古来の納骨式が無事にすんだ日の晩、有田と多良崎は六甲山頂に鎮座する「天狗岩」へとむかった。






「天狗岩」は、神戸の【100万ドルの夜景】を一望できる高台の名所である。



      kobe

「おぉ。天気がいいと、対岸の関西空港まで見えるんだな。」 有田が声をあげた。


「この辺にしようぜ、有田。」

有田は古来の遺骨が納められた小瓶を丁寧に取り出した。


「ここなら古来のオヤジも喜んでくれるだろう。」

二人は「天狗岩」の山頂付近に、古来の遺骨を埋葬した。

「たまに遊びにくるよ。オヤジさん。」

「ここで、神戸の活躍をみていてくれ・・・。」


      :


それから3日後、六甲スタリオンの玄関にタクシーが停まり、少しやつれた栄太郎が降り立った。


「みなさん、ただいま戻りました。」

「お、えいくん。帰ってきたか!」

「遅くなってすみません、おかげでゆっくりできました。」


「オヤジさんのことは、少し落ち着いたようだな。」

「はい、多良崎さん。」

「ぼちぼちやっていこうぜ!」

「はい。」

   :



「有田さん、多良崎さん。」

「ん?」


「響牧場で、マルゼンエッジの世話をしてきましたよ。」

「エッジの世話?!つらくはなかったのか?」

「今度の事故はエッジには何の責任もないですから。」

「そりゃ、そうだが・・・。」


「マルゼンエッジは、チャンピオン杯の疲労がかなり濃いようです。」

「ほう。」

「カイバもろくに食べませんし、馬体重も出走時から20kg近く落ちてました。」

「激走の反動か・・・。」


「生来、脚元の弱い子のようなので、戦線復帰はだいぶ先になりそうですね。」

「そんなに悪いのか?」


「ええ。父も、皐月賞に間に合うか微妙だ、と言ってました。」

「そうか。えいくん、古来さんの死でツライときにすまないね・・・。」

「いいえ。僕はオヤジさんと約束したんです。二人で最強馬を産みだそうって」

「最強馬・・・」

「はい。それで、マルゼンエッジから何か学べるものがないか、自分なりに観察してきたんです。」

「えいくん・・・。」

「マルゼンエッジの強さは高い心肺能力もさることながら、その脚に秘密があったんです。」


「脚に秘密?」

「エッジの脚には特徴があって、”つなぎ”の部分が、異常なまでに柔らかいんです。」

「”つなぎ”?」

「”つなぎ”とは人間のくるぶしにあたる箇所で、球節と呼ばれる関節の部分です。 」

「ほう。」

「マルゼンエッジの脚は、10万頭に1頭いるかどうか、という珍しい脚のようです。」

「10万頭?!」 多良崎が思わず声をあげた。

「”つなぎ”がクッションのように柔らかいので、エッジの歩様は弾んでるように見えるんです。」

「たしかに、チャンピオン杯のパドックで、ヤツの歩様が気になっていたんだよ。」

「球節が柔らかいことで、トモの蹴っぱりに弾力が増し、あの爆発的なスピードを生み出しているんです。」

「なるほど・・・。」

「しかし、この”つなぎの柔らかさ”は、エッジにとって”諸刃の剣”でもあるんです。」




「・・・驚いたよ、よくそこまで調べたな。まさに、”男子三日会わざれば、刮目して見よ”だな。」


「頼りのオヤジさんは、もういませんからね・・・。オヤジさんの遺志は、僕が継がないと!」

「天国のオヤジさんもきっと喜んでくれてるよ。えいくん、頼りにしてるぞ!」

「はい!」


「ひとつ聞いてもいいか?」 横で聞いていた多良崎が割って入った。






「なんでしょう?多良崎さん。」





「結局、どうすればマルゼンエッジに勝てるんだ?」

「そ、それは・・・きっとマスターが考えてくれますよ! (^▽^;)」





(栗東・富士川厩舎)




「ヘックション! (><;) 」











(つづく)




古来と少年の二人は意識不明のまま、それぞれ集中治療室に担ぎ込まれた。






栄太郎からの連絡をうけた有田と多良崎そして古来夫人は、取るものもとらず高知へと向かった。伊丹空港から飛び立った彼らが病院についたころ、あたりはすでに闇の帳がおりていた。

「先生!古来の様子は?」 

「古来さんのご家族の方ですか?」

「ええ。私は古来の妻です。主人の容態は・・・」

「おくさん、我々も手を尽くしてみましたが・・・残念です。」

「え?」


「ご主人の容態は極めて危険な状態にあります。余命はもって数日・・・。」

「そんな・・・!」

「オヤジさんが・・・」 




(数時間後・響牧場)

