怪談 新・新耳袋 第二話 | 桂米紫のブログ

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米朝一門の落語家、四代目桂米紫(かつらべいし)の、独り言であります。

第二話『水鉄砲』



これも僕が、小学校低学年の頃の話。


当時うちはマンション住まいで、板ばりの居間と畳敷きの部屋がふた間続きになっており、テレビはその畳敷きの部屋の奥に置いてあった。

その畳部屋は、夜は両親が布団を敷いて「寝室」となるのだが、それまでは襖も開け放たれ「居間の延長」という感覚だった。

しかし常に蛍光灯が点いているのは居間の方で、畳部屋の方は普段はだいたい薄暗くしてあった。


ある夜、いつものように僕は明るい居間の方に座って、父親と二人でテレビを観ていた。

これもいつものように、畳部屋の明かりは消されていて、部屋の隅の方などは闇に包まれていた。

すると突如、その薄暗い畳部屋の奥の天井付近から、何の前ぶれもなく「ピュッ」と水が飛んできた。

それは少量の水ではあったが、四方八方に…ちょうど噴射口に指先を押し当てて水鉄砲を撃った時のような感じで、居間の方めがけて勢いよく飛んできたのだ。

居間の真ん中にいた僕も、端の方にいた父親も、その水を確かに肌に感じた。

しかし畳部屋の蛍光灯を点けて調べてみても、部屋の壁にも天井にも、異常なものは何も見つからなかった。


もうその夜は、テレビどころではなくなった。

自分の部屋へ戻って布団に潜り込んでも、誰かが部屋の隅から闇に紛れて水鉄砲を構えているような気がして、とても薄気味悪かった。


それ以降、我が家の電気消費量は少し上がる事となった。


畳部屋の電気を付ける事が多くなった為である。


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