を、yura*さんからいただきました。
yura*さん、どうもありがとうございます!
1.前の人が回した漢字に対して、自分が持つイメージは?
→ 桜 * 「儚い」
木 * 「沈黙」
土 * 「ぬくもり」
2.次の人に回す漢字3つは?
→ 「幸」、「空」、「紫」
3.大切にしたい漢字3つは?
→ 「夢」 * いつまでも持ち続けていたいもの
「情」 * 人情・・・ってやつですね。あと、情緒。
「真」 * 真理、真実。
4.漢字のことをどう思う?
→ 便利な記号。ある意味、アート。
5.最後に、好きな四文字熟語は?
→ 「順風満帆」 * 意気揚々と進んでいく様子が、好きです。
「山紫水明」 * 小学校の校歌に、この言葉がありました。
「初志貫徹」 * やり遂げる、って大事だと思います。
6.バトンを回す7人と、そのイメージする漢字は?
→ nabyさん * 「親」 とても親しみやすくて、やさしく包み込む感じがします。
アニーさん * 「鋭」 いろんなことを敏感に感じ、考える方だなと思います。
7人もいないなぁ・・・。
あと、特別に。
回してくださったyura*さん * 「優」 ほんわかとしたやさしさ。これに尽きます。
と、いう具合です。
バトン、お忙しかったらスルーしちゃってもOKですよ。
ため息は果てしなく続く。
春の日のよく晴れた青空とは裏腹に、あたしは窓枠に寄りかかって小さな息を吐く。
何度も、何度も。
これぞまさに憂鬱。
「ため息ばっかついてると、寿命が縮むぞ」
後ろから、茶化すような彼の声が聞こえた。
「何それ、うそでしょ」
振り返り、あたしは抑揚のない口調でそう返す。
彼はあたしの隣にやって来て、同じように窓枠に肘をついた。
「何だよ、いい天気じゃん」
天気がいいのは一目瞭然だけど、その口ぶりの意図がいまいち理解できなくて、あたしはぼんやり彼を見つめる。
すると彼は、そんなあたしの表情を見ていきなり笑い出した。
「虚ろな目してんじゃねーよ」
虚ろな目もしたくなるわ。
そう言い返してやりたかったけれど、敢えて何も言わずにあたしは空に目を向ける。
本当に、雲ひとつない真っ青な空。
それにしても、何であたしはこんなに憂鬱なのか?
実のところ、自分でもよくわからない。
だけど確実に、心はこの空のようにすっきりと晴れない。
全く厄介な心。
「ブルー、だな」
「え?」
彼の呟いた言葉に、あたしは即座に反応する。
「空が? それとも、あたしが?」
「両方」
瞳を空色に反射させたまま、彼は言葉を続ける。
「もっとも、空のブルーはきらきら輝いてるけどな」
悪かったわね、輝いてなくて。
あたしは少し膨れっ面になりながら、心の中で悪態をつく。
そう。あたしのブルーは、「憂鬱」のブルー。
塞ぎこんでいてちっとも魅力的じゃない、くすんだ色。
自分でわかってるだけに、ますます落ち込んでいく。
「ブルーにはさ、いろんな意味があるんだよ」
項垂れがちな頭に、歌うような彼の声が降ってくる。
「・・・例えば?」
「メランコリーはもうお馴染みだけど、陰気、猥褻、酔っ払う、などなど・・・」
「何だかマイナスな意味ばかりじゃないの」
本当に、救いようがないくらい嫌な印象のイメージだらけ。
あたしのコメントに、彼は「ハハッ」と短く笑った。
「でも、そう悪いことばっかじゃないんだよ。
厳格とか優秀とか、そういったいい意味もちゃんとある」
フォローするような彼の説明も、ブルーなあたしには届かない。
「ふぅん」
やっぱり、青は憂鬱。
空はまるで、大きなハケで塗りなぞったかのように、均一な青。
どうして空は、こんな色をしてるんだろう。
そしてこの色は、どこまで続いてるんだろう。
「はるか遠くの、未知なるもの」
沈黙の漂う空気の中、突然、彼はぽつりと呟いた。
あたしは鳩が鉄砲で撃たれたように、彼に顔を向ける。
彼は目を細めて、ますます高く、眩しい太陽のそびえる空を仰いでいる。
「青い海。青い空。
どこまで続くかわからない、誰も知らない未知なる世界。
だからこそ不安で、だからこそ尊いんじゃないか?」
「未知なる世界・・・」
彼の言葉を反芻するあたし。彼はふっと表情を和らげた。
そう、やっぱり青は憂鬱。
だけどその憂鬱は、まだ見えない未来への憂い。
ため息の正体がわかったとき、あたしの憂鬱はようやく出口を見つけ出せそうな気がした。
春の日のよく晴れた青空とは裏腹に、あたしは窓枠に寄りかかって小さな息を吐く。
何度も、何度も。
これぞまさに憂鬱。
「ため息ばっかついてると、寿命が縮むぞ」
後ろから、茶化すような彼の声が聞こえた。
「何それ、うそでしょ」
振り返り、あたしは抑揚のない口調でそう返す。
彼はあたしの隣にやって来て、同じように窓枠に肘をついた。
「何だよ、いい天気じゃん」
天気がいいのは一目瞭然だけど、その口ぶりの意図がいまいち理解できなくて、あたしはぼんやり彼を見つめる。
すると彼は、そんなあたしの表情を見ていきなり笑い出した。
「虚ろな目してんじゃねーよ」
虚ろな目もしたくなるわ。
そう言い返してやりたかったけれど、敢えて何も言わずにあたしは空に目を向ける。
本当に、雲ひとつない真っ青な空。
それにしても、何であたしはこんなに憂鬱なのか?