つきっきりで看病するという古来夫人を病院にのこし、一行は栄太郎の故郷・響牧場に向かった。

「響牧場がなければ、あのとき、エッジを乗せた馬運車にも出会わずにすんだんだ・・・。」

「栄太郎くん・・・。」

「そもそも、僕が誘わなければ、こんな事態にはならなかった・・・。」 栄太郎はくやしさをにじませた。

「あんまり自分をせめるな、えいくん。」 多良崎が声をかける。

「ウッ!ウウウウウッ!」 涙がとまらない栄太郎を見ているうちに、有田と多良崎の目にも熱いものがこみ上げてきた。

「古来のオヤジ・・・」

「これからってときに、なぜ・・・。」









翌日、古来が命を懸けて守った少年は、一命をとりとめ意識を回復していた。


「コンコン」

「はい?どちらさまで?」

「神戸ホースクラブの有田と申します。お邪魔してもよろしいですか?」

「あぁ、古来さんの・・・?どうぞ、お入りください。」

「・・・失礼します。」




「ボウヤ、よく頑張ったな。まだ身体は痛むかい?」 有田がベッドに横たわる少年に語りかけた。

「うん。大丈夫だよ。それより、あのおじちゃんは大丈夫?」

「やさしいボウヤだね。ありがとう、おじちゃんも元気だよ。」

「良かった!」

「じゃあ、おじさんたちはもう行くね。しっかり休んで、早くよくなるんだよ!」 そういって有田と多良崎、栄太郎は少年に別れをつげ退室した。


「ガチャ」

「あの・・・」

病室を出た3人を、少年の母が追ってきた。

「どうされました?お母さん?」

「じつは、タカオ・・・息子は、右足を切断したんです・・・。」


「ええええええええ!(((゜д゜;)))」


つきつけられた残酷な現実に、呆然と立ちつくす男たち。






「ボウヤは、そのことを?」

「まだ知りません・・・。」

「そ、そんな・・・。」

「脚を切断するしか、たすかる道はない、といわれて・・・。」

「つらい決断でしたね・・・お母さん。」

「ウッ!ウウウウ・・・・!」

その場に泣き崩れる少年の母。

「お母さん、しっかりしてください!一番ツライのはタカオくんなんですから!」 多良崎が母親を抱き抱えた。

「す、すみません・・・。ウウッ・・・」

「・・・・・・。」


古来が有田たちに見守られながら息を引きとったのは、3日後の大晦日のことであった。 一度も意識が戻ることなく、男はあの世へと旅立っていった。











栄太郎は涙が枯れるまで泣きつくした。






除夜の鐘が鳴りひびく闇夜には、真っ白な粉雪が舞っていた。














(つづく)





栄太郎と古来夫妻が年末の大掃除を終えたころ、六甲スタリオンは夕日に照らされ真っ赤に燃えていた。

「やれやれ、ようやく片付いたな。」

「オヤジさん、オカミさん、今年はお世話になりました。」

「こちらこそ。来年もよろしく頼むぞ!」

「はい!」

「とーちゃん、どっちが牧場長かわからないよ・・・。」

「おっと・・・すまんすまん!」


「お二人は正月はどちらに?」

「どちらに?と言われても・・・静内の実家は売り払ってきたし、ここでのんびり寝正月だよ。」

「とーちゃん!あんまりゴロゴロしないでおくれよ!」

「へい・・・」


「あの・・・、良かったら僕の実家に来ませんか?」

「えいくんの実家って、土佐・響牧場にかい?」

「いつもお世話になってるお礼に、是非ご招待したいんです。」

「そうだなぁ・・・、どうする?かーちゃん。」

「せっかく誘ってもらってるんだから、いっておいでよ。とーちゃん。」

「オカミさんは?」

「アタイのことは気にしなくていいよ。また倒れて、みんなに迷惑かけちゃいけないからね。」

「よし。じゃあ・・・お邪魔するか!」

「はい!」




(翌日・高知市内)

高知市内で昼食をとった二人が店を出ると、あたりはすっかり雪景色であった。


「雪か・・・。」

「どうりで冷えると思いましたよ。このぶんだと、路面も凍結してますね。」

二人は食後の運動がてら、あたりを少し散策することにした。


「馬の温泉治療で有名な響牧場には、全国から放牧馬が集まってくるんだろ?」

「そうですね。でも小さな牧場なんで、故障馬や疲労の濃い馬を優先的に引き受けてます。」

「なるほど。」


「瀕死の重傷だったグリーンワールドも、回復しつつあるようですよ。」

「ほほう。さすが、名湯の力は絶大だね。」


「ドスン!」

「いてー!」 駆け足で駆けてきた少年が、勢いあまって古来とぶつかった。

「おおっと、大丈夫か?ボウズ?」

「これ!タカオ!ちゃんと前を向いて走らないとダメじゃない!」

「あっかんべー!」

「申し訳ありません。お怪我はございませんか? 」

「あ、おくさん気にしないで。大丈夫ですから。」

「おじちゃん、ごめんねー!」

「元気がいいな、ボウズ!」

「うん、子供は風の子だよ!じゃーねー!」


「へへ、かわいいね。うちのセガレにもあんな頃があったっけ・・・。」

「ムスコさん、交通事故でお亡くなりになったんですよね・・。」

「ああ。ちょうど1年前のこんな粉雪の舞う日だったっけ・・・。」

「す、すみません!嫌なことを思い出させちゃって・・・。」

「なあに、気にするな。さあ、行こうか。」

「オヤジさん・・・。」





      :





「あれ?あの車・・・」

「ん?どうかしたか?」


「むこうから馬運車が・・・。」

「響牧場への放牧馬を乗せてるんじゃないか?」


「おかしいな・・・。信号は赤なのに、減速する気配がありませんよ・・・。」

「おい、様子が変だぞ!スリップしてつっこんでくるぞ!」


「マズイ!子供が車道を横断してます!」


「あ、あれは・・・さっきのボウズ!」



「タカオー!!!危ない!」

「チッ!間に合うか?!」

「オヤジさん!無茶だ!!!」




「キキキー!バァーーーーン!!!」




「キャアアアア!」


「オ、オヤジさん!!!!」


路面スリップで制御を失った馬運車は、古来と少年の身体を突き飛ばして停車した。

「タカオーーーー!」


「オヤジさん!誰か、救急車!!!」







「う・・・、ボウズは・・・?」

「しっかりしてください!オヤジさん!」


栄太郎は、血まみれの古来のそばに停まった馬運車を見上げた。すると、そこには思いもかけないネームプレートが飾られていた。











マ、マルゼンエッジ?!











