はたしてエボエボ坊主のそっぱ漬け&赤ベロベロの醤油漬けとは
棒鱈は真鱈を三枚におろして身を干したもので、昔から保存食とされ、季節を問わない食材です。
京都などでは海老芋(サトイモ)と一緒に煮る「いもぼう」という伝統料理があり、おせち料理としても膳に並びます。
さて、古典落語「棒鱈」は江戸っ子と田舎侍が登場して大騒動になります。
江戸っ子の二人連れが料理屋で飲んでいて、かなりお酒も進んでいます。
隣座敷では田舎侍が一人、こちらも酩酊気味で「琉球へおじゃるなら草履はいておじゃれ」なんて、間抜けな歌を調子っぱずれの大声で歌います。
田舎侍に芸者が「お好きなものは?」と訊ねると
「おいどんの好きなもんは、エボエボ坊主のそっぱ漬け、赤ベロベロの醤油漬けじゃ」と答えます。
隣の座敷に話は筒抜けで、エボエボ坊主のそっぱ漬けはタコの三杯酢、赤ベロベロはマグロの刺し身という説明を聞いたので二人はたまりません。
「おい、聞いたかい、あの野郎の言いぐさをよ。マグロのサスムだとよ。なーに、聞こえたかってかまうもんか。あのバカ」
大声を出したので田舎侍が怒りますが、そばにいた芸者が「まあ、そう言わずに、三味線を弾きますから、何か聞かせてちょうだいな」となだめます。
侍はとんでもない調子っぱずれで「モズがクーツバシ、サーブロヒョーエ、ナーギナタ、サーセヤ、カーラカサ、タヌキノハラツヅミ、ヤッポコポンノポン」
と歌います。
またしても隣の座敷では「おい、あれが日本の歌かい」と呆れかえっています。
「鳩に鳶に烏のお犬の声、イッポッポピーヒョロカーカー」
「しょうがちー(正月)が、松飾り、にがちー(2月)が、テンテコテン」
と、わけのわからない歌が続くので、二人のうちの短気な方はたまりません。
「田舎侍がどんなツラしているか、ちょいと見てきてやる」と、相棒が止めるのも聞かずに部屋を出て行きます。
ちょっと覗いてやろうと思っていたのですが、酔っているのでつんのめり、障子を押し倒して部屋に突っ込んでしまいます。
驚いたのが田舎侍です。
「これはなんじゃ。人間が降ってきた」
「何を言ってやがんでえ。てめえだな、さっきからパアパア言ってやがんのは。酒がまずくならあ。マグロのサスム、しょうがちーがテンテコテンってか、このバカ!」
「こやつ、無礼なやつ」
「無礼ってなあ、こういうんだ」と、いきなり田舎侍の顔に赤ベロベロをぶっかけます。
「そこへ直れ。真っ二つにいたしてくれる」
「洒落たたこと言いやがる。さ、斬っつくれ。斬って赤くなかったら銭はとらねえ、西瓜野郎ってんだ。さあ、斬りやがれ」
と、大喧嘩に。
階下では、料理人が客の注文の「鱈もどき」ができたので、胡椒を添えて上がろうとしたところへ喧嘩の知らせ。
胡椒を持ったまま仲裁に駆けつけます。
「まあ、旦那どうかお静かに。まあ、まあ、まあ親方。後でお話いたしますから」と胡椒片手に間へ入って鎮めようとします。
「ベラボウめ、テンテコテンが、ヘークション」
「ま、けがをしてはいけませんから、へ、へ、へークション」
「無礼なやつめ。真っ二つにいたしてくれる。それ、ハックション」
「まあまあ、みなさん、ハックション」
そのうち田舎侍が「ハックション、皆の者、この喧嘩はこれまでじゃ」
「そりゃまた、どうして」
「横合いから胡椒(邪魔)が入った」
というお話。
噺のタイトルになった棒鱈は、料理人が作っていたのが「鱈もどき」だというのでそうなったのでしょうが、「鱈もどき」なる料理はどういうものかわかりません。
エボエボ坊主はタコで赤ベロベロがマグロだということはすぐにわかりました。
タコもマグロも昔から料理屋で供されていたのは間違いありません。

赤ベロベロなるマグロとそれを漬けにしたものです。酢飯か炊き立てのおまんまに乗っけていただくのがいいですね。