実のところ、自分でもよくわからない。
だけど確実に、心はこの空のようにすっきりと晴れない。
全く厄介な心。
「ブルー、だな」
「え?」
彼の呟いた言葉に、あたしは即座に反応する。
「空が? それとも、あたしが?」
「両方」
瞳を空色に反射させたまま、彼は言葉を続ける。
「もっとも、空のブルーはきらきら輝いてるけどな」
悪かったわね、輝いてなくて。
あたしは少し膨れっ面になりながら、心の中で悪態をつく。
そう。あたしのブルーは、「憂鬱」のブルー。
塞ぎこんでいてちっとも魅力的じゃない、くすんだ色。
自分でわかってるだけに、ますます落ち込んでいく。
「ブルーにはさ、いろんな意味があるんだよ」
項垂れがちな頭に、歌うような彼の声が降ってくる。
「・・・例えば?」
「メランコリーはもうお馴染みだけど、陰気、猥褻、酔っ払う、などなど・・・」
「何だかマイナスな意味ばかりじゃないの」
本当に、救いようがないくらい嫌な印象のイメージだらけ。
あたしのコメントに、彼は「ハハッ」と短く笑った。
「でも、そう悪いことばっかじゃないんだよ。
厳格とか優秀とか、そういったいい意味もちゃんとある」
フォローするような彼の説明も、ブルーなあたしには届かない。
「ふぅん」
やっぱり、青は憂鬱。
空はまるで、大きなハケで塗りなぞったかのように、均一な青。
どうして空は、こんな色をしてるんだろう。
そしてこの色は、どこまで続いてるんだろう。
「はるか遠くの、未知なるもの」
沈黙の漂う空気の中、突然、彼はぽつりと呟いた。
あたしは鳩が鉄砲で撃たれたように、彼に顔を向ける。
彼は目を細めて、ますます高く、眩しい太陽のそびえる空を仰いでいる。
「青い海。青い空。
どこまで続くかわからない、誰も知らない未知なる世界。
だからこそ不安で、だからこそ尊いんじゃないか?」
「未知なる世界・・・」
彼の言葉を反芻するあたし。彼はふっと表情を和らげた。
そう、やっぱり青は憂鬱。
だけどその憂鬱は、まだ見えない未来への憂い。
ため息の正体がわかったとき、あたしの憂鬱はようやく出口を見つけ出せそうな気がした。
無事、帰って参りました!
いや~、よかったです沖縄。本当に。
滞在中はちょうどお天気もよかったので、楽しい気分で観光できました。
1日目は首里城に行きました。
せっかく沖縄に行くのであれば、首里城にお目にかかっておかないと!
ずーっと前からなぜかそう思っていたので、今回訪れることができて本望でした。
何のことはない、朱色をした普通のお城なんですけどね・・・。
2日目はバスツアーに参加して、那覇市から北へ向かいました。
てんこ盛りの内容を説明すると・・・
昔ながらの沖縄の暮らしを再現した琉球村
↓
透き通った青い海を眺望できる岬・万座毛
↓
世界一を誇るアクリルパネルで見るジンベイザメに圧倒された美ら海水族館
↓
パインの試食ができるフルーツらんど
↓
沖縄の自然がいっぱいの東南植物楽園
↓
沖縄の民芸品などお土産を取り揃えたプラザハウス
・・・といった具合です。
一番心に残っているのは、やっぱり水族館かな。
イルカのショーやマナティーも見ることができて、童心に帰れました。
あと、バスガイドさんもすごく印象的。
車内でのガイドの途中に、地元の民謡を何曲も歌ってくれるんです。
やさしいメロディーのアカペラが、沖縄らしさをより満喫させてくれました。
そして3日目・・・は、那覇空港で過ごしました。
夕方発の便だったけど、早めにチェックインしてラウンジでの~んびり。
飛行場を眺めたり、オリオンビールを味わったり。
ギリギリまであちこち観光するのもよかったけれど、
余裕を持って行動しようかなということでの得策(?)です。
そんな感じで、あっという間の2泊3日でした。
沖縄は、人が素朴であったかいです。
狭い道で後ろから追い越してくる子供たちは、必ず、「すみません」とひと声かけてくれます。
露天の売り子さんも、「買わせる」オーラがなく、のんびりやっています。
道を尋ねたら、みんな気軽に教えてくれます。
こんなにあたたかなのは、気候のおかげもあるのかもしれませんね。
だけど今回、沖縄ならではの問題も多からず目の当たりにしました。
嘉手納に構える大規模な米軍基地。
太平洋戦争の爪跡が、現実のものとして今でも残っています。
白い大きな建物と、グリーンの芝生。そして、戦闘機。
囲いに覆われた、その明らかに異質な風景を横目にしているとき、
バスガイドさんがこうおっしゃいました。
「沖縄の中に基地があるのか、基地の中に沖縄があるのか・・・」
地元の人は、今も基地と戦っているようです。
今回の旅では行けなかったけれど、
島の南部にはひめゆりの塔や平和祈念堂など
戦争に関わる場所がたくさんあります。
次に沖縄に来たときは青い海で泳ぎたい、という気持ちもありますが、
沖縄でしか目の当たりにすることのできない過去を知りに行くのも必要じゃないかな・・・
と、思ったりしています。
いや~、よかったです沖縄。本当に。
滞在中はちょうどお天気もよかったので、楽しい気分で観光できました。
1日目は首里城に行きました。
せっかく沖縄に行くのであれば、首里城にお目にかかっておかないと!