(つづく)


チャンピオン杯の打ち上げも兼ね、神戸HCの忘年会が有馬の料亭で盛大に執り行われていた。






「それでは、乾杯の音頭をマスター富士川、お願いします!」

「イエッサー!」

「え~・・・。思い起こせば、神戸さんと出会ったのは、夏の木漏れ日がまぶしい静内・・・」

「城崎のキャバクラだろ! (第6話)」


「・・・オッホン!それでは気を取り直して、スーパーキッドのG1レース2着に乾杯!!!」

「乾杯!」

「ワイワイガヤガヤ」


「いやー、今年は充実した1年だったよ。」有田がビールをついでまわる。

「沖田くん、グリーンワールドが世話になったね。来年もうちの馬たちをよろしくたのんだよ!」

「こちらこそ、よろしくお願いします。」

「牧場も開設したし、来年はワシらの飛躍の年にしようじゃないか!」 古来が笑った。  

「打倒・レッドバロンでごわす!」 ばんばのカツも気勢をあげた。

「ワイワイガヤガヤ」



「・・・・・・。」 


「あれ?多良崎さんどうしたんですか?さっきから一言もしゃべってないようですけど?」 栄太郎が多良崎に声をかけた。


「・・・・。みんな、何か忘れていないか・・・。」 


「ん?何をだ?」 有田が声をかけた。


「あ・・!もしかしてヌルハチのことでごわすか?」 ばんばのカツの一言に、場が静まり返った。


「トップガンか・・・。」


「そうだよ!デビューの目処すら立たないなんて、どういうことだよ・・・」 


「まあまあ。そのうちデビューできるって。心配するな、多良崎。」


「そのうちっていつだよ?!」


「プッ!ギャヤハハハハ!」 マスター富士川が我慢しきれずに吹き出した。それまで我慢していた一同も、いっせいに笑いころげた。


「き、きさまら?!」


「デビューできないのは、ミーのせいではアリマセーン!」 


「てめー、富士川!この野郎!」


「101回もゲート試験に落ちる馬なんて、聞いたことナイデス!」


「ムカツ・・・100回だよ!西郷!トップガンはおまえのお手馬だろう?黙ってないでなんとか言え!」


「なんのことでごわす?」


「て、てめー!岩見沢で”オイにはヌルハチが必要でごわす”って言っただろ?!」


「オイにはスーパーキッドが必要でごわす。」


「コ、コロス・・・」


「ウハハハハ!」







「ムキー!おれは帰らせてもらうぜ!」 そういうと多良崎は宴会場を後にしてしまった。

「あらら・・・ほんとに気が短いね、アイツは。」 有田が笑いながら茶碗蒸をかきこんだ。











「ねえ、カツさん。一度ゲート試験に騎乗してあげたら?」 


「沖田はん・・・。」


「多良崎が機嫌悪いと、何をしでかすかわからんからな。オレからもひとつよろしく頼むよ。」


「有田はん・・・。わかったでごわすよ。」

        :

        :



「ん?何を考え込んでるんだ、えいくん。」


「古来のオヤジさん・・・。別に・・・。」


「なんでもいってみろ」


「マルゼンエッジ・・・あんなに強い馬がいるなんて。」


「ん?」


「あんなすごい馬をみたら、なんだか自信がなくなっちゃって・・・。」


「ハハハ。たしかに強い馬だな、マルゼンエッジは。」



「僕らがどんなにがんばろうと、あの馬を超える馬は生産できないんじゃ・・・。」


「どうやらきみは、多良崎さんと同じ悲観論者のようだな。」


「そういうわけじゃないですが。エッジはなんというか、今まで見たどんな馬とも違うような・・・」


「・・・最強馬、か。」


「ええ・・・。エッジこそが史上最強馬なのでは・・・。」



「”最高の絵画はまだ描かれていない.最高の脚本はまだ書かれていない”って名言を聞いたことがないか?」


「え?」



「すでに成し遂げられてしまったものなど、何一つとしてない。世界中のすべてのものは、

 これから成し遂げられるのを待っているってことさ。」



「これから成し遂げられるのを待っている・・・」



「そう。マルゼンエッジが最強馬なら、おれたちはこの先、なんのために馬を生産する?」



「オヤジさん・・・。」



「最強馬なんてものは、まだどこにもいないのさ。なあ、えいくんよ。最強馬はわしらの手で産みだされるのを待っているんだ!素晴らしきかな未来!だよ。」



「古来のオヤジさん・・・」







「 ちょっと待ったー!史上最強馬は、オカダトップガンだ!!!」





「多良崎さん?!戻ってきたんですか!」





「多良崎。トップガンは、史上最強馬「鹿」だろ?」





「ワハハハハハ!」









(つづく)





「マルゼンエッジの化けの皮をはいでやりなサイ!」 マスター富士川が絶叫した。







速い速い!グインが飛ばしに飛ばす!これは速すぎないか?松長、いくらなんでもこれは速い!この超ハイペース、追い込み勢には有利な展開か!

さあ、第三コーナーですが、依然グインと後続との差は五馬身から六馬身。マルゼンエッジ、おっと、マルゼンエッジが動いた!マルゼンエッジ、三コーナーで動いて行った!さあ、これを見てエッジ以下も動いていく!後続が一気に差を詰めてきます!


第四コーナー、さあ、詰まった詰まった、グインが捕まった!エッジが、エッジが前との差を一気に詰めて先頭に並んできます!


「ウワアアアア!」


さあ大歓声、大歓声!マルゼンエッジが先頭に躍り出た!凄い競馬になった、凄い競馬になった!マルゼンエッジが早くも先頭に立った!後ろからは何が来る、さあ、エアロサイレンス伸びるか、

その外からヒデノブライト、ロックブライアンなどがいて、ダンシングデビルあたりはまだ後方か、オーバーザワールドはどこだ?スーパーキッドもまだ後ろだ!

ゴールまで残り200!さあ、マルゼンエッジが先頭だ!二番手以下は大混戦!エアロサイレンスか、ヒデノブライト、外からオーバーザワールド!そして・・・












「ちぇすとぉ―! (`Д´) 」




さあ、きたぞ!スーパーキッドだ!”ばんばのカツ”が雄たけびあげて、スーパーキッドが飛んできた!ヒデノブライトが真ん中、外からオーバーザワールド、さらに大外からスーパーキッドが伸びてくる!






