ぼくは溜息をついた。
昨日、顔に魚のはらわたをぶつけられた遠子先輩は、ぼくのほうへふらりと倒れかかってきた。慌てて抱き留めると、意識を失っていた。
そのまま気絶していてくれたらまだ良かったのだ。けれど、十分足らずで目を覚まし、白雪がやってきたと、すっかり怯えてしまい、
「こ、心葉くん、一人じゃ怖いでしょう? 大丈夫よ。わわわわたしが、幽霊も妖怪も入って来ないように、見張っていてあげるから」
と、毛布を頭からかぶって、ベッドの向こう端に座り込んでしまった。
あんなことがあったあとなので、半べそで震えているのを追い返すこともできず、
「見張られてたら気になりますから、とっとと寝てください」
微笑するアイリスフィールに、セイバーは素直に頷いた。
彼女の位置からでは、結局、少女の顔までは見えず、かろうじて母親譲りの銀髪を目に留めたのみだったが、それでも視野から消える間際に聞こえた甲高い笑い声は、たしかに歓喜に満ち溢れたものだった。それだけでも、遊び戯れていた父と子の仲睦まじさを察するには充分だった。
「忌褌なく言わせていただければ。私のマスターは、もっと冷酷な人物だという印象があったので」
セイバーの言葉に、アイリスフィールは困り果てた顔で苦笑した。
「まぁ、それは無理もないわよね」
召喚されてよりこのかた、セイバーはただの一度もマスターの切嗣から言葉をかけられたことがない。