ずーっと前からなぜかそう思っていたので、今回訪れることができて本望でした。
何のことはない、朱色をした普通のお城なんですけどね・・・。
2日目はバスツアーに参加して、那覇市から北へ向かいました。
てんこ盛りの内容を説明すると・・・
昔ながらの沖縄の暮らしを再現した琉球村
↓
透き通った青い海を眺望できる岬・万座毛
↓
世界一を誇るアクリルパネルで見るジンベイザメに圧倒された美ら海水族館
↓
パインの試食ができるフルーツらんど
↓
沖縄の自然がいっぱいの東南植物楽園
↓
沖縄の民芸品などお土産を取り揃えたプラザハウス
・・・といった具合です。
一番心に残っているのは、やっぱり水族館かな。
イルカのショーやマナティーも見ることができて、童心に帰れました。
あと、バスガイドさんもすごく印象的。
車内でのガイドの途中に、地元の民謡を何曲も歌ってくれるんです。
やさしいメロディーのアカペラが、沖縄らしさをより満喫させてくれました。
そして3日目・・・は、那覇空港で過ごしました。
夕方発の便だったけど、早めにチェックインしてラウンジでの~んびり。
飛行場を眺めたり、オリオンビールを味わったり。
ギリギリまであちこち観光するのもよかったけれど、
余裕を持って行動しようかなということでの得策(?)です。
そんな感じで、あっという間の2泊3日でした。
沖縄は、人が素朴であったかいです。
狭い道で後ろから追い越してくる子供たちは、必ず、「すみません」とひと声かけてくれます。
露天の売り子さんも、「買わせる」オーラがなく、のんびりやっています。
道を尋ねたら、みんな気軽に教えてくれます。
こんなにあたたかなのは、気候のおかげもあるのかもしれませんね。
だけど今回、沖縄ならではの問題も多からず目の当たりにしました。
嘉手納に構える大規模な米軍基地。
太平洋戦争の爪跡が、現実のものとして今でも残っています。
白い大きな建物と、グリーンの芝生。そして、戦闘機。
囲いに覆われた、その明らかに異質な風景を横目にしているとき、
バスガイドさんがこうおっしゃいました。
「沖縄の中に基地があるのか、基地の中に沖縄があるのか・・・」
地元の人は、今も基地と戦っているようです。
今回の旅では行けなかったけれど、
島の南部にはひめゆりの塔や平和祈念堂など
戦争に関わる場所がたくさんあります。
次に沖縄に来たときは青い海で泳ぎたい、という気持ちもありますが、
沖縄でしか目の当たりにすることのできない過去を知りに行くのも必要じゃないかな・・・
と、思ったりしています。
3日間ほど、沖縄に行ってきます。
いわゆる、卒業旅行というやつです。
というわけで、3日間留守にします。
帰ってきたら、またお付き合いくださいませ。
本当は現地でも更新したいんですけど、
PC持って行くの重いし、
旅行のときくらいはお休みしようかな、なんて。
では、明日に備えて早めに寝ますzzz・・・
いわゆる、卒業旅行というやつです。
というわけで、3日間留守にします。
帰ってきたら、またお付き合いくださいませ。
本当は現地でも更新したいんですけど、
PC持って行くの重いし、
旅行のときくらいはお休みしようかな、なんて。
では、明日に備えて早めに寝ますzzz・・・
雨降りの昨日は終わり、今日は一転していいお天気。
すがすがしい春のはじめの朝に、あたしは植木鉢に水をやる。
ベランダに差し込む陽の光が眩しくて、軽く目を細める。
キッチンに立ち、真っ赤なりんごをひとつ、用意する。
表面をよく洗い、皮付きのまま、うさぎさんの形に切る。
なぜだか今日は、赤い皮の色を除きたくなかった。
いつもより早い時間に、彼が起きてきた。
「どしたの、りんご?」
うさぎさんりんごをガラス皿に盛り付けている様子を見て、目を瞬かせる。
「おはよう。今日はいいお天気よ」
振り返るあたしに、彼も一瞬戸惑った後、「ああ、そうだな。おはよう」といつもどおりに微笑みを返す。
「りんご、食べない?」
起きてすぐりんごを食べる習慣はあたしたちにはないけれど、今日は特別。
「ホント、いい天気だな。青空が気持ちいい」
「この植物たちも、ようやく花を咲かせられる季節ね」
開け放されたベランダの窓。
あたしたちはそのサッシの上に腰を下ろして、りんごを食べる。
ちょっとしたピクニック気分。
まだ少し冷たいそよ風が、彼の前髪を揺らす。
光が髪に透けて、その黒い色素を薄くさせる。
そういや出会ったときの彼は茶髪だったな・・・。
そんなことを思い出して、あたしはひとりでにやける。
「魂の一番おいしいところ」
突然彼は、呪文みたいにそう呟いた。
わけのわからないあたしは、目をぱちくりさせる。
そんなあたしを見て、彼は悪戯小僧みたいに笑う。
「谷川俊太郎の詩だよ」
「谷川俊太郎?」
「知らないの? 20億光年の孤独、とか」
「知ってるけど、詳しくは知らない」
「それを知らないって言うんだよ」
彼は物知りで、広い範囲でいろんな知識を蓄えている。
だから何も知らないあたしは、時々置いていかれたみたいでつまらない。
子供みたいに口を尖らせて拗ねるあたし。
するとなだめるように、彼は掌で頭をなでてくれる。
「『神様が大地と水と太陽をくれた
大地と水と太陽がりんごの木をくれた
りんごの木がまっかなりんごの実をくれた
そのりんごをあなたが私にくれた
やわらかいふたつの手のひらに包んで
まるで世界のはじまりのような
朝の光といっしょに』」
彼の口からすらすらと流れる美しい言葉に、あたしはうっとりとせずにはいられなかった。
「好きだろ、こういうの」
あたしの好みをよくわかってくれている。
そのことも同時にうれしくて、あたしは大きく首を振る。
「まさにこの瞬間のためにあるみたいな詩ね」