さあ、マルゼンエッジを追う各馬!ダンシングデビルはちょっと伸び脚無いか、ダンシングデビルはピンチ! エッジが先頭だが、ヒデノとワールド、そしてキッドが来る!どうした富士田!エッジにムチは入りません!富士田のムチはまだ動かない!


ヒデノブライト・オーバーザワールド、そしてスーパーキッドも差をつめてきた!追い込み三銃士が怒涛のスパート!さあ、追い比べ!追い比べだ三銃士!自慢の強脚ははたしてエッジをとらえるか!エッジとの差は1馬身!その差はわずかに1馬身!

「クソッ!こうなったら仕方ない!」 我慢の騎乗を続けてきたマルゼンエッジの鞍上・富士田が、意を決してムチを振りおろした。





ああ!!!エッジに左ムチ!富士田の左ムチが飛んだ!ついにマルゼンエッジにムチが入った!






「ググググン!!!」



あ・・・あぁぁぁっ、伸びた伸びた!エッジが伸びた!突き放す、突き放す!これは何という馬か、マルゼンエッジが突き放したぁ!


2馬身・3馬身・・・みるみる差が広がっていく!マルゼンエッジがついにエンジン全開!これにはだれもついていけない!


場内大歓声!みんながこれを待っていた!マルゼンエッジ!完勝劇で、今ぁゴールイン!!!





「ウワアアアア!」

やはり役者が違ったか!一着はマルゼンエッジ!






二着以下は四馬身ほど離れて混戦!強脚一閃スーパーキッドがどうやら二着に入った模様!その後も混戦!あぁ・・・レースを引っ張ったグインは、どうやらブービーのようです・・・。

しかし何とも言葉がありません!一旦は並ばれるかというところから更に伸びて突き放しました!勝ちタイムはなんと1.58.0!末恐ろしい2歳馬の名はマルゼンエッジ!父ラムタラ・母シル、オーナーは石河龍太郎さんです!








「ウワアアアアア!」



ウイニングランで大観衆の声援に応えます鞍上・富士田!ああ、斉藤調教師の安堵の表情も見えます!






デビュー以来、はじめてマルゼンエッジにムチが入りました!これがマルゼンエッジの本当の力なのか!やはりエッジは強かった!やはり噂通りの逸材でした!まさにチャンピオンに相応しい一頭であります!

(つづく)





さあ、ついにこの日がやってきました、京都競馬場。グレードワン・チャンピオン杯、2歳馬によるチャンピオン決定戦であります。芝の2000mで行われます出走馬は18頭、馬場コンディションは良!有力所に故障もなく、真の意味で一番強い馬を見ることができそうです!







「ウワアアアアア!」




「ブツブツ・・・」


「さっきから何をブツブツ言ってるんですか?マスター?」 助手の沖田がたずねた。


「あーなって、こーなって、・・・・最後にズキューン!」 マスター富士川はなにやら妄想にふけっている。



「おーい、沖田くーん!」


「あ、有田さん!多良崎さん!」


「どうだい?スーパーキッドの調子は?」


「いい状態に仕上がりましたよ。キャリア不足は否めませんが、このメンバーに入っても全く見劣りしませんね。」



「そうか、そいつは楽しみだ!それにしても・・・」 多良崎がチャンピオン杯の馬柱を見つめた。


「ああ。ミラクルスターが出てこないとはな。拍子抜けもいいところだぜ。」 有田は納得がいかない様子。



「ミラクルスターですか。出てきたら当然人気になってたでしょうね。先週行われた速風S(G2)でも圧勝してましたし。」



「おのれ、ガッツめ!逃げやがったか!」 有田がうそぶいた。


「巷の話題は、すでに皐月賞でのマルゼンエッジvsミラクルスターの頂上対決で、もちきりですよ・・・。」


「チャンピオン杯のエッジ勝利は予定調和ってわけか・・・。」 多良崎が不機嫌そうに言った。



「いや、それはどうですかね。僕の目には、今日のエッジは100%のデキには見えないんですよ。キッドにも十分勝機はあると思います!」


「よし!キッドの爆発力に期待しよう!」



「ウワアアアア!」


「おっと、そろそろ時間のようだ、多良崎!」


[へへ。やっぱり、G1は何度経験しても興奮するね!」





既にゲート入りが始まっております。断然人気はもちろんこの馬、マルゼンエッジで1.2倍。ダンシングデビル以下は混戦ムードであります。さてさて、どういった競馬になりますか。



最後にグインが誘導されまして、さあ、会場の盛り上がりが最高潮に達します------




「ガシャン!」 スタートしました!


先ず行くのは何だ、グインだ!グインが飛び出していった!グインが先頭に立ちました!さあ、押した押した!グインがぐんぐん行ってこれは凄い、他馬を三馬身、四馬身、五馬身と離して行きます!



「ウワアアアア!」



離れました後続集団の先頭におります、マルゼンエッジ。ちょっとこの位置取りはどうか、前を追いかけながら後ろからマークされるこの位置はちょっと辛いか、マルゼンエッジ。 その後ろにはブラックバード、ブラックバードがおりまして、エアロサイレンスが内、ロックブライアンがいます。






一馬身離れてヒデノブライトがここ。ダンシングワールドがいます。さあ、その直後にこれもダンシングでありますが、ダンシングデビル。ダンシングデビルは十番手あたり、十番手あたりを進んでいます。


更に後方集団、ここにオーバーザワールド。オーバーザワールドが今日は後方から行きます。そして最後方にスーパーキッドと初コンビの西郷。エッジ以外の有力どころはまとめて後方から。さあ、後ろからエッジを交わすことが出来るのか。


「シンジラレナーイ! (≧▽≦)」 レースを見つめるマスター富士川が思わずガッツポーズをとった。


「マスター、どうしたんですか?!」 


「シンジラレナイくらい、私の予想通りの展開デス!」


「ええ?!」



「サイボーグホース・グインの大逃げと、爆発的な末脚を持つスーパーキッドの最後方待機。前と後ろの挟み撃ちで、マルゼンエッジを血祭りにあげてやりマス!名付けて、浅井・朝倉の”金ヶ崎の戦い”大作戦!」


