気まぐれ厨房「親父亭」落語編36~鮑(アワビ)のし | 気まぐれ厨房「親父亭」

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落語に見る食の風景~鮑のし
     祝儀袋の熨斗(のし)の由来
     アワビはかねてから高級食材です


「熨斗」の由来は、のし鮑の製法が鮑を伸して作られたことからくる「伸した鮑」が、「熨斗鮑」に転じたものが省略されて「熨斗」となったというものと、儀礼作法の包み方の一つに伸し鮑の包み方を「熨斗折り」と称したものが「熨斗」に省略されたという二つの言い伝えがあります。
のし鮑は、鮑をかつら剥きに長く切り伸ばして生干しにし、それを木槌で叩き伸ばして、筵(むしろ)の上で天日にさらして乾燥したものです。
島国日本は海の幸に恵まれ、特に鮑は重要な食物で古来より神事のお供え物として用いられてきました。伸して干した鮑は、栄養価が高く、中世には武家の出陣や帰陣の祝儀に用いられ、戦場の貴重な保存食となりました。
江戸時代には長生き長持ちの象徴として縁起を担ぎ、祝事や慶事の儀式に高価な贈答品として用いられるようになりました。
時代とともに和紙に包んだ「熨斗」を贈答品に添える風習が根付き、今日でも「金封」の疑似熨斗は「折り熨斗」といわれ、明治以降一般庶民の間にも贈答習慣が広まる中で簡素化され、印刷の発展とともにのし紙やのし袋が用いられるようになりました。
 

落語「鮑のし」は、ちょっとおめでたい亭主と賢いカミさんが登場します。
ろくに働きもせず、ぶらぶらしているおめでたい男、相変わらず一文無しで腹ペコです。
カミさんに「何か食わしてくれ」とせがむと、「おまんまが食いたかったら、田中さんちで50銭借りてきな」と言われます。
亭主が頼んでも信用がないので貸してもらえないのですが「アタシからだって言えば貸してくれるから」というカミさんの言葉通り、50銭貸してもらえました。
亭主はだらしないけれど、しっかり者のカミさんは信用があるってわけです。
借りた50銭を持ち帰って「飯をくれ」と催促しますが、「まだダメ!今度はこの50銭持って魚屋で尾頭付きを買っておいで」と言われます。
カミさん曰く、近々大家の息子が嫁を迎えるので、そのお祝いに尾頭付きを持って行けば祝儀に1円くれるはずだと言います。
その金で米を買って飯を食わせてやるという算段です。
魚屋に行くと鯛は5円もして買えません。
しかたがないので、アワビ3杯を10銭まけてもらい、買って帰ります。
カミさんは少し渋い顔をしましたが、この亭主の脳味噌ではこんなものかと諦めて「これでもいいや」と大家のところへ行ってからの口上を教えます。
「こんちは、いいお天気でございます。承りますれば、お宅さまの若旦那様にお嫁御がおいでになるそうで、おめでとうございます。いずれ長屋からつなぎが参りますけれど、これはつなぎの外でございます」。
長くて覚えられないので練習しますが、どうしても若旦那をバカ旦那、嫁御をおにょにょご、つなぎを津波と言ってしまう始末。
「ちゃんと1円もらってこないと、飯を食わせずに干し殺すよ」と脅かされ、おめでたい亭主はのこのこと出掛けていきます。
大家に行くといきなりアワビを放り出して「さあ、1円くれ」。
口上を始めたのはいいのですが、練習の甲斐なく、バカ旦那に、おにょにょご、津波を全部やってしまいます。
腹を立てた大家が、アワビは「磯のアワビの片思い」で縁起が悪いから、こんなものは受け取れないと突き返します。
「おまんまにありつけない」としょげ返っていると、長屋の吉兵衛に出会います。
吉兵衛に事の次第を話すと、吉兵衛は「アワビのどこが縁起が悪いんだ。祝い物でノシが付いてくるだろう。お前のところではそのノシを剥がして返すのか。アワビってものは、紀州鳥羽浦で海女が採るんだ。鮑のしにするには、仲のいい夫婦が一晩かかって作らなきゃできねえんだ。それを何だって受け取らねえんだ。ちきしょーめ1円じゃ安い!5円よこせっと尻をまくって言ってやれ」とアドバイスします。
「尻はまくれねえ」
「なぜだ?」
「サルマタしてねえから」
そこで大家の家に引き返して「1円じゃ安いや。5円よこせ5円。いやなら10円にまけてやる……ここで尻をまくるとこだけど、事情があってまくらねえ」
バカげた話しながら、熨斗の由来についてきちんと説明していて、勉強になりますよね。
 

今もアワビは高級食材で、魚屋でも結構な値がついています。
海のない山梨県の特産「煮貝」は鮑を煮たもので、こちらも高価な贈答品として知られています。