喜ぶあたしに、彼は満足そうにうなずく。
「この詩には続きがあるんだよ。聞きたい?」
「聞かせて」
「『何ひとつ言葉はなくとも
あなたは私に今日をくれた
失われることのない時をくれた
りんごを実らせた人々のほほえみと歌をくれた
もしかすると悲しみも
私たちの上に広がる青空にひそむ
あのあてどもないものに逆らって』」
「あのあてどもないものって、何だろうね」
あたしの疑問に、彼は小さく笑って答える。
「さあ、なんだろうね」
「あら? 何でも知ってるんじゃないの?」
「俺だって知らないことくらいはあるよ」
そして再び彼は、別に拗ねているわけでもないのにあたしの頭をゆっくり撫でる。
「りんご、食べる?」
彼に向かって、あたしはりんごの刺さったフォークを差し出した。
別に理由はない。ただ撫でられている感覚が気持ちよかっただけ。
すると彼はわざと、「おやっ」とでも言いたげの意外そうな目をする。
「『そうしてあなたは自分でも気づかずに
あなたの魂の一番おいしいところを
私にくれた』」
「何、それ?」
「だから、『魂の一番おいしいところ』。いただきます」
そう言って彼は、しゃりっと音を立ててりんごをかじった。
「毎日、こんな世界のはじまりだったらいいのにな」
あたしの魂の一番おいしいところを食べた彼は、そう言って「うーん」と伸びをした。
すがすがしい春のはじめの朝に、あたしは植木鉢に水をやる。
ベランダに差し込む陽の光が眩しくて、軽く目を細める。
キッチンに立ち、真っ赤なりんごをひとつ、用意する。
表面をよく洗い、皮付きのまま、うさぎさんの形に切る。
なぜだか今日は、赤い皮の色を除きたくなかった。
いつもより早い時間に、彼が起きてきた。
「どしたの、りんご?」
うさぎさんりんごをガラス皿に盛り付けている様子を見て、目を瞬かせる。
「おはよう。今日はいいお天気よ」
振り返るあたしに、彼も一瞬戸惑った後、「ああ、そうだな。おはよう」といつもどおりに微笑みを返す。
「りんご、食べない?」
起きてすぐりんごを食べる習慣はあたしたちにはないけれど、今日は特別。
「ホント、いい天気だな。青空が気持ちいい」
「この植物たちも、ようやく花を咲かせられる季節ね」
開け放されたベランダの窓。
あたしたちはそのサッシの上に腰を下ろして、りんごを食べる。
ちょっとしたピクニック気分。
まだ少し冷たいそよ風が、彼の前髪を揺らす。
光が髪に透けて、その黒い色素を薄くさせる。
そういや出会ったときの彼は茶髪だったな・・・。
そんなことを思い出して、あたしはひとりでにやける。
「魂の一番おいしいところ」
突然彼は、呪文みたいにそう呟いた。
わけのわからないあたしは、目をぱちくりさせる。
そんなあたしを見て、彼は悪戯小僧みたいに笑う。
「谷川俊太郎の詩だよ」
「谷川俊太郎?」
「知らないの? 20億光年の孤独、とか」
「知ってるけど、詳しくは知らない」
「それを知らないって言うんだよ」
彼は物知りで、広い範囲でいろんな知識を蓄えている。
だから何も知らないあたしは、時々置いていかれたみたいでつまらない。
子供みたいに口を尖らせて拗ねるあたし。
するとなだめるように、彼は掌で頭をなでてくれる。
「『神様が大地と水と太陽をくれた
大地と水と太陽がりんごの木をくれた
りんごの木がまっかなりんごの実をくれた
そのりんごをあなたが私にくれた
やわらかいふたつの手のひらに包んで
まるで世界のはじまりのような
朝の光といっしょに』」
彼の口からすらすらと流れる美しい言葉に、あたしはうっとりとせずにはいられなかった。
「好きだろ、こういうの」
あたしの好みをよくわかってくれている。
そのことも同時にうれしくて、あたしは大きく首を振る。
「まさにこの瞬間のためにあるみたいな詩ね」
喜ぶあたしに、彼は満足そうにうなずく。
「この詩には続きがあるんだよ。聞きたい?」
「聞かせて」
「『何ひとつ言葉はなくとも
あなたは私に今日をくれた
失われることのない時をくれた
りんごを実らせた人々のほほえみと歌をくれた
もしかすると悲しみも
私たちの上に広がる青空にひそむ
あのあてどもないものに逆らって』」
「あのあてどもないものって、何だろうね」
あたしの疑問に、彼は小さく笑って答える。
「さあ、なんだろうね」
「あら? 何でも知ってるんじゃないの?」
「俺だって知らないことくらいはあるよ」
そして再び彼は、別に拗ねているわけでもないのにあたしの頭をゆっくり撫でる。
「りんご、食べる?」
彼に向かって、あたしはりんごの刺さったフォークを差し出した。
別に理由はない。ただ撫でられている感覚が気持ちよかっただけ。
すると彼はわざと、「おやっ」とでも言いたげの意外そうな目をする。
「『そうしてあなたは自分でも気づかずに
あなたの魂の一番おいしいところを
私にくれた』」
「何、それ?」
「だから、『魂の一番おいしいところ』。いただきます」
そう言って彼は、しゃりっと音を立ててりんごをかじった。
「毎日、こんな世界のはじまりだったらいいのにな」
あたしの魂の一番おいしいところを食べた彼は、そう言って「うーん」と伸びをした。
あと1ヶ月でおしまいです。
年度末、って関係ない人にはそれほど重要ではないけれど
けっこうガラリと環境が変わるひとつの節目の時期でもあるので、
いつも3月から4月になると
何となく気持ちが引き締まります。
4年間の大学生活。
本当にあっという間でした。
入学前は
「4年も勉強しなくちゃいけないんだ~。しんどいな~」
とうんざりしていたのに、
いつの間にか月日は流れ、もう卒業・・・。
光陰矢のごとし、ですね。
でも、無駄に4年間過ごしたわけではありません。
サークル、ゼミ、旅行、習い事、バイトetc・・・
あれ、勉強は??
