いよいよ時行くんたちにとっては過酷な展開となる南北朝のラスボス足利尊氏による大反撃のターンが始まりました。劇中では本格的な活躍を始めた高師直・師泰兄弟。ラスボスの最高幹部である彼らが如何に兄弟で恐ろしすぎるかを見せつけた今回。
足利軍のビッテンフェルト・高師泰
兄の師直が「南北朝のオーべルシュタイン」で一見すると水と油のように見えて、実に良いコンビネーション。あの2人は赤の他人だからこそ犬猿の仲ですが、実の兄弟だったら、まさにその正反対な性格はむしろいい節合材になるんじゃね?ラスボスと腹黒い弟の兄弟を見るとそう思えてきます。遂にその恐ろしさを見せつける結果となった高兄弟。それに対する三浦兄弟の選択は?
〇荒れ狂う暴風・高兄弟の脅威
名越高邦らの軍勢をあっという間に撃破してしまった足利軍。それでも三浦軍大将の時明は怯むことなく迎撃の命を下します。予定では砦の左右に伏兵を幾重にも仕掛け、左右から横撃を喰らわす予定だったのですが…
三浦時明「バカな…完璧に隠した伏兵の位置が…瞬時に見破られた?」
呆気なく用意していた伏兵が無力化されてしまったことに愕然。それは足利家執事・高師直が自ら直接指揮で運用を始めた天狗衆でした。信濃での頼重さんらの偽偏情報にまんまと騙されて、時行くんらの挙兵を察知できなった失態から師直は自らが指令を下す形での運用に変更。実際、キチンと指示と報告によって運用された天狗衆の威力は恐ろしく戦う前に既に情報面で劣勢に立たされていたわけです。
高師直「目と口と手足は奪った。あとは裸の本陣を潰すだけだ」
本陣だけとなった三浦勢。それでも三浦時明と八郎兄弟は戦意は失わずに立ち向かおうとします…
高師泰「あっそ期待外れだ、三浦時明」
武勇も決して人並外れだった猛将の三浦時明の片腕をあっさりと斬り落としてしまった師泰。なんだ、この圧倒的絶望感。更に八郎の方も猛牛のよう…というか『長谷川ナポレオン』のスーシェの如く牛面の今川頼国によってあっさり跳ね飛ばされてしまいました。
解説「五回を超す大合戦に全て圧勝。僅か八日で東海地方を抜け鎌倉に迫った」
ダメだ…南北朝のラスボスが出てくる前にその腹心兄弟が出てきただけでも戦闘力が違いすぎる
まさに暴風のように荒れ狂い、本家の如く猪のように撃砕していく師泰。師直は背後でキチンと手綱を取るかのように指示を出しながらこちらも一騎当千の如く三浦の兵を斬り捨てていく。時行くんらの北条本隊に一切情報を与える暇もなく、電撃戦で一気に決着にもっていく寸段です。実際、高兄弟の戦闘力の前に三浦勢は成す術もなく蹂躙。もはや現状も認識できないまま呆然とする八郎に師泰がトドメを刺そうとします。
しかし、片腕を失いながらも一刻も早く本隊に報告するために体当たりで師泰を食い止め、弟を救い出し、単騎で足利軍の中を脱出する気概を見せた三浦時明。更に襲い掛かる天狗衆も拳で撃退してのけ、何とか脱出に成功。戦では圧勝しながらも、三浦兄弟を取り逃がす形になった高兄弟なのでした。
〇生きる限り…三浦兄弟の決意
脱出に成功したものの、2人を騎乗させたままでの騎馬のスピードは限界。そして今や瀕死になった時明は限界の刻を迎えようとしていました。辿り着いた海岸で、弟の八郎に一人で鎌倉まで報告に向かうように命じます。自らは壺の中に隠れて休むと言う時明。
三浦時明「心配するな、俺は生きる。あの小さな大将の命令だからな」
回想の中での時行くんの言葉を思い出す時明。何度も裏切りの悪評と共に生きていた時明が自らの嫡子を人質に出そうと申し出た時に、時行くんの言葉は意外なものでした。
時行くん「三浦殿の命じます。貴方の嫡男は人質ではなく足利軍に参加を」
時明にある苦悩、それは三浦家の惣領として自家の存続を図る責任と共にあることを察するかのように、生き残りのために全力を尽くすよう励ます時行くん。意外にも泰家叔父さんも前向きです。たとえ北条が勝っても今や透明人間と化している諏訪時継を使って連れ戻すと激励します。
先祖のメフィラス義村…三浦家は常に裏切り者の汚名と共にそれでも必死だったのは生き残ること。それは多くの家でも同じことだったでしょう。そしてちゃっかり背後にいる頼重さんも「保険」をかけていることにも触れる本作。実を言うと諏訪も一枚岩ではなく、中先代の乱では足利方に属した諏訪の人間の存在が史料上でも確認されています。実際、本作の舞台となる南北朝の時代を生きる人々にあったのは生き残ることがまず第一。だからこそ、鎌倉幕府→建武政権→南北朝とジェットコースターの如く時の権力は移り変わる中で「忠義」に拘るだけでは生きてはいけないのです。他ならぬ時行くん自身もまた「生き残るために逃げる」ことを頼重さんによって覚醒させられたことで今の彼がある。
