 

 

また、こうしたことを考慮して、一般的には、賃料も倉庫より飲食店として借りる場合の方が割高であることが普通です。

 

 

以上の点を考慮すれば、この場合には借主の違反の程度や貸主の被る不利益が大きいことなどから、信頼関係の破壊があるとされ、貸主からの契約解除及び明渡しの請求が認められる可能性は高いと思われます。

 

3.今日のまとめ

 

そこで、今日のポイントは,

 

建物の使用目的に違反した場合、違反の程度によっては契約を解除されるおそれがある

 

 

ということです。

 

 

中小企業などが建物を借りる場合、営業方針の変更などがあり、それまでオフィスとして使っていた建物を、一部店舗として使用したい、などということもあるかも知れません。

 

 

そのような場合、必ず契約書に記載された「使用目的」に立ち返る必要があります。

 

 

そして、勝手な解釈をするのではなく、やはり使用目的を一部でも変更したい場合、貸主にきちんと打診し、許可を得るというのが王道です。

 

 

不動産賃貸借は一般的には長期間続くものですし、賃主ともめてしまうと会社の営業にも支障が出かねません。

 

 

やはりきちんと契約書に立ち返って、誠実に対応することが求められていると思います。

 

 

 

 

 

 

 

 

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