怪談 新・新耳袋 第三話 | 桂米紫のブログ

桂米紫のブログ

米朝一門の落語家、四代目桂米紫(かつらべいし)の、独り言であります。

第三話『ドライヤー』



商業演劇界で活躍している、ある友人の話。


彼は霊感が強いらしく、劇場の舞台袖や奈落で、よく奇妙なものを見掛けるのだそうだ。

一度などは開演中の舞台袖の隅で、逆さまになった人の首が、独楽のようにくるくる回っているのを見たという。


そんな彼と、大阪の一ヶ月公演の舞台で共演した時の事。


東京住まいの彼は、大阪公演の時はホテル滞在となる。

終演後二人で飲みに行った時に、彼がボソッと「夕べは怖かったよ」と言う。

酔うとよく正体をなくす彼の事…また酔っ払っての失敗談かと、てっきり僕はそう思っていた。

ところが、彼はこんな事を語り始めた。


夜、ホテルの部屋で風呂から上がって、鏡の前で濡れた髪にドライヤーをあてていたという。

彼は長髪の持ち主である。

丁寧に髪を乾かしながら、見るともなしにドライヤーの吹出し口が、鏡越しにチラッと視界に入った。

途端に彼は、ドライヤーを取り落としたらしい。


何と、ドライヤーの吹き出し口の奥からじっとこっちを見つめる‘目’と、視線が合ったのだという。


「ほんと怖かったよ…」

それを聞いて、当時ドライヤーには縁のない丸坊主頭だった自分を、心底幸せに思ったものだ。


桂米紫のブログ-090227_184844.JPG