「あの・・・、”金ヶ崎の戦い”の顛末を分かってるんですか?!」








(つづく)






「くそぉ・・・」





栗東に向かう車の中では、有田が怒りに震えていた。





「レッドバロンめ・・・汚い手を使いやがって!」

レッドバロンHCの女帝・ガミラス知美の怒りをかったことで、神戸HCは窮地に追い込まれていた。


「すまない、有田。」 助手席の多良崎のすまなそうな顔を見て、有田は余計に腹がたった。

「悪いのは向こうじゃないか?なんでお前が謝る!」

「有田・・・。」


「みてろよ、レッドバロン!この借りは大舞台できちんと返すぜ!」

「大舞台って・・・クラシックか?!いくらなんでも気が早すぎるぞ、有田。」

「いや、クラシックまで待ってられるか!その前に、チャンピオン杯で借りを返すのさ。」


「な?!!!2歳G1のチャンピオン杯?!」


「ああ。チャンピオン杯にスーパーキッドを出走させる。そこでミラクルスターを叩きのめすのさ!」

「ムチャだ!新馬戦を勝ったくらいで、勝負になると思っているのか?」

「スーパーキッドの力は、まだまだあんなもんじゃねぇよ、多良崎。」

「有田・・・」


「さあ、マスター富士川にキッドをみっちり鍛えてもらうぞ!」


「それにしても、レッドバロンから電話がかかってこなかった富士川厩舎って・・・。」





             :
             :


    (栗東トレセン)


「くそぉ・・・」






栗東の富士川厩舎では、マスター富士川が怒りに震えていた。


「サイトウめ・・・誰が”最高の調教師”か、思い知らせてやりマス!」

リーディングトップを独走する美浦の斉藤調教師。その彼を目の敵にしている富士川は、彼に一矢を報いるべく、ある2歳馬の調教に没頭していた。

「マスター!無茶しないでください!それ以上は馬が壊れますよ!」

マスター富士川の異常なまでのスパルタ調教に、助手の沖田も困惑気味だ。

「シャーラップ!沖田くん!こいつはそんなヤワな馬じゃないデス!」

「でも・・・。」

その日18本目の坂路調教をおえた馬は、2歳馬とは思えない巨体と、鋼のような筋肉をまとった優駿であった。

グインは私が作り上げたサイボーグホース、これくらい朝飯前デス!」

「(た、たしかに息一つ乱れていない・・・。なんて馬なんだ!)」 理詰めの沖田には理解できない怪物であった。

「さあ、グイン!もう1本行きマスヨ!にっくきマルゼンエッジを倒すのデス!」

グインと呼ばれる若駒は、19本目の坂をスイスイと駆けあがっていった。

「まってなさい、サイトウ!ワハハハ!」


            :
            :


    (美浦トレセン)


「くそぉ・・・」






美浦の斉藤厩舎では、名伯楽・斉藤が唇をかみしめていた。

「ムチを使いたくても、使えない・・・。マルゼンエッジの脚は、まさにガラスの脚ですね。」  調教にかけつけた主戦騎手の富士田もくやしさをにじませた。







「しかし・・・!チャンピオン杯は、エッジにとって大きなターニングポイントになるだろうね。」

「!ということは・・・。先生、エッジにムチを入れるのですか?」

「ああ。チャンピオン杯ではムチを使わざるをえない、だろうね。」

「いいんですか?エッジの脚は、己のスピードに耐えれるんですか?」

「それは私にもわからん。ただ、クラシックに向けて、大きな試金石になるだろう。」


「クラシック・・・」


「それにしても、私の調教師人生において、これほどまで脚元の弱い子は初めてだよ。」

「そして、これほどまで強い子も・・・初めて。」 冨士田がイタズラっぽく笑った。

「フフ、そうだね。たしかにそうだ、富士田くん。この子の底知れぬ力には恐怖すら感じるよ。全力で走れば、いったいどれほど強いのか・・・。」

「”神の子”に、負けは似合わないですね。見ていてください、チャンピオン杯は絶対に獲ってみせますよ!」












「・・・なあ富士田くん、聞いてくれ。勝つことはたしかに重要だ。しかしそれ以上に、大切なことがあるんだよ。」


「え・・・?」







「もし、レース途中で少しでも違和感を感じたら、即座に追うのを止めてくれよ。」






「は、はい・・・。」


「この子たちは我が子も同然。親なら、我が子の無事をなによりも祈るものだよ。」


「ハハハ、分かりましたよ先生!本当にいい人ですね、先生って。」


「そ、そうかなぁ・・・?」


「ええ。斉藤先生は間違いなく、”最高の調教師”ですよ!」


(つづく)





お待たせしました。徐々に緊張が高まっております京都競馬場、今日のメインレースはマイルCSであります。芝のマイル戦、出走馬十六頭、快晴馬場コンディションは良。絶好のG1日和となりました今日の京都競馬場、まずは印の付いた馬から解説して参りましょう。






本誌本命は11番のトモミナンバーワンであります。レッドバロン総帥の名を冠した素質馬は、G1、G2、G3、非常に安定した成績を残しております。前走秋風Sを使ってここは照準を絞ってきた感じであります。

対しますゼッケン12番のウインドジュエルでありますがこちらは牝馬、しかも3歳という年齢であります。三番手評価はちょっと割れた感じでありますがマッドヘリオス、春の古馬マイル王マキシあたりか。更にはバクシンマツカゼ、ブラックキャンディなど錚々たる顔ぶれ。





人気二頭とこのあたりまでの実力差は皆無と申し上げて宜しいかも知れません。それほどにタレントの揃った今回の一戦。発走は間もなく、物凄いレースになることは必至、楽しみに致しましょう!