(ま、こっちはぼちぼちということで・・・)
楽しい思い出が次々とよみがえってきます。
だけどこんなふうに言えるわたしは、
けっこう恵まれているほうかもしれません。
「大学にいる意味がわからない」
「自分は何をしたいんだろう」
そう悩んで学校に来なくなったり
単位が足りなくなったりして留年する人が、
周りに何人かいます。
こういう人たちの存在は、
決して珍しくはないみたいです。
私の好きな伊坂幸太郎さんの小説に、
「人生はエスカレーターみたいなものだ」
というフレーズがあります。
その台詞を言ったおばあさんは、
「どうせ勝手に進んでいく人生なんだから
好きなことをして過ごせばいい」
という言葉を付け足していますが。
『人生はエスカレーターみたいなもの。
自分は止まっていても、いつの間にか進んでる。』
だからこそ、
ただぼんやりとそれに乗っているだけではいけないんです。
何も考えず、何もせず、
気がついたらこんなに時が過ぎていた・・・
年をとるのはかまわないけれど、
こんなふうに無駄に年をとるなんて、大損です。
悩んだり迷ったり。
勝手に進んでいくエスカレーターの上で、
それだってとても大切なことではないかと思います。
楽しく充実した日々を過ごせたのももちろんいいことだけど、
自分という存在とその未来について
試行錯誤を繰り返し、挫折や後悔のために
自己嫌悪に陥る日々・・・
その中にいる自分を責めることは、
必ずしも悪いことではないんじゃないかな。
今日もわたしは、エスカレーターの上にいます。
まだ先の見えないてっぺんに向かって、
一体これから、どんなふうに進んでいくのかな・・・。
不安であったり、楽しみであったり。
ただ、忘れないでいたいのは
自分がエスカレーターに乗っているという
「自覚」
・・・ですね。
年度末、って関係ない人にはそれほど重要ではないけれど
けっこうガラリと環境が変わるひとつの節目の時期でもあるので、
いつも3月から4月になると
何となく気持ちが引き締まります。
4年間の大学生活。
本当にあっという間でした。
入学前は
「4年も勉強しなくちゃいけないんだ~。しんどいな~」
とうんざりしていたのに、
いつの間にか月日は流れ、もう卒業・・・。
光陰矢のごとし、ですね。
でも、無駄に4年間過ごしたわけではありません。
サークル、ゼミ、旅行、習い事、バイトetc・・・
あれ、勉強は??
(ま、こっちはぼちぼちということで・・・)
楽しい思い出が次々とよみがえってきます。
だけどこんなふうに言えるわたしは、
けっこう恵まれているほうかもしれません。
「大学にいる意味がわからない」
「自分は何をしたいんだろう」
そう悩んで学校に来なくなったり
単位が足りなくなったりして留年する人が、
周りに何人かいます。
こういう人たちの存在は、
決して珍しくはないみたいです。
私の好きな伊坂幸太郎さんの小説に、
「人生はエスカレーターみたいなものだ」
というフレーズがあります。
その台詞を言ったおばあさんは、
「どうせ勝手に進んでいく人生なんだから
好きなことをして過ごせばいい」
という言葉を付け足していますが。
『人生はエスカレーターみたいなもの。
自分は止まっていても、いつの間にか進んでる。』
だからこそ、
ただぼんやりとそれに乗っているだけではいけないんです。
何も考えず、何もせず、
気がついたらこんなに時が過ぎていた・・・
年をとるのはかまわないけれど、
こんなふうに無駄に年をとるなんて、大損です。
悩んだり迷ったり。
勝手に進んでいくエスカレーターの上で、
それだってとても大切なことではないかと思います。
楽しく充実した日々を過ごせたのももちろんいいことだけど、
自分という存在とその未来について
試行錯誤を繰り返し、挫折や後悔のために
自己嫌悪に陥る日々・・・
その中にいる自分を責めることは、
必ずしも悪いことではないんじゃないかな。
今日もわたしは、エスカレーターの上にいます。
まだ先の見えないてっぺんに向かって、
一体これから、どんなふうに進んでいくのかな・・・。
不安であったり、楽しみであったり。
ただ、忘れないでいたいのは
自分がエスカレーターに乗っているという
「自覚」
・・・ですね。
地面に雨粒が落ちてくる
水溜まりに跳ね返り
雲色の空に再び帰っていく
「春が近づくと雨がよく降る」
明るい空からしたたるこの雫は
冷たくもなく
厳しくもなく
ただ、やさしい春の訪れを予感させるのみ・・・
水溜まりに跳ね返り
雲色の空に再び帰っていく
「春が近づくと雨がよく降る」
明るい空からしたたるこの雫は
冷たくもなく
厳しくもなく
ただ、やさしい春の訪れを予感させるのみ・・・
バス停だと思って座った国道沿いのベンチに、バスは来ない。
数10分もの間バスを待って、たどり着いた結論がこれだ。
抑揚なく読むと、まるでトリビアみたいに聞こえるこの台詞に、あたしは思わずひとり笑った。
よく考えてみたらすぐわかることだ。
数10メートル向こうの同じ車線側には、きちんと時刻表が置かれたバス停らしき場所がある。
あたしは目が悪いから、それが確かなものだとは断言できないけれど、コンタクトレンズの度は合っているはずだから、間違っているとは思えない。
