第4室 第2話 EMT930という王様
第2話 EMT930という王様
~なぜ放送局は、この機械を選び続けたのか~
世の中には、美しい機械があります。
磨き上げられた木製キャビネット。
鏡のように輝くアルミパネル。
芸術品のようなフォルム。
しかし、EMT930は違います。
初めて見た人は、たいていこう言います。
「大きいですね。」
「重そうですね。」
「業務用ですか?」
そうです。
EMT930は、最初から「趣味のため」に作られた機械ではありません。
1950年代のドイツ。
EMT社が作ったのは、放送局のための機械でした。
そこに求められたものは、ただ一つ。
「絶対に止まらないこと。」
ニュースの途中で止まってはいけない。
クラシックの生放送で回転が乱れてはいけない。
毎日、何時間も、何十年も、同じように回り続けなければならない。
EMT930は、その使命のために生まれました。
だから、この機械には無駄がありません。派手さもありません。
ただひたすら、「今日も仕事をする。」という覚悟だけがあります。
私は、EMT930を見るたびに、昔の職人さんを思い出します。
黙っている。
自慢もしない。
しかし、頼めば必ず期待に応えてくれる。
気が付けば、何十年も同じ場所に立っている。
EMT930とは、そんな機械です。
不思議なことに、人は歳を重ねるほど、この機械に惹かれるようになります。若い頃は、新しいものに心が躍ります。
性能。スペック。速さ。
しかし、人生の後半になると、人は別のものを求め始めます。
* 信頼できるもの。
* 長く使えるもの。
* 一緒に歳を重ねられるもの。
EMT930は、その答えの一つなのかもしれません。
70年前に作られた機械が、今日も静かに回っている。それは、奇跡ではありません。
「本当に良いものは、時代を超える。」
という証明なのです。
そして、針を落とした瞬間。
EMT930は、何も語らず、ただこう言っているように感じます。
「さあ、今日も良い音楽を聴こう。」その一言だけで、十分なのです。
EMT930が愛される七つの理由
1. 放送局のために作られた。
2. 圧倒的な耐久性。
3. 安定した回転性能。
4. 高トルクの安心感。
5. 無骨な美しさ。
6. 何十年経っても現役である。
7. 持ち主と共に歳を重ねる。
EMT930の相棒たち
* EMT929トーンアーム
* EMT TSD15
* Ortofon SPU
* McIntosh MC275
* JBL
* Altec
EMT930が教えてくれたこと
* 良いものは急がない。
* 本物は静かである。
* 信頼は時間が育てる。
* 人生もまた、回り続けることに意味がある。
* 王様とは、最も長く人に仕えた者のことである。
最後の一文
「EMT930は、レコードを回しているのではない。」
「70年間、人々の人生の時間を、静かに回し続けているのである。」
次回予告
第3話「McIntoshの青い灯り。」
~なぜ人は、あの青いメーターに心を奪われるのか~
第3室7話 私が初めてオリジナル盤に出会った日
第7話 私が初めてオリジナル盤に出会った日
~一枚のレコードが、人生を変えることがある~
今でも、あの日のことを覚えています。
店の名前は忘れてしまいました。
しかし、その時の胸の高鳴りだけは、50年近く経った今でも忘れることができません。
棚に並んだ何百枚ものレコード。その中の一枚を手に取り、ジャケットを眺め、恐る恐る盤を取り出しました。
ラベルを見る。
刻印を見る。
もちろん、当時の私は何も知りませんでした。
RVGも知りません。
Earマークも知りません。
47West63rdの意味も分かりませんでした。
ただ、不思議なことに思ったのです。 「このレコードは、何かが違う。」と。
家に帰り、ターンテーブルに乗せ、静かに針を落とす。
スピーカーから流れてきた音は、今思えば、特別に良い音だったのかもしれません。
しかし、それ以上に覚えているのは、「自分だけの宝物を見つけた。」という感覚でした。
それから何十年。
気がつけば、レコードは増え、オーディオは変わり、多くの人との出会いがありました。
そして今、振り返って思うのです。
人生を変えたのは、あの一枚のレコードだったのかもしれない、と。
もし、あの日、あの店に入っていなかったら。
もし、あの一枚を手にしていなかったら。
今の私は、ここにいなかったかもしれません。
レコードは不思議です。ただ音楽を聴かせてくれるだけではありません。
時に、人を繋ぎます。
時に、人生を豊かにします。
そして時に、一人の人生の方向を、そっと変えてしまうことがあるのです。
だから今日もまた、私はレコードに針を落とします。
あの日の少年に会うために。
七つの気づき
1. 最初は、誰も知識など持っていない。
2. 一枚との出会いが、人生を変えることがある。
3. レコードは、人と人を繋ぐ。
4. 趣味は、人生の財産になる。
5. オリジナル盤は、人生のアルバムでもある。
6. ときめきに、年齢は関係ない。
7. 人生は、まだ続いている。
最後の一文
「人生は、何歳になっても、ときめくことができる。」
「そして私は、今日もまた、静かに針を落とす。」
オリジナル盤の部屋 完
第3室 6話なぜ復刻盤では駄目なのか
第6話 なぜ復刻盤では駄目なのか
~私たちは音を聴いているのか、それとも時間を聴いているのか~
時々、こう聞かれることがあります。
「同じ曲なら、復刻盤でもいいんじゃないですか?」
その通りです。
もし音楽を楽しむだけなら、現代の復刻盤は素晴らしいものがたくさんあります。
むしろ、ノイズも少なく、状態も良く、安心して楽しめるかもしれません。
では、なぜ私たちは、それでもオリジナル盤を探し続けるのでしょうか。
それは、音の違いだけでは説明できません。例えば、1960年にプレスされた一枚のレコード。
その盤は、60年以上前に作られました。
* マイルスが生きていた時代。
* コルトレーンが吹いていた時代。
* RVGが録音していた時代。
その空気を知っているレコードです。もちろん、レコードが記憶を持っているわけではありません。
しかし、不思議なことに、オリジナル盤に針を落とすと、どこか時間の流れが変わったような気がするのです。
復刻盤は、音楽を未来へ届けてくれます。
オリジナル盤は、私たちを過去へ連れて行ってくれます。
どちらが優れているという話ではありません。それは、旅の行き先が違うだけなのです。
だから私は、復刻盤を否定しません。
ただ、もし一度でもオリジナル盤に出会ったなら、きっとこう思うでしょう。
「私は音を聴いていたのではない。」
「あの時代を聴いていたのだ。」
と。
知って得する豆知識
オリジナル盤と復刻盤
* オリジナル盤 発売当時に製造された盤。
* 復刻盤 後年再発売された盤。
* 現代の高品質復刻盤は非常に優秀。
* オリジナル盤は「時代性」が最大の魅力。
五つの奥義
1. 復刻盤は悪くない。
2. オリジナル盤は時間を運ぶ。
3. 音質だけでは価値は決まらない。
4. コレクションは人生そのものである。
5. どちらを選ぶかは、自分の旅の目的次第。
最後の一文
「復刻盤は、音楽を届けてくれる。」
「オリジナル盤は、時代を届けてくれる。」
「そして私たちは、その両方を愛している。」
次回予告
第7話 「私が初めてオリジナル盤に出会った日」
~一枚のレコードが、人生を変えることがある~