さあ、これから各馬引き込み線の奥、スタート地点での枠入りが始まろうとしているところです。豪華なメンバーが集まりました今回のマイルCS。スターター既に壇上でありましてこれから旗が振られます。

「ウワアアアアア!


奇数番は既にほとんどがおさまっておりましてこれから偶数番の各馬というところ。マッドヘリオスなんとかすんなり収まって欲しいんでありますが・・・おお、入りました。大人しく入りました2番のマッドヘリオス、そしてアローヘッド、カグラスター、バカボンシャトルなど続々と収まってソースヤキソバと行って全馬十六頭。スムーズです。スムーズでありますフルゲート十六頭のゲートイン。今完了しまして・・・

「ガッシャン!」スタートしましたっ!

飛び出しました十六頭、好ダッシュ見せたのはブラックキャンディ、トモミナンバーワン、そしてマッドヘリオスでありますがさあ何が行くのか。何が行きますかハナ争い、マッドヘリオス富士田騎手、力強く押して行ってトモミナンバーワンはスッと控える形、ブラックキャンディは上がって行って前はどうやらマッドヘリオスか、

2番のマッドヘリオスが大方の予想通りハナを切る体勢であります。半馬身、一馬身とリードを取っていって二番手抑えますブラックキャンディと竹本豊、三番手バクシンマツカゼ押して上がって来てウインドジュエルは外を良い感じに追走できている、後方遅れましてジェル、マキシが大外から行ってトモミナンバーワンがその内。

あとはバカボンシャトル、ソースヤキソバなど固まって前は二コーナーを右にカーブして向こう正面へ、逃げますマッドヘリオス、マッドヘリオスがここで一馬身半、二番手これを見るような形でブラックキャンディが追走でありますが三番手バクシンマツカゼがちょっと差を詰めて上がって行ったか。

ウインドジュエルはちょっと抑えましてそこから一馬身差、ジェル、マキシあたりも続いていってトモミナンバーワンは馬群の中、バカボンシャトル、ソースヤキソバなどがおりまして後方クレームアンジュ、オートレーサーなど一団になって進みます。前は飛ばしに飛ばします2番のマッドヘリオス。

二番手ブラックキャンディは良い感じで追走している感じ、三番手かなり接近してきたバクシンマツカゼでありますが、前は早くも三コーナー、三コーナーを回っていく先頭マッドヘリオス、富士田騎手は手綱を持ったまま、持ったままで二番手三番手、接近してくるブラックキャンディとバクシンマツカゼでありますがおっと、おっと、

大外から一気に、おおこれは一気に11番のトモミナンバーワン、まっていったぞ横谷典弘、早め早めのこの仕掛け、前マッドヘリオスとブラックキャンディに迫ってきたトモミナンバーワン、最初に動いたのはトモミナンバーワンだ!これは面白いことになった、面白いことになったマイルCS、

先頭はマッドヘリオス、ブラックキャンディ一馬身差でありますが並んでくるトモミナンバーワン、三コーナーから最終コーナー、一気に動いたトモミナンバーワンが三番手から二番手並んでそのまま、そのまま先頭を追って最終コーナー、後方ウインドジュエル、マキシ、ジェルなどが圏内で、さあ最後の直線、各馬最後の直線に入って参ります!

「ウワアアアアアア!」

先頭はマッドヘリオス、一気に外目トモミナンバーワンが追って来る!更に外からはウインドジュエル、ウインドジュエルもぐっと先団に取っついてさあ追った追ったトモミナンバーワンが二番手から先頭、一気にここで先頭に立って抜けてくるのか、抜けてくることが出来るかどうか、

マッドヘリオスとトモミナンバーワン、マッドヘリオスとトモミナンバーワン、懸命に両者ムチを打ち合って僅かにトモミナンバーワンが出てくるか、根性見せるかマッドヘリオス富士田、三番手から差し返してくるブラックキャンディ、ブラックキャンディもまだ脱落していない!そしてそして、そして後方外からはウインドジュエルがやって来るっ!

前はトモミナンバーワン、前は僅かにトモミナンバーワンが出たかっ!マッドヘリオスとブラックキャンディ二番手三番手でありますが大外、やはりやはり!やはりこの馬が飛んで来る!ゼッケン13番のウインドジュエルと畑原世紀、素晴らしい末脚、素晴らしい末脚を披露して観客魅了する最後の直線でありますが、

先頭はトモミナンバーワン、トモミナンバーワンが先頭だ!外からウインドジュエルが飛んで来て坂を駆け上がってくる前は二頭、前は二頭が抜けだした感じになって三番手懸命にマッドヘリオス、ブラックキャンディ今日は踏ん張りが利かないか、もう一度、もう一度ブラックキャンディというところでありますが前は二頭、前は二頭が完全に、完全に抜けてきて・・・

二頭の争いになったマイルチャンピオンシップ、直線最後は二頭の争いだ、さあ見物、さあ見物でありますゴール前の凄まじい攻防、先頭はトモミナンバーワン、豪快な、豪快な仕掛け、豪快な騎乗を見せた横谷典弘!

そうはさせじとウインドジュエル、ウインドジュエルが外から懸命にこれを追って更に一馬身後方、一馬身後方三番手にヘリオス、ブラックキャンディ並んでいるか、あとはどうだ、後はもう、後はもう離されたマキシ以下、

前はトモミナンバーワン、追った追ったウインドジュエル、半馬身からクビ差、二頭並ぶか、並んだか、並んだか、トモミか、ジュエルか、トモミか、トモミ振り切ったか、振り切るのか、やった、取った、トモミナンバーワンで今ぁ、

ゴールイン!!!!トモミナンバーワンが勝っていますー!!勝ったのはゼッケン11番のトモミナンバーワン!いやあ、凄い競馬、凄い競馬でしたゴール板前の大攻防!やりました、トモミナンバーワン、ウインドジュエルは二着ぅー!その後はマッドヘリオスとブラックキャンディ二頭が並んで三番手争い。







「ウワアアアアアア!」





横谷典弘騎手、何度もガッツポーズ、何度も右手を上げて歓声に応えております。素晴らしい騎乗でありました。素晴らしいレースでありましたマイルCS、制したのは11番のトモミナンバーワン、父ネーハイシーザー・母ミニスカート、オーナーは常勝軍団レッドバロンHCです!