バスがわざわざ停まっているんだから、そこをバス停と呼ばないで何と呼ぶのだろう。
ただ、そこにベンチはない。
だからあたしは、誤解した。
必ずしも、ベンチがある場所がバス停だとは限らない。
こんな間違いを犯すのは、あたしだけだろうか。
いや、ほかにも何人かいるはずだ。限りなく、少数だろうけど。
その証拠に、隣にひとり、人ががやって来てそこに座った。
若い人だ。率直にあたしが抱いた感想が、それだ。
若いといっても、あたしと同じくらいかちょっと上だろうけれど。
だけど性別が、いまいちよくわからない。
男か、女か。その人は極めて、曖昧なラインにいる。
その人はベンチに座ってすぐ、バッグから文庫本を取り出して読み始めた。
きっと最初のあたしと同じで、来ないバスを待っているのだろう。
あたしはこの人に、教えてやるべきだろうか。
「バスはここには来ませんよ」、と。
また数10分が経過した。
「バス、遅いですね」
その人は初めて、あたしに話しかけた。
声が高い。女だ。
ようやく判別がついたことにあたしは驚き、つい返事するのを忘れていた。
「バス、まだ来ませんね」
その人から2回話しかけられて、ようやくあたしはしどろもどろに相槌を打つ。
「あっ、はい。はい・・・そうですね、遅いですね」
切れ味の悪いあたしの返事に、彼女がふっと軽く鼻息を出して笑う。
「バスってこんなに時刻に不正確なんですね。ビックリしちゃった」
彼女は声をかけるときだけあたしの顔を見、言い終わるとすぐ本に目を戻す。
あたしはなぜか、そのとき、彼女に本当のことを言えなかった。
喉の奥まで出かかったけれど、そこから再びその言葉を体中に飲み込んでしまった。
「バスはここには来ませんよ」。
彼女はどうやら、まだバスを待つ気らしい。
文庫本を閉じ、立ち上がって別の交通手段を取りにいく気配はない。
黙っているのに罪悪感を感じ、あたしは食べたものを吐き出すほどの覚悟で、例の言葉を口にした。
「バスはここには来ませんよ」
やっと言えた。
達成感を味わうと共に、彼女がとるであろう反応を予想して、あたしはどきどきした。
「えっ!!」
と短く叫んで、切れ長のその目をまんまるくするだろうか。
「ここまで待ったのに、時間を無駄にしちゃったじゃないの!!」
と、憤慨するだろうか。
あたしの予想に反して、彼女は一言、まるで口笛を吹くかのようにこう言った。
「ふうん、そう」
その反応に、あたしが目を丸くする。
「知ってたんですか?」
「知らなかったの?」
涼しげな目元に、悪戯っぽさが潜んでいる。
「バスはここには来ませんよ」
彼女は歌うように囁く。
あたしは瞬きをすることができない。
「このベンチってさ」
彼女が目で文字をなぞりながら、話しかける。
「ずっと前からここにあんのよ。わけもなく」
彼女のほっそりした横顔を、あたしは凝視する。
「24時間365日ずーっと、ここで車が流れるのを眺めてる。このベンチは、ずっと」
そこで彼女は、ぱたんと本を閉じた。
「誰かに座ってもらうのを、このベンチはずっと待ってるの」
彼女の目線が、あたしに向かう。
その強さに引き付けられ、あたしはうんともすんとも声を出すことができない。
次から次へと国道を走り抜ける車の群れ。
この同じものの繰り返しを、ずっと見ているベンチ。
排気ガスや酸性雨で少し色あせた、夕焼けの色。
「だからあたしは、このベンチが好き」
そこで彼女は、柔らかな笑みを浮かべた。
「ちなみにこのベンチでバスを待ち続ける人、あたしが知ってる限りではあなたが3人目」
2人も同じマヌケがいたことに、安心すべきか嘆くべきか・・・。
「時刻に不正確でビックリしたなんて言ってたくせに・・・」
「つまらないでしょ、すぐに本当のことを言うと」
彼女の笑顔にベンチは少し、生き生きした色に輝いた。
あたしの目にはそんなふうに、映った。
数10分もの間バスを待って、たどり着いた結論がこれだ。
抑揚なく読むと、まるでトリビアみたいに聞こえるこの台詞に、あたしは思わずひとり笑った。
よく考えてみたらすぐわかることだ。
数10メートル向こうの同じ車線側には、きちんと時刻表が置かれたバス停らしき場所がある。
あたしは目が悪いから、それが確かなものだとは断言できないけれど、コンタクトレンズの度は合っているはずだから、間違っているとは思えない。
バスがわざわざ停まっているんだから、そこをバス停と呼ばないで何と呼ぶのだろう。
ただ、そこにベンチはない。
だからあたしは、誤解した。
必ずしも、ベンチがある場所がバス停だとは限らない。
こんな間違いを犯すのは、あたしだけだろうか。
いや、ほかにも何人かいるはずだ。限りなく、少数だろうけど。
その証拠に、隣にひとり、人ががやって来てそこに座った。
若い人だ。率直にあたしが抱いた感想が、それだ。
若いといっても、あたしと同じくらいかちょっと上だろうけれど。
だけど性別が、いまいちよくわからない。
男か、女か。その人は極めて、曖昧なラインにいる。
その人はベンチに座ってすぐ、バッグから文庫本を取り出して読み始めた。
きっと最初のあたしと同じで、来ないバスを待っているのだろう。
