財布はその人のステータスを表すものなので、できるだけ高級に見えるものが選ばれる傾向があります。それを踏まえて、大人が選ぶ財布で一番主流なのが革製のものになってきますが、もちろん合成ではなく本革が好まれています。革が選ばれる理由としては、やはり時代を問わない、普遍的な高級感があるからではないでしょうか。財布だけではなく、革製品のもうひとつ代表的なものとして、バッグと靴が挙げられますが、革製品を扱うお店や工房などは、たいてい、財布 とバッグ、靴の3つを揃えています。バッグと靴も、やはり大人は本革のものが選ばれる傾向がありますし、「本革」というのは「大人」を象徴する材質であるといえますね。

しかも、流行などに左右されずいつの時代でも、本革の価値は変わらないというのも大きなポイントです。やはり流行というのは、若い世代の象徴であり、いつの時代も変わらない魅力を持ち続けるものが成熟した大人を表すアイテムとなっているのではないでしょうか。とくに、「お金」という実質的な富の象徴を収納して持ち運ぶものとしての財布は、本革のモノを選ぶことによって、裕福な大人というイメージを他社に対して発信することができる、と信じられている、というのが現状です。

さて、先程は、本革はずっと昔から普遍的に「高級である」というイメージを持ち続けてきたというお話をしました。だからこそ、その人の裕福さなどを表していると思われている財布は本革のものが選ばれるのですが、革製品の魅力というのは、その人を高級に、下品な言い方をすれば「お金持ちに見せてくれる」というのが本来の魅力でしょうか。革には、そういったステータスを高く見せてくれるというような、嫌な言い方をすればあざとい長所だけではありません。本革の最大の魅力は何と言っても、使い込むごとに革がこなれていって非常に味わい深いものになっていく、ということではないでしょうか。

 ぼくは溜息をついた。
 昨日、顔に魚のはらわたをぶつけられた遠子先輩は、ぼくのほうへふらりと倒れかかってきた。慌てて抱き留めると、意識を失っていた。
 そのまま気絶していてくれたらまだ良かったのだ。けれど、十分足らずで目を覚まし、白雪がやってきたと、すっかり怯えてしまい、
「こ、心葉くん、一人じゃ怖いでしょう? 大丈夫よ。わわわわたしが、幽霊も妖怪も入って来ないように、見張っていてあげるから」
 と、毛布を頭からかぶって、ベッドの向こう端に座り込んでしまった。
 あんなことがあったあとなので、半べそで震えているのを追い返すこともできず、
「見張られてたら気になりますから、とっとと寝てください」


 微笑するアイリスフィールに、セイバーは素直に頷いた。
 彼女の位置からでは、結局、少女の顔までは見えず、かろうじて母親譲りの銀髪を目に留めたのみだったが、それでも視野から消える間際に聞こえた甲高い笑い声は、たしかに歓喜に満ち溢れたものだった。それだけでも、遊び戯れていた父と子の仲睦まじさを察するには充分だった。
「忌褌なく言わせていただければ。私のマスターは、もっと冷酷な人物だという印象があったので」
 セイバーの言葉に、アイリスフィールは困り果てた顔で苦笑した。
「まぁ、それは無理もないわよね」
 召喚されてよりこのかた、セイバーはただの一度もマスターの切嗣から言葉をかけられたことがない。

 運良く誰にも出会さずに冬木大橋を渡って新都に入り、目指す市民公園まで着いたところで、ウェイバーは奥にある小綺麗な近代建築を指さした。
「本なら、あそこにいくらでもある――と、思う」
 すると、ウェイバーにのしかかっていた圧力がふわりと遠のいた。どうやらライダーは霊体のまま建物の中へと入っていったらしい。
 ――そうして、ひとり取り残されて待つこと三〇分あまり。訳の解らない脅威から解放されたウェイバーは、ようやく冷静に考えを整理する猶予を得た。
「……どうして、こうなる?」
 さっきまでの自分の醜態を思い返して、ウェイバーは頭を抱えた。いかに強力な存在であろうともサーヴァントは彼の契約者。主導権はマスターであるウェイバーこそが握っている。

「な、なにこれ」
 遠子先輩が目を丸くする。
「あら、お帰りなさい、遠子、心葉くん」
「一体、なにがはじまるの?」
「屋敷を壊すのに、準備や見積もりが必要でしょう?」
 麻貴先輩がけろりと答える。遠子先輩は焦って叫ぶ。
「ええっ、開発は、住民の反対運動で中止になったんじゃないの?」
「工場を建てるのはね。けど、個人の屋敷を処分するのはこちらの勝手でしょ? いるのかいないのかわからない白雪に、いつまでもびくびくするなんてバカバカしいわ。ぱーっと壊して、祟りなんかないって証明するのよ」
「そんな……っ、もし祟りが起こったらどうするの?」
「あら、遠子は祟りも幽霊も信じないんじゃなかったの?」