いやぁ、強い!レッドバロンHCは今年5つ目のG1タイトル!

非常に見応えのあるレースとなりましたマイルCS、京都競馬場のメインスタンド、惜しみないトモミコールがこだましております!





(つづく)





「ガミラスさん、初対面のご挨拶にしては、おふざけが過ぎますなぁ。」 有田が笑顔で応対する。






「あら、そうかしら?」

「ガミラス夫人、ご無沙汰してます。」

「あら。貴方はたしかルストマ・シーランドの・・・。」

「若林です。」

「そうそう、若林さん。貴方、まだルストマ・シーランドなんかに雇われてるの?」

「(ムッ!)ええ、まあ・・・。」

「さっさと辞めて、うちのところにいらっしゃい。」

「ハハハ・・・。」

「(なんてイヤな女なんだ・・・。)」

「(他人のものをなんでもガッツクから、”ガッツ”と呼ばれてるんじゃないか?)」

顔を見合す有田と多良崎。






「で、神戸さん。いかがですの?」

「さて、どうしたものですかな。」 有田の愛想笑いが怖い。

「ここに5億の小切手があるわ。セバスチャン!」

半歩後ろに控えていたセバスチャンと呼ばれる大柄な男が、小切手を取り出した。


「なかなかいい馬みたいだし、レッドバロンが責任をもって管理させていただきます。」

「5億・・・?!」 若林はあっけにとられている。

「バシャーーーー!」


そばで黙って見ていた多良崎が、飲みかけのビールをガミラス知美の頭からひっかけた。

「キャアアアア!」




「アウ!奥様ーーー!」



「少し頭を冷やしな、オバハン・・・。」


「な・・・なんてことを!」

ガミラス知美の顔が、怒りでみるみる真っ赤に染まった。

「金で買えないものはないってか?」 

「多良崎、その辺でやめとけ!」 若林が止めに入る。

「オバハンですって?!・・・私はまだ32よ!!!」

「200%、オバハンだよ。」

「クッ!なんなの?コイツ!!」 

ガミラス知美は目に涙を浮かべながら、走り去っていった。

「あらら、神戸HCの第一印象はいまいちかな?ウハハ!」 有田が大声で笑った。

「いまいちどころか、最悪ですよ!」  若林は心配顔。

「まあ、いいさ。最初に仕掛けてきたのはむこうなんだ。」 そう言って多良崎は競馬エイトに目を落とした。

「とんだ邪魔が入ったな・・・。さて、スーパーキッドの勝利を古来さんに報告しようぜ、多良崎。」

「おお、そうだった!喜ぶだろうな・・・古来夫妻!」

「全く・・・なんて人たちだ。」 若林は呆れ顔でその場をたった。

「それにしても、あのガミラス夫人の顔・・・プッ!」 思い出し笑いをこらえるのに必死な若林であった。


          :
          :

「キーーー!あいつら、絶対に許さない!」 真新しいスーツに着替えなおしたガミラス知美は、かたわらに立つ男になにやら耳打ちした。





イタリア人である父親譲りの端正なマスクに、真っ白なスーツが映えるその男は、レッドバロンHCの番頭・江草理音(えくさりおん)であった。レッドバロンHCの事実上の実権は、この男が握っているらしい。どうやらガミラス知美とは、仕事以上の関係のようだ。



「もしもし江草だ、・・・・・・・・そうだ!分かったな?!」 





「期限だと?【無期限】に決まってるだろ!!」






江草は、手当たりしだいに電話をかけはじめた。



「アウ、奥様・・・、江草様はどちらへ電話をされてるので?」 セバスチャンが、恐る恐る尋ねる。


「めぼしい調教師と騎手に電話させてるのよ。」

「アウ?」

「にぶいわね!神戸HCの馬には、今後一切、関わらないように指示してるのよ!」

「ええ?!」

「見てらっしゃい!私に恥をかかせた代償は大きいわよ・・・!」


          :
          :

          :


「プルルル」 キッドの勝利に酔う有田の携帯が鳴った。

「おや、誰かな?」

「おお、北ジョッキー!キッドの好騎乗、お見事でした!ええ、今夜、祇園で待ってますよ!・・・・え?!」

有田の顔色が変わった。

「今夜は祇園にこれない?え?次走からは、騎乗できないって?そんな!あ、ちょっと・・・!」

「どうした?有田。」 

「北ジョッキーが・・・、今後はうちの馬には騎乗できないって・・・。」

「ええええええええ!」


「プルルル」 間髪いれずに有田の携帯が鳴った。


「やれやれ今度は誰だよ?おや、伊藤調教師からだ。」

「アリタブライアンらを預けてる伊藤先生か。何の用だ?」


「もしもし、伊藤先生?どうも有田です。


         :


   ・・・・ええ?!転厩手続き?!」

(つづく)



絶好のG1日和となりました今日の京都競馬場、メインレースのマイルCSは、午後3時40分の発走となります。本日の第一レースは新馬戦、芝1600m・15頭で争われます。1番人気は、ハラシマゴールド。レッドバロンHC所有の良血馬です!