あたしはこの人に、教えてやるべきだろうか。
「バスはここには来ませんよ」、と。
また数10分が経過した。
「バス、遅いですね」
その人は初めて、あたしに話しかけた。
声が高い。女だ。
ようやく判別がついたことにあたしは驚き、つい返事するのを忘れていた。
「バス、まだ来ませんね」
その人から2回話しかけられて、ようやくあたしはしどろもどろに相槌を打つ。
「あっ、はい。はい・・・そうですね、遅いですね」
切れ味の悪いあたしの返事に、彼女がふっと軽く鼻息を出して笑う。
「バスってこんなに時刻に不正確なんですね。ビックリしちゃった」
彼女は声をかけるときだけあたしの顔を見、言い終わるとすぐ本に目を戻す。
あたしはなぜか、そのとき、彼女に本当のことを言えなかった。
喉の奥まで出かかったけれど、そこから再びその言葉を体中に飲み込んでしまった。
「バスはここには来ませんよ」。
彼女はどうやら、まだバスを待つ気らしい。
文庫本を閉じ、立ち上がって別の交通手段を取りにいく気配はない。
黙っているのに罪悪感を感じ、あたしは食べたものを吐き出すほどの覚悟で、例の言葉を口にした。
「バスはここには来ませんよ」
やっと言えた。
達成感を味わうと共に、彼女がとるであろう反応を予想して、あたしはどきどきした。
「えっ!!」
と短く叫んで、切れ長のその目をまんまるくするだろうか。
「ここまで待ったのに、時間を無駄にしちゃったじゃないの!!」
と、憤慨するだろうか。
あたしの予想に反して、彼女は一言、まるで口笛を吹くかのようにこう言った。
「ふうん、そう」
その反応に、あたしが目を丸くする。
「知ってたんですか?」
「知らなかったの?」
涼しげな目元に、悪戯っぽさが潜んでいる。
「バスはここには来ませんよ」
彼女は歌うように囁く。
あたしは瞬きをすることができない。
「このベンチってさ」
彼女が目で文字をなぞりながら、話しかける。
「ずっと前からここにあんのよ。わけもなく」
彼女のほっそりした横顔を、あたしは凝視する。
「24時間365日ずーっと、ここで車が流れるのを眺めてる。このベンチは、ずっと」
そこで彼女は、ぱたんと本を閉じた。
「誰かに座ってもらうのを、このベンチはずっと待ってるの」
彼女の目線が、あたしに向かう。
その強さに引き付けられ、あたしはうんともすんとも声を出すことができない。
次から次へと国道を走り抜ける車の群れ。
この同じものの繰り返しを、ずっと見ているベンチ。
排気ガスや酸性雨で少し色あせた、夕焼けの色。
「だからあたしは、このベンチが好き」
そこで彼女は、柔らかな笑みを浮かべた。
「ちなみにこのベンチでバスを待ち続ける人、あたしが知ってる限りではあなたが3人目」
2人も同じマヌケがいたことに、安心すべきか嘆くべきか・・・。
「時刻に不正確でビックリしたなんて言ってたくせに・・・」
「つまらないでしょ、すぐに本当のことを言うと」
彼女の笑顔にベンチは少し、生き生きした色に輝いた。
あたしの目にはそんなふうに、映った。
どんなシワだって
スチームを当てればピンとする
波打つように寄り集まった嫌なことも
すっと平らにできたらいいのに
そうつぶやきながら
ひとつひとつアイロンを当てる
あなたのシャツと私のブラウス
スチームを当てればピンとする
波打つように寄り集まった嫌なことも
すっと平らにできたらいいのに
そうつぶやきながら
ひとつひとつアイロンを当てる
あなたのシャツと私のブラウス
春もすぐそこ、ということで、部屋の壁を塗り替えることにした。
「やっぱ白がいいよ、明るい感じがするし」
彼の強い要望で、壁の色はクリームから白にすることに決定した。
ペンキ、ローラー、ハケ、新聞紙、軍手etc・・・
塗り替えに必要な道具を用意して、汚れてもいいトレーナーとジーンズに着替えたら準備完了。
窓を開けると、春風に近いさわやかな空気が流れている。
「ペンキ日和ね、今日は」
あたしは窓枠に手をかけ、部屋の中にいる彼を振り返る。
彼は頷きながら、コンポにCDをセットしている。
部屋に響く、Nat Adderleyの「WORK SONG」。
クリーム色の壁にローラーで白を塗っていく。
見る見るうちに洗い立てのような色に変わっていくのが、爽快。
「仕事がはかどるわね」
「歌のおかげかもな」
あたしと彼。並んで作業する。
しばらくして、昼ごはんを兼ねてのブレイクタイム。
「あと半分だな」
サンドイッチをつまみながら、半分は白で半分はクリーム色の部屋を眺める。
小さな空間に漂うペンキのにおいと、開け放した窓から入ってくる外の空気が混じり合い、溶け合う。
「昔さ、手形とかとったりしなかった?」
「手形?」
ミネラルウォーターのペットボトルに口をつけながら、あたしは彼の顔を見る。
「掌に絵の具か何か塗って、判子みたいに紙にぺたっ、てさ」
ジェスチャーつきで説明する彼に、あたしは相槌をうつ。
「そういえば幼稚園とか、小学校であそびでやったかもねぇ」
うーん、とうなりながら頭の中をめぐってみると、図工の授業なんかでやったような記憶がある。
「大人になってからは、さすがにやってないけど」
あたしが付け足した言葉に、彼は目を輝かせた。
