ーあの、すごい突然で申し訳ないんですけど、
泊まりに行っていいですか?
今日、すごい暇で寂しいんです!ー
それまで息子と一緒にいたらしいし、そのあと息子は夜勤でもない。
なのに、彼女が一人でうちに来るということは、まあーた!息子がなんかをやらかしたんだな!
こんばんは!お久しぶりです!とやってきた彼女は、笑顔だったがなんだか表情が変だ。
こないだ息子は1ヶ月半ぶりにやってきたが、あまり元気がなかった。
でも、来たということは、何かあって、とりあえず何とかなって落ち着いたんだろうと解釈していたし、実際そうだったようだ。
彼女はソファーに座るやいなや、それまでのことを一気に話し始めた。
要は、ものすごく話を端折ると、彼女(それは息子に関係ない彼女の問題)の不安な気持ちを息子が(また)抱え切れなくなった。ってことだ。
抱え切れない息子は、自分のおちょこぐらいの心の容量がいっぱいになってしまって、自分に自信がなくなり本当に悩んでるはずの彼女に当たる。
彼女は彼女でそんな息子の気持ちを逆撫でするようなことを言ってしまい息子は息子でそれに腹を立てる。彼女が距離を起きたくなる。
ここまでは、いつものパターン。
しかしそこから息子はひとつ、大人になった!
距離を置いたらダメになる。俺は、こんなふうに自分に自信がなくて、しかもプライドが高い。でも、一緒にいたい気持ちは本当。
そう彼女に告げたらしい。
彼女は息子が正直に気持ちを話してくれたことで息子を許す気持ちになったらしいが、それとは別の問題を抱え切れずに私のところに来たのだった。
その問題は確かに息子にも、私にだってどうにもできない深刻さだ。
しかしそんな彼女を支えようと息子は息子で自分のやるべきことのために時間を割いている(一人時間がないと無理なタイプ、しかも不器用)。そのためには一人の時間が大切で、でも不安な彼女は息子にいつも一緒にいて欲しい。
でもそれができないから、彼女は彼女で他のことで気を紛らわせようと趣味に没頭する。しかしそこには友達だけでなく、知らない男の人なんかもいる。彼女が楽しそうにすればそれはそれで、息子は嫉妬する(いやー、腹立つ。そんな場合かよ!)。
息子の行動は親としてものすごく理解できるし、女としてもそれなりに経験を重ねた大人の人間としても彼女の気持ちはとても共感できた。
しかし息子も彼女もまだまだ若い。
このすれ違いの原因が何で、それを取り除くことは不可能で、でもそのために自分の嫌なところを全て認めて受け入れるだなんてできるわけがなかった。
特に息子はそうだ。
私が個人的に何よりもショックだったのは、息子が彼女と仲直りの話し合いの最中に、母である私が、息子よりも娘の方を可愛がっていると言っていたということだった。
ハぁ?ハア??ハアア???(ˊo̴̶̷̤ꑣo̴̶̷̤ˋ)ハア?
いやいやいや。なんなら私は娘の方が放ったらかしで、息子の方に金も心も費やしていた。
彼女も、それはない!なんなら息子の方がずっと愛されている!と全力で否定したというが、おまえには俺の気持ちはわからないと言われたという。
LINEをしても既読無視で、他の人には優しくても私の扱いなんて最低なくせに、でもだからこそ、そっとして置いていることもあるとゆーのに…コイツは、コイツは、一体何を…何を言っとるんだ!と驚愕である。私は、メンヘラ彼女かよ!
私のあまりのショックぶりに彼女は慌てて、いや。〇〇くんがいろんなことでメンタルが落ちてたから、何もかもマイナスに考えてたせいでもあるんですけどね。と訂正したが、もう私の一合枡は、溢れ出してしまっている。
もう私の育て方がダメなんだ。
私は私で自分の悩みはひとりで抱えがちだし、コンプレックスだってあるし、子供たちに対しても申し訳なかったって思うことは山ほどある。
だけどここで言うことも違うし、だいたいそんなことを後悔しても今更どうしようもない。
そのことを旦那に相談すると、それは息子がおまえに完璧に甘えられている証拠だろ。おまえをどれだけぞんざいに扱っても大丈夫だって、離れていかないって、そういう自信があるってことだろ、と言われた。
そうか。確かにそうだ。
宇宙人もたまには、いいことを言うもんだ(←おい!)
昼間は暑いのに、夕方になると一気に寒くなる。
汗をかいていたと思ったら、今度は半袖の腕に鳥肌が立つ。
秋の空は変わりやすく、身体も対応し切れないが、心もそうか。
娘も最近、大人しいなと思ったら、また仕事が辛い!とメンヘラ具合を発動している。
多分、旦那にも抱え切れず、話を全部は聞いて貰えなくて、私に言ってくるのだろう。
女はなんだかんだ、そうやって周りに助けを求められるから強い。
でも、男は…特に息子はそうじゃない。多分、娘の旦那も。
悩みが深ければ深いほど、それが自分の問題であるほど、ひとりで解決しようとして、自分の中に引きこもる。
しかし息子が案外、自分のことをわかっていることを知れてよかった。
情けなくても、思ってることを彼女に言えていて、良かった。
それで彼女に嫌われても、それは仕方がない。
でも彼女はそんな子じゃない。
賢く、強く、でも寂しがり屋で少しだけ計算高い。
抜けているところもあるけど、しっかりするところはしっかりしている。
私からしたら、とても頼もしく、そしてほんの少しだけ可哀想なところもある子だ。
いや。きっとみんな、そうだ。
強い部分もあり、弱い部分もある。
いいところも、悪いところもある。
でもだからこそ、お互いがお互いを必要としていた。
そのままでは緩やかに死んでいく生命のシステムは、そのバランスを保つためにこそ、大きく壊しながら変化することがある。
コエゾセミは、昼間の高くなった気温のときに、ジー、ジー、ジーと大きく鳴くのだが、しかし盛夏のときのそれとは違って、音が途切れ途切れになっていた。
明らかに鳴く個体は減り、そして息絶え絶えなのだった。
メスに巡り会う確率もひどく低くなっただろう。
それでもコエゾセミは、辺りの木々を震わせるほどに、私の鼓膜を切り裂くほどに、大きな音を鳴らした。
裂けば何も入っていないその腹は、この音をずっと森の奥深くまで響かせるための、大きな空洞でできている。
わかるかよ。
息子よ、彼女よ。
私の言いたいことが、私が感じてきたことが。
なぜ私が、山へ連れていくのか、なぜ、私が山が好きなのか。
彼女とご飯を食べている時。
息子は、毎回、テレビでちいかわを流すのだという。
それは私がちいかわを知るよりもずっと前からで、私がなんの前触れなく、なんとなく映画を見に行きたくなったのは、たぶん、そういうことだった。
なんか、ちいさくて、かわいいやつ。
ちいかわ。
息子は、ハチワレだよな。
私もそうだけど。
トンチンカンで、器用なようで不器用だったり、計画的なようで行き当たりばったりだったり、人の気持ちがわかってるようで、わかってない。
息子よ。おまえがちいかわが好きなのは、母ちゃんはわかるぜ。わかりすぎるほどに。
⬆️まったく関係ないけど、ものすごくいい記事(ˊo̴̶̷̤ꑣo̴̶̷̤ˋ)ヤァーハァー!!