時行くん「美学の檻に囚われず、貴方の命と一族の命をどうか大事に」
この時、初めてこの侍王子の器量に忠誠の心を持った時明。だからこそ蟷螂の斧でしかなくても彼は高兄弟に立ち向かったと言えるでしょう。一度は悪評の中で生き残ることに疲れ、自らの代で滅ぶことも覚悟のうえで時行くんの下に帰参を決意した時明。その苦衷を察した上で生き残るために全力を尽くすよう道を用意してくれた時行くん。
弟に三浦家の人間として足利の下にいる自らの息子を支えて欲しいと頼む時明。それは八郎に対して、北条を捨てさせるという重大な決断を迫るものでした。
三浦時明「八郎、個人の正義で守れるものはたかが知れている。大勢の人に対して責任を持て。そうすれば人もお前についてくる。それが正義を守る力になる」
乱世の中だからこそ生き残ることで正義を守る道筋を諭す。たとえここで正義を守って命を落としてもそれは個人のものでしかない。大勢の人を守る責任の下に生きている中で守れる正義がある。そう今まで三浦家惣領としての責任と共に生きていた時明が弟に託し、八郎もまた兄の今までの苦衷を察します。
解説「記録で見る時行軍の特徴として戦場で自害する武将が足利軍より明らかに少ない」
足利の武将たちはあっさあり敗北するやすぐに自害してしまうケースが多い。それに対して、北条の将は最後まで戦うか、降伏するか、それとも逃げ延びて再起を図る。それはまさに総大将の時行くんがその人生であったように「命を大事に使う」ことが共有された証と松井センセイは教えてくれます。これは私も思う所がありまして、例えば史実における関東廂番衆である渋川&岩松コンビは女影原の戦いで負けが決まるとあっさりと自害してしまいました。しかし、それによって腹黒い弟の直義にとっては貴重な自らの手足と頼む人材が減ってしまったと言う意味で打撃だったのです。もし彼らが生き残りに全力を尽くしていてら…と思わずにいられません。
涙を流しながら「北条の家臣」として最後の務めである報告を果さんと去る弟を見送りながら、壺の中で時行くんとの短い交流を思い出しながら、希望の心を持ったまま息を引き取った三浦時明。
なるほど、史実での「甕の中に隠れていたら生き埋めとなって命を落とした」という状況をこういう風に前向きな描写にして、感動の場面にしたのかと感嘆する思いです。いくらここは史実通りだと格好がつきませんからね。解説で触れられている通り、中先代の乱で足利を裏切り、北条軍の主力を成した三浦家ですが、時明の遺児は罪を問われることなく、三浦家はまさに生き残ることに成功したのでした。
この段階でネタバラシになっちゃっている(・・;)。さて八郎についてですが、彼についてはあるいは「三浦八郎左衛門」をモチーフにしたキャラなら、高兄弟との因縁はやがて15年後に巡ってくることになりそうです。
〇決戦!相模川の戦いへ…
8月18日。八郎のもたらした情報に基づいて時行くん・頼重さんら北条軍本隊は相模川にて足利軍本隊と遂に主力同士が対峙する決戦に臨もうとしていました。三浦時明の犠牲が報われて、北条勢も戦闘準備も万全です。しかし時行くんの心中はいかばかりか…三浦時明に名越高邦、折角鎌倉奪還と共に得た貴重な味方を短期間に喪失してしまった。またしても南北朝のラスボスによって「奪われてしまう」結果となってしまいました。しかし、弧次郎も亜也子も決してそれで怯むことはありません。
弧次郎「それで今さらビビるかよ」
亜也子「見てて若様、あの本陣に潜む尊氏を引きずり出してみせるから」
時行くんの為に戦士として成長を遂げた逃若党の面々は今度こそ時行くんの為にラスボスとの雌雄を決する戦いに臨もうとしていました。
一方の足利軍も今度の戦いで北条軍に息の根を止めようとしてしました。師直が先陣を命じたのは弟である範満の仇を取らせんとして、牛の面を被った今川頼国でした。
弟の範満が馬面なので「対」として「牛頭鬼・今川頼国」その強さは・・・?
長谷川ナポレオンにおけるスーシェを彷彿させる牛面が「只者じゃない」感を漂わせている…と思った時がありました(遠い目)