「ちょっとやってみない?」
掌に、真っ白なペンキが塗られていく。
ちょっとひんやりした感触が気持ちいい。
「行きます、第一号!」
そう叫びながら彼は、クリーム色の上に思い切り掌を押し付けた。
ぺったり、きれいな手形。
「おおっ、スゲー!」
なぜだか感激している彼に続いて、あたしも掌をくっつける。
大きい手と少し小さい手。真っ白な手がふたつ、並んだ。
リピートされる「WORK SONG」をB.G.M.に、あたしと彼は手形のアートに夢中になった。
コルネットとかいうトランペットみたいな音に合わせて、掌を押す。
これこそアートのコラボレーション。
大きなキャンパスに、あたしたちの分身とも言える手形が連なる。
ぺたぺた、ぺたぺた。
「けっこう重労働だな」
額に滲む汗をぬぐいながら、彼はそう言って笑う。
その顔には、ペンキの飛び散った跡が数滴。
「顔、ペンキついてる」
あたしが指摘すると、彼もあたしの顔を指さした。
「お前もな」
春を予感させる風が、ペンキのにおいを少しずつさらっていく。
あたしと彼は、手形のアートで飾られた壁画を眺めていた。
「なかなか芸術的じゃねぇ?」
彼の声に、あたしも頷く。
クリーム色の中に、白い魚や木や象が、かげぼうしみたいに浮かんでいる。
「ホント、大作ね」
「塗り潰すのが惜しいな」
呟く彼の言葉。あたしも、そう思ってた。
「しばらくおいとかない? ちょうどこの部屋、絵とかなかったし」
あたしの提案に、彼もにっと笑う。
「いいかもな、それ」
半分だけ、念願の白い壁。
もう半分は、ふたりで作った手形の絵。
まだ残るペンキのにおいが、あたしたちにまとわりつく。
そして隣には、昼間の作業に疲れ、息を立てて眠る彼がいる。
何て居心地のいい部屋。
「やっぱ白がいいよ、明るい感じがするし」
彼の強い要望で、壁の色はクリームから白にすることに決定した。
ペンキ、ローラー、ハケ、新聞紙、軍手etc・・・
塗り替えに必要な道具を用意して、汚れてもいいトレーナーとジーンズに着替えたら準備完了。
窓を開けると、春風に近いさわやかな空気が流れている。
「ペンキ日和ね、今日は」
あたしは窓枠に手をかけ、部屋の中にいる彼を振り返る。
彼は頷きながら、コンポにCDをセットしている。
部屋に響く、Nat Adderleyの「WORK SONG」。
クリーム色の壁にローラーで白を塗っていく。
見る見るうちに洗い立てのような色に変わっていくのが、爽快。
「仕事がはかどるわね」
「歌のおかげかもな」
あたしと彼。並んで作業する。
しばらくして、昼ごはんを兼ねてのブレイクタイム。
「あと半分だな」
サンドイッチをつまみながら、半分は白で半分はクリーム色の部屋を眺める。
小さな空間に漂うペンキのにおいと、開け放した窓から入ってくる外の空気が混じり合い、溶け合う。
「昔さ、手形とかとったりしなかった?」
「手形?」
ミネラルウォーターのペットボトルに口をつけながら、あたしは彼の顔を見る。
「掌に絵の具か何か塗って、判子みたいに紙にぺたっ、てさ」
ジェスチャーつきで説明する彼に、あたしは相槌をうつ。
「そういえば幼稚園とか、小学校であそびでやったかもねぇ」
うーん、とうなりながら頭の中をめぐってみると、図工の授業なんかでやったような記憶がある。
「大人になってからは、さすがにやってないけど」
あたしが付け足した言葉に、彼は目を輝かせた。
「ちょっとやってみない?」
掌に、真っ白なペンキが塗られていく。
ちょっとひんやりした感触が気持ちいい。
「行きます、第一号!」
そう叫びながら彼は、クリーム色の上に思い切り掌を押し付けた。
ぺったり、きれいな手形。
「おおっ、スゲー!」
なぜだか感激している彼に続いて、あたしも掌をくっつける。
大きい手と少し小さい手。真っ白な手がふたつ、並んだ。
リピートされる「WORK SONG」をB.G.M.に、あたしと彼は手形のアートに夢中になった。
コルネットとかいうトランペットみたいな音に合わせて、掌を押す。
これこそアートのコラボレーション。
大きなキャンパスに、あたしたちの分身とも言える手形が連なる。
ぺたぺた、ぺたぺた。
「けっこう重労働だな」
額に滲む汗をぬぐいながら、彼はそう言って笑う。
その顔には、ペンキの飛び散った跡が数滴。
「顔、ペンキついてる」
あたしが指摘すると、彼もあたしの顔を指さした。
「お前もな」
春を予感させる風が、ペンキのにおいを少しずつさらっていく。
あたしと彼は、手形のアートで飾られた壁画を眺めていた。
「なかなか芸術的じゃねぇ?」
彼の声に、あたしも頷く。
クリーム色の中に、白い魚や木や象が、かげぼうしみたいに浮かんでいる。
「ホント、大作ね」
「塗り潰すのが惜しいな」
呟く彼の言葉。あたしも、そう思ってた。
「しばらくおいとかない? ちょうどこの部屋、絵とかなかったし」
あたしの提案に、彼もにっと笑う。
「いいかもな、それ」
半分だけ、念願の白い壁。
もう半分は、ふたりで作った手形の絵。
まだ残るペンキのにおいが、あたしたちにまとわりつく。
そして隣には、昼間の作業に疲れ、息を立てて眠る彼がいる。
何て居心地のいい部屋。