謝罪の王様 | 想像と創造の毎日

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写真は注釈がない限り、
自分で撮影しております。


呆れるぐらいくだらないのに
本当に大事なことを
さりげなく入れてくる

クドカンはホントに天才だね

ーりりこの息子  16才(陸上部・学生)-





地上波で放送されていた宮藤官九郎脚本の映画、
"謝罪の王様"を息子が録画していました。
彼はこれがすこぶる面白かったらしく、私に早く見ろ!と急かします。
クドカン作品は私も大好きなのですが、全部の作品が好きというわけではないのです。彼は私の中で当たり外れの差が激しい監督(今回の作品は監督ではないが)さんです。
しかし笑いの感性が、私と息子はとてもよく似ていますので、彼が言うのならば間違いないのでしょう。映画を見るためにリビングのテレビのチャンネルを変え、ゲームを始めようとした息子を制したにも関わらず、彼はこれを見るなら仕方がないな。と、コントローラーをテーブルに置き、代わりに勉強道具を広げました。
自分が面白かったと思うものについて、誰かに共感して欲しいと思う気持ちはよくわかる。
そしてこれは、私と息子にとって、夫や娘とは共感できない感性なのです。
私が観賞しながら、大声で笑ったり、しんみりと涙ぐんだりしていると息子は言いました。
「な?おもしれーだろ?けど、この感覚は、〇〇(娘)たちにはわからんだろうね。」

主人公阿部サダヲ演じる黒島は、謝罪の方法などを教える職業を営む。彼は、ヤクザやセクハラで訴えられた人、不祥事を起こした息子を持つ大物芸能人夫婦などに裁判になる前に許してもらう謝罪の極意を伝授する。やがて、彼らを通じて黒島の謝罪の仕事は国際問題にも介入していくことになる。というストーリーです。

阿部サダヲの大げさな演技や、高橋克実の顔芸など、視覚に頼った笑いが中心にありながら、物語の中にちょっとした伏線があり、あとになって視聴者をクスッとさせながらそっと押し付けがましくなく回収されるセンスは、朝ドラのあまちゃんでよく見かけた手法ですが、これが物語を中だるみさせない。

というかクドカンのすごいなって思うところって、あまちゃんの時で感じたのだけど、震災というあの重いテーマを扱いながら、あれだけくだらないギャグやらを俳優陣たちにサラッとやらせて、普通なら不謹慎だとか言われてもおかしくない内容なのに、クドカンが作るとそれを全然感じさせない。彼が作り出すキャラクターは、みんなわがままで自己中心的で個性的なのだけれど、それぞれの間にある人と人との距離感が絶妙なのだと思う。それは、無関心であるとか、大人としての絶妙の間というものではなくて、みんなが感情をぶつけ合いながら、欲望に正直。けれども、だからこそ、最終的には仕方ないよね。という感じにサラッと場面は流れて、見ている方もいつのまにか細かいことを気にすることがバカバカしくなってくる。
いろんな事件やいろんな間違いがあって、それでも、まあ、しょうがないか。今、生きてるんだし。って、そういう押し付けがましくない赦しのようなものを作品から感じる。

映画の中で、なぜこの仕事を始めたのか?とお客様の一人に尋ねられて、阿部サダヲがこう答えるんです。
「世の中にはただ謝って欲しいだけの人がいっぱいいるんじゃないかって。
   裁判とか慰謝料とか示談とか勝った負けたとかじゃなくてさ。
  ただ、ごめんなさい。が聞きたいだけの人が。
  そしてその、ごめんなさい。が言えないあんたみたいな人も。
  謝りたい人が謝れば、謝って欲しい人は笑顔になる。
  世界はもっと平和になるんですよ。」

人はみんな間違う。
間違うことを避けようとしても、避けられないのは、人は本来みんな自分勝手で、わがままに生きていきたいというあらゆる欲望を満たすことこそ、生きる幸せだと認識しているからだと思う。
それでもそれぞれが、自分のわがままを押し通すことと他人のわがままを許容するバランスを取りながら、できるだけ争わないような社会になることを祈り、試行錯誤を続けているのです。

クドカンは、自分の作る映画やドラマのキャラクターの中の偉そうな人に恥を掻かせて、平凡な私のコンプレックスを払拭させてくれたりもする。
どんなに偉い人も、間違いを犯し、くだらない欲望に振り回されている。だけどそれでいいんだ。それが生きることなんだと伝えてくれているみたいにも思える。あまりのバカバカしさに何を見ていたのか覚えていられないぐらいなのに、なぜか見た後は妙に清々しい気持ちになる。決してすべてがハッピーエンドではないのに、虚しさを感じることがない。

クドカンは人がすごく好きで、でもきっとあまり好きじゃないのかもな。どうしてかそう思って息子に伝えると、オレもそう思う。と返ってきた。
みんなで遊ぶ時と同じぐらい、一人の時間を愛している。そういう精神的自立を息子とクドカンから感じた。同列に並べるのは、恐れ多いのだけど。