落語に見る食の風景~「寝床」
がんもどきの作り方を詳しく説明
精進料理では主役級・・・雁の肉に似せているから雁もどき?
まずは落語「寝床」について・・・。
今日はカラオケがあるので、歌の上手下手に拘らず、素人でもマイク片手に悦に入るなんてえことがよくあります。
その昔、テレビなんぞのない時代には義太夫(関西では浄瑠璃といいますが)がたいそう流行し、師匠について習う人もたくさんいたそうです。
ある商家の旦那が義太夫に凝っていて、とても聴くに堪えないヘタクソ。
それを他人に聴かせたがるので、皆迷惑しています。
酒食や茶菓を振る舞われ、家主でもあるので無碍に断れないのが長屋の連中。
その日も旦那が自慢の喉を披露しようと朝から大張りきり。
番頭の茂造に長屋中に案内に行かせて、自分は小僧の定吉にいろいろとうるさく命じて支度をさせています。
しばらくして、案内に回っていた茂造が戻ってきて、出欠状況を確認しますと、だんだん不機嫌になっていきます。
提灯屋は・・・お得意の開業式で提灯を350請け負ったので来られません。
小間物屋は・・・かみさんが臨月で急に産気づいて来られません。
鳶頭は・・・ごたごたがあって明日早くに成田に行かなきゃならないので・・・
長屋の連中皆が皆、何らかの口実で来られないと聞いて、旦那はカンカンに。
「それじゃあ、今日は早仕舞にして店の連中に聴かせよう」というとこれがまた「どこか具合が悪い」と仮病を使って出てきません。
「ああよござんす、どうせあたしの義太夫はまずいから、そうやってどいつもこいつも仮病を使って来ないんだろ」
と言って「もう、やめ!!」と宣言。そして・・・
「義太夫の人情がわからないようなやつらに店(たな)を貸しとく訳にはいかないから、明日12時限りで明け渡すように、長屋の連中に言ってこい!!」
と大変な剣幕。さらに・・・
「まずい義太夫はお嫌でしょう、みんな暇をやるから国元へ帰っとくれ。二度と義太夫は語らない」
と叫んで、不貞寝をしてしまいます。
「店立てを食う」「店をやめさせられる」というのは困りますので、しばらくすると長屋の連中がやってきて「旦那の義太夫を聴かないと仕事が手につかない」などとうって変わってお世辞を並べます。意地になっていた旦那も「そこまでみんなが言うのなら」と、ころっと態度を変えて義太夫の会は行われることに・・・。
お酒に料理、茶菓を口にしながら、長屋の連中は旦那の義太夫のひどさについて陰口をたたきます。
御簾の向こうの旦那はそんなこととはつい知らず、いつものように聴くに堪えないどら声を張り上げます。
しばらくすると酔いが回って、聴いている連中はみんなその場で眠ってしまいます。
あまりに静かなので、旦那の方は感動して静かに聴いているんだろうと、御簾の内から覗いてみてびっくり!
「ウチは木賃宿じゃない」と寝ている連中を怒っていると、隅で定吉が一人泣いています。
旦那は「こんな子供でさえ義太夫の情がわかるのに、お前たちは恥ずかしくないのか」と説教し、定吉に優しく訊ねます。
「どこが悲しかった?やっぱり、子供が出てくるところだな。『馬方三吉子別れ』か?『宗五郎の子別れ』か?そうじゃない?あ、『先代萩』だな」
定吉は泣きながら「そんなとこじゃない、そんなとこじゃない。あそこでござんす」
「あそこ?あれはあたしがさっきまで義太夫を語っていた床じゃないか」
「あたくしは、あそこが寝床でございます」
さて、今日の本題はってえいいますと、この落語の長屋の住人に豆腐屋が出てまいります。豆腐屋が旦那の義太夫を聴きに行かなくていいように、どんな口実だったかといいますと・・・。
「豆腐屋さんではお得意に年回がございまして、生揚げとがんもどきを八百五十ばかり請合ったとかで、家中でおおわらわにやっておりますが、なかなかはかがいかないようで・・・。生揚げの方は手軽にできるのでございますが、がんもどきの方がなかなか手数のかかるものでございまして・・・。と申しますのが、蓮にゴボウに紫蘇の実なんてぇものが入ります。蓮は皮を剥きまして、これを細かくいたしまして使うだけなのでございますが、ゴボウは何しろこれが皮が厚うございますので、包丁で撫でるように剥きまして、その後でアクだしをします。紫蘇の使い方が一番面倒なんだそうで・・・紫蘇の実がある時分はよろしいんでございますが、無いときには漬物屋から塩漬けンなっているものを買って参りまして、これを塩出ししてから使うんでございますが、この塩出しの加減が難しゅうございまして、あんまり塩出しをし過ぎますと水っぽくなってすっかり味が落ちてしまいますし、と申しまして、塩出しをしませんと、塩っ辛いがんもどきができあがるという・・・」
「おいおい、誰ががんもどきの作り方の講釈を頼みました? 豆腐屋は今晩、聴きに来るのか来ないのか、それを聞いてるんじゃないか」
「ええ、そのー、そんな訳でございますから、お伺いできないのでよろしく、ということなんで」
「それならそうと初めからそう言えばいいじゃないか。ごぼうのアク抜きがどうの、紫蘇の塩出しがどうのって、余計なことを言うもんじゃありませんよ」
と、まあこういうわけで番頭さんも大変です。
「がんもどき」は関西では「ひりょうず」とも呼ばれます。
ポルトガル語の「フィロウス」に当て字をして「飛龍子」とか「飛龍頭」と表記するそうです。
その由来は諸説ありますが、肉料理が食べられないお坊さんたちに雁の肉に似せて作ったということから「雁擬(がんもどき)」となったという説をずっと信じています。
落語「替り目」では、酔って帰ってきた亭主が女房に絡んで酒を催促し、おでんを買いに走らせるときにがんもどきを略して「がん」と呼ぶくだりがあります。
がんもどきは、豆腐をくずして山芋や卵を混ぜ、その中にいろいろな具を入れて揚げてあります。おでんのようにじっくりコトコト煮ると美味しくなります。
ではここで、親父亭流がんもどきの煮物を紹介します。
<材料 2人前>
がんもどき 4個、だし 300cc、砂糖 小さじ2、醤油 みりん 酒 各大さじ1
ホウレンソウ 1/4束(三つ葉やネギ、その他野菜は適当でよい)
<作り方>
がんもどきはザルにのせて熱湯をかけ、油落としをします。
鍋にだしを沸騰させてその中にがんもどきを入れてしばらく煮ます。調味料はまだ入れません。
ある程度全体にだしがしみわたったら、まず砂糖を入れます。
しばらくして醤油、みりん、酒の順で加えて弱い火でじっくり煮込んでいきます。
煮汁が半分くらいになったらできあがりです。
残った煮汁にホウレンソウを入れて煮ます。全体がしんなりしたらOK.
だしが効いて、深い味わいがあります。