畑仕事のあとに動き足りなくて、裏の公園で軽くジョギングをしようとした。
夕方の公園は誰もいない。
鳥の鳴き声がけたましく響く。
鳴き声の方に目をやり、その声の主がどんな姿をしているのか確認したいのだが、近寄るとすぐに飛び去ってしまう。
そんなことよりも運動するんだ!と思い直して、駆け足になるのだが如何せん、自然は私の足を止めるに充分な不思議に溢れ過ぎているのだった。
ひび割れたコンクリートには、一列にアリの巣ができている。
そうなるともう運動どころではない。
私はアリの巣が大好きだ。
アリが好きなのではない。巣があると、どうしようもなく掘りたくなってしまうのだ。
小さくて真っ黒なアリが、一生懸命に巣の中から米粒よりもずっと小さい石の欠片のようなものを次々と運び出して、巣の入口の周りに置く。
置いては戻り、置いては戻る。
それはそれは、めっちゃ働いている。
それをしゃがみこんで眺めていると、掘り起こそうという気持ちがなくなってしまった。
巣の傍には、糸くずなような細っこいミミズが乾いた身体を引きずって、必死に移動していて、おいおい。そこは危ねーぞ!そんなところにいたら、あっという間にアリの巣に引き摺り込まれてしまう!とハラハラドキドキする。
時々、自分の頭よりもデカい石を巣から運び出そうとするアリがいる。
顎をグイグイ動かして、なんとか持ち上げようとするのだが、穴を遮る小さな枝に邪魔されて、なかなか外に出られない。
仲間たちはそんなことはおかまいなしに、次々と石を運び出しては戻る。
何度見ても、すごい。としか言いようがない。
そして、無理やり穴を広げて、その中をほじくり出したい欲望が起きて、罪悪感が湧く。
乾いたミミズを避けることや、穴を遮る枝を取り除きたい気持ちを抑えて、黙ってじっと見ている。
アリもミミズも私のことはお構いなしだ。
鳥は直ぐに逃げるのに、アリやミミズは私を認知していない。
あ!とか、わー!とか言っても、一向に意に介さず、黙々と仕事を続けている。
ああ、そうか。そもそも彼らは耳がないのか。
この盛り上がりは、彼らが一粒ずつ運び出した砂で出来ている。
考えれば考えるほど、気の遠くなるような作業だ。
彼らが砂を運び出すその一瞬だけに集中して出来上がった大きなアリのマンションがこの下には広がっているのだろう。
私もこの一歩のために走り出さなくては!
私の足を止めたのも、本来の目的を思い出させたのも、この同じアリだということがなんだかおかしい。