「おい、レッドバロンだって・・・。」 馬主席でモーニングビールを流し込んだ多良崎が声をあげた。


「チッ!スーパーキッドのデビュー戦に水を差してくれるか・・・。」



「有田、まさか勝つ気でいるんじゃないだろうな?」


「いけないか?」


「あのな・・・。キッドはまだ入厩して2週間だぞ!誰の目にも、仕上がり途上は明らかじゃないか!」


「まあ、そうさわぐな。分かってるよ、そんなことくらい。」


「どうせ、キッドには期待してないんだろ?他の良血2歳馬達は、じっくりと調教をつませてるくせに!」


「オレがキッドには期待していないだって?ウハハ!」 有田の笑い声はとにかくでかい。




「おや、誰かと思えば神戸さん!」 有田の笑い声に反応した男が、二人に近づいてきた。



「おまえは、若林!」


「やあ、多良崎。元気にしてたか?」


マイルCSに出走するウインドジュエルの応援に、北海道から駆けつけたらしい。



「どうも、有田さん。ご無沙汰してます。」



「久しぶりですな、若林さん。」



「ウインドジュエルの調子はどうだい?」 多良崎が旧友・若林にビールを差し出した。


「ああ、調子はいいよ。但し、マイルCSは古馬の力が1枚上だろうけどね。」


「何いってるんですか、ジュエルの単勝をがっぽり買ってるんですから、勝ってもらわないと困りますよ!ワハハハ。」 有田が10万円の単勝馬券を取り出した。


「うわー、あいかわらず勝負師ですね、有田さん!こりゃ責任重大だ・・・。」 




「敵はやはりマッドヘリオス、そしてトモミナンバーワンですかな?」 


「いや、有田さん。あの2頭の力は、今日のメンバーの中でも抜けてますよ。正直、3歳馬のジュエルにとっては格上の相手です。」


「そんなこといって、雷風記念(第46話)では、その2頭を打ち負かしたじゃないですか?」


「雷風記念は6ハロンでしたからね・・・。マイルでも結果が残せるなら、来季の展望が明るくなるんですが。」


「ジュエルには、グリーンワールドの分も頑張ってもらわないと!」


「そうだぜ、若林!」


「フ~、まいったな・・・。」


「ワハハハハ!」




「ガシャン!」







「ん?お、おい!レースがスタートしたみたいだぞ!」 


「えええええええ!(((゜д゜;)))」



各馬揃ったスタートでありますが、まず行くのはオートレーサーか、オートレーサーがやはり逃げる構え、オートレーサーが出鞭を振るってハナに行きます。二番手はナイスバージョンが付けたか。


その後ろにミハエルジハードが行きます。そしてジェネクロスがちょっと押っつけ気味。サクラサチ、ミカドスペクターがおります。さあハラシマゴールドはここだ、そして、それを眺めるようにスーパーキッド。ちょっと抑えているか、北ジョッキー、スーパーキッドはやや抑えきれない感じです。


さあ前に戻って、先頭はオートレーサー、オートレーサーが後続を離して大逃げの構え、徐々に、徐々に差を広げてリードは四馬身。二番手このあたりミハエルジハードが抑えきれない感じで、その後にナイスバージョンが付けます。ハラシマゴールドもちょっと上がっていった感じで八番手あたり、


さあオートレーサーが軽快に逃げてリードをもう五馬身近く取っています。ミハエルジハード抑えられないか、二番手であります。ナイスバージョン三番手からミハエルに並んでくる、ハラシマゴールドも八番手から七番手、さあ最終コーナーに向かってオートレーサー、オートレーサーがただ一騎、ぐんぐん行きまして直線に向かいます!

「ウワアアアアア」



さあ最後の直線に向きまして、オートレーサーが先頭!オートレーサーのリードは四馬身、ミハエルジハードは鞭が入っている、さあオートレーサーだ、オートレーサーだ、オートレーサーが先頭!


先頭はオートレーサー、リードはまだ四馬身ある、さあハラシマゴールドはどこだ!?スーパーキッドは内に潜ったか、しかし前は馬込みだ、上手く出せるのか、スーパーキッド!


二番手からミハエルジハード、そして後はジェネクロスが外目から追い込んでくるか、ジェネクロスが来るか、先頭はオートレーサーで残り200!オートレーサーが粘っている、さあスーパーキッドは馬群の中、キッドはピンチ!キッドはピンチ!二番手にはハラシマゴールドが上がってきた!


逃げる逃げる逃げる!オートレーサーが逃げています、京都競馬場、さあ大歓声だ、大歓声だ、二番手からハラシマゴールド必死に差を詰める!さあ先頭はオートレーサー、ハラシマゴールド届くかどうか、


ああっ!スーパーキッドが漸く馬群を割って伸びてくる、おおっ、これは凄い脚!さあ、来たか、来たか、スーパーキッドと北がやって来た!おおっ、一気に、一気に差を詰めて……交わした、交わしたっ! いやあ、凄い脚ぃ! 一気に先頭はスーパーキッド、最後は抑える余裕を見せてゴールイン!!







「ウワアアアアア」







そして二着は辛うじてオートレーサーがクビ差ハラシマゴールドを抑えた感じ。 しかし強い、いやあ、強い!エンジンが掛かってからの伸びは尋常じゃありません、スーパーキッド!凄い末脚を見せてくれました!! 勝ちましたのは、ゼッケン1番スーパーキッド!父ナムラコクオー・母シーズグレイス、オーナーは神戸ホースクラブです!




「お、おい、有田・・・。 (((゜д゜;)))」 多良崎が驚嘆の声をあげた。


「ハハハ・・・、見たか?多良崎。」 さすがの有田も笑顔がひきつっている。


「わ、若林、驚くなよ。キッドは入厩してまだ2週間なんだぜ。」


「え?!それでレースに使うなんてムチャな!(((゜д゜;)))」


「へへへ・・・。」 有田が照れ笑いを浮かべた。



       :

       :



「ご歓談中、失礼します。神戸HCさんですね。」


「へ?」


「私はレッドバロンHCのガミラス知美と申します。」



「え!貴女がガッツ―もとい、ガミラス夫人?! (((゜д゜;)))」



「はじめまして、有田です。こっちは多良・・・。」






「あまり時間がないので、手短に用件を話します。」





「え?!」






「おたくのスーパーキッド号、いくらで売ってくださります?」

「えええええええ?!(((゜д゜;)))」



(つづく)