(美浦・斉藤厩舎)
「斉藤先生!マルゼンエッジが皐月賞を回避するって本当ですか?!」
「そうなんだ、富士田くん。ジョッキーの君には、申し訳ないがね・・・。」
「そんな!」
「チャンピオン杯の疲労がああも大きいとは予想外だったよ。それに、高知での不慮の事故が我々スタッフに大きなダメージを与えたし、そこに追い討ちをかけるように、ここへきての熱発だろ?正直、お手上げの状態だよ。」
「だからって、逃げるんですか?」
「勇気ある撤退、だよ。富士田くん。」
「負けるのがそんなに怖いんですか?」
「・・・・。」
「”王者はいついかなる状態でも、挑戦を受けて立つ責務がある” 先生は、いつもそう仰ってるじゃないですか?」
「富士田くん・・・。」
「マルゼンエッジは王者なんです!回避という選択肢はないはずですよね?!」
「・・・。」
「それに、まだ負けると決まったわけじゃないですよ。僕はエッジの力を信じています!」
「富士田くん・・・。」
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(皐月賞当日)
中山のメインレースは皐月賞、グレードワン。2強対決で盛り上がる中山競馬場から中継でお伝えしています。出走馬は18頭。生憎の雨でありまして馬場コンディションは重。さてこのあたり各馬にどう影響してきますか。
過ぎし日の、グラスワンダーVSエルコンドルパサー以上の盛り上がりを見せている場内では、既に大勢の観衆が”その時”を待ちわびています。
一番人気は万全の状態で来ているミラクルスターで2.5倍。マルゼンエッジは体調面での不安が囁かれて3.0倍の二番人気となっています。意外な形で実現した二強対決。
数分後に結果が出ると思うとなにかこう、鳥肌の立つ思いが致します。 二強に挑戦する形となった他の馬でありますが、三番人気はスーパーキッドで8.0倍と続いております。
(解説席)
吠々アナ:紀ノ川さん、皐月賞の解説をよろしくお願いします。
紀ノ川解説員:はいはい。
吠々アナ:いきなりですが、ミラクルスターを本命にした理由からお聞きしましょう。
紀ノ川解説員:僅かに力はエッジが上だと思ってるんですが、体調面での不利を考えると今回はミラクルに分があるだろうと。エッジは四ヶ月近い休養を挟むわけですからね。
吠々アナ:うーん、四ヶ月の休養明けは確かに辛いですね。
紀ノ川解説員:辛いなんてもんじゃないですよ。しかも熱発明けでもある。これで勝ったら素直に兜を取るしかないです。
吠々アナ:それでもエッジを対抗に推していますね。
紀ノ川解説員:まあそれだけこの二頭が抜けているということです。三番手評価はスーパーキッドにしていますが、正直面白みはヒデノブライトの方があるかも知れませんね。
吠々アナ:前走、休み明けでミラクルスターの二着しています。
紀ノ川解説員:素質は相当なものでしょう。早くから目を付けていた一頭なんです。今日も状態は良いようですねぇ。非常に楽しみです。
吠々アナ:あと、目に付いた馬などがいたら仰って下さい。
紀ノ川解説員:グインなんかが不気味ですね。この大舞台でまったく動揺していない。若虎杯の逃亡劇がまた見れるのか?
吠々アナ:なるほど。有り難うございました。ではもう一度、二強についてコメントしていただけますか。
紀ノ川解説員:印は打ってみたものの、やはりどちらが勝つのかは分からない、というのが本音です。ただエッジは噂通りいつもの迫力というか、覇気がちょっと感じられません。身体もまだ完調とまではいかないですね。これでミラクルに勝ったら……ちょっと恐いですね。
吠々アナ:そうですか。やはりエッジ不利と見るわけですね。有り難うございました。では実況にマイクを渡しましょう。
(パドック)
「斉藤先生、ありがとうございます!」
「私にだって、リーディングトレーナーとしてのプライドがあるしね。富士田くん、出るからには、もちろん勝ちにいくよ!」
「(勝ちにはこだわらない先生が・・・!)」
「・・・頼んだよ、富士田くん!」
「わかりました!マルゼンエッジを必ず勝たせてみせます!」
「さあ、いっておいで!富士田くん!」
(本馬場入場)
まずはグインの入場です!マスター富士川の秘蔵っ子グイン!凄まじいスパルタ調教に堪え、よくここまで来ることが出来ました。逃げ脚と根性、そして体力は誰にも負けません。調教の成果がここで試されます。鞍上は松長、前走は若虎杯1着。
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「ウワアアアア!」
歓声が湧きます、さあ入ってきた赤い彗星・ミラクルスター。今日もその凄さを見せてくれ、歓声にも全く動じない精神力はさすがであります。エッジ神話に終止符を打つのはやはりこの馬か。六連勝の不沈艦は今日も威風堂々!鞍上は海老名、前走は中山杯、1着。
一時期、トレーニングセンター内で「二強を負かせる馬」と話題になった素質馬の登場であります。兄の無念を晴らすのは今、オーバーザワールド。何と言っても名手岡辺とのゴールデンコンビ。「奇跡の末脚」は健在か。前走は中山杯4着。
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「ウワアアアアアア!」
おおっと、もの凄い歓声であります。さあ登場しました、ご覧下さいこれが神の子・マルゼンエッジです。ターフに姿を見せるのは、じつに昨年のチャンピオン杯以来。ああ、やはり凄い人気です、マルゼンエッジ。スタンド、割れんばかりの大声援であります。エッジ神話は今日も続くのか。体調不良が伝えられていましたが実際の所はどうなんでしょう。ゆっくりとキャンターに入りましたマルゼンエッジ。鞍上は富士田、前走はチャンピオン杯、1着。
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ヒデノブライト。斉藤師が二強に並ぶ器と評価しているのは周知の事実。休み明けをいきなり好走して、一気に人気が高まった感がありますが果たして今回はどうか。鞍上は喜田騎手。前走は中山杯2着。
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さて、最後の紹介となりますのは昨年のチャンピオン杯ではエッジにもっとも近づいた馬。最強の末脚が中山で爆発するか、スーパーキッド。鞍上”ばんばのカツ”こと西郷。神戸ホースクラブ所有、前走成績は若虎杯2着。
「キッドー、がんばってー!」
「どうだい?タカオくん、よく見えるだろ?」
「うん!有田のおじちゃん、キッドは勝つよね?」
「もちろんさ!古来のおやじさんが、きっと勝たせてくれるよ!」
さあ各馬ゲートインが既に始まっております。昨年のチャンピオン杯に集ったメンバー、プラス、ミラクルスターという図式が実現しただけも貴重なことです。存分に楽しみたいと思います、夢の皐月賞。ゲートインは完了!スタートを待ちます……
(つづく)