ウチの近所に、人相の…いや、猫相の悪い猫がいる。
写真の顔は、別にたまたましかめっ面になったところを撮ったものではない。
コイツはいつも、こんな顔を引っ提げて生きているのだ。
初めて見掛けた時には、そのブサイクさ加減にまずたじろいだ。
お世辞にも「可愛い」とは言えないそのイカついまなざしは、こちらが人間様である事を忘れて思わず「あ…すいません」とか言ってしまいそうな程の、凄味を孕んでいた。
察するに、昔はちょっと知られたボス猫だったのか…あるいはあまりに厳しい幼少期の苦難に、険しい表情が顔面に張り付いて取れなくなってしまったのか…ともかくコイツは、僕の胸の中で一目置く存在へとなっていった。
首輪を付けられているところを見ると、コイツは家猫…もしくは半家猫なのであろうが、コイツには猫らしい愛想というものが、全くと言っていいほどない。
こっちが触ろうとすると逃げてしまうが、ただ側を通り過ぎるだけなら、自分の方が強いのだという面持ちで、平然とアスファルトの上に寝そべっている。
先日初めてコイツの写真を撮ってやろうと、通り掛かりに携帯電話を手に近づいてみた。
これ以上近づいたら逃げる…という、ギリギリのところで携帯のカメラを構えていると、コイツが突然、風貌にぴったりの嗄れ声で一声「にゃあ」と鳴いた。
思えば長年、コイツの顔は知っていたが、声を聞くのは初めてだった。
まさに想像通りの、笑ってしまうぐらいに汚い声ではあったが…同時にそれは威嚇の「にゃあ」ではなく、何だか優しい響きをしていた。
「可愛いよ」
僕はお世辞半分、本気半分でコイツにそう声をかけながら、シャッターのボタンを押した。