このところ更新が遅くなりまして申し訳ございません(何度目だ)。越前国への転封で色々と多忙を極め、なかなか更新が進みませんが、このままでいくと本当に色々と取り返しがつかなくなりそうなので、簡易になりますが、書こうと思いました。
さて今回の肝は南北朝のラスボスの腹黒い弟・直義。兄が色々な意味で人間離れしているので、直義の方は常識人のように思われがちですが、今回で改めて「…やっぱり直義もまた南北朝のラスボスの兄弟だわ」と実感した次第。尊氏が天然の洗脳ならば、直義は言葉巧みに人間を魔道へと堕とす洗脳術の持ち主。まだ渋川義季や石塔範家の場合はキチンとした適性を見極めたうえでの能力UPと言えますが、今回明かされる今川範満…彼が「オニ」へと変貌させた背景はどう見ても兄譲りの洗脳術。
魔神の弟は魔人
流石は観応の擾乱という名の「史上最も大迷惑な兄弟喧嘩」で数々の禁じ手を行い、収拾のつかない大混乱を引き起こした御仁のやることは違いますね。やはり「あの兄にして弟だよね」という納得の人物像となりました(笑)それでは本編感想参ります。
〇大人の出る幕
上杉憲顕が切り出した「改造人間」である長尾景忠と対峙することになった弧次郎。その体格から繰り出すとは思えない凄まじいパワーにやはり尋常ならざる力によって強化されていることに気づき、戦慄。実際に上杉配下の白衣の研究者たちによる薬物投与によるパワー強化を淡々と記録しています。
上杉憲顕「…ふむ長尾景忠。即席の改造で使い捨てるには惜しい素材だ」
元々麻薬を投与していた段階でも「良素材」と見込んでいた上杉でしたが、ここまで良好な結果を見せた長尾の素質に改めて興味を持った様子。
弧次郎「…くそっ、渋川だって倒せたのにこんな貧相な武士に苦戦なんて…」
一方の弧次郎は強化された長尾に対する苦戦で焦りを見せています。渋川という強豪をも倒したことがある意味自信になっているのですが、同時に過信になっている様子がチラホラ。長尾の力は薬物投与であっても彼自身の精神力が尋常ではないことにもあるのです。
ここで保科&四宮の大人コンビが大活躍
冷静に観察して、自身が替わると出てきたのが保科弥三郎。食って掛かる弧次郎に刀の柄によるゲンコツで一喝されてしまいました。
保科弥三郎「図に乗るな!相手の力量を測ってから戦をしろ!!」
弧次郎ならずともおまゆう案件な台詞ですが、相方の四宮が評するように保科は頭に血が上らなければ優秀な武将。きちんと諭すように弧次郎への忠告を忘れません。弧次郎は確かに武士として10歳にして優秀な素質を開花させているが、まだ手練れとの戦では厳しいものがある。渋川との戦はそれこそ頼重さんの策、時行くんらのサポートによるものであったということを諭し、弧次郎の熱くなりすぎている部分を指摘。おお、ちゃんと保科は本当に長尾景忠の戦士としての侮れない力と弧次郎の過信を観察していました。そしてまだ10歳の子供であるからこそ、なんでも自分が背負うなと大人としての襟度を示す。
マジ、保科カッコいい!!
四宮左衛門太郎「そういう事だ、弧次郎。まだ主君をお前ひとりで背負い込むな。
志があればこそ大人を頼れ。そのために保科党(おれたち)がいる」
きちんと時代の過酷な運命に翻弄されながら、戦いに身を投じる時行くんら逃若党の子供達。特に時行くんは既に泰家叔父さん以外の親族も殆ど失い、孤児といってもいい。そんな時行くんのために戦う弧次郎もまた責任の重圧で危険な戦いに身を投じているのですが、やはり頼重さんや諏訪神党の大人たちはキチンと諭してくれます。まさに
大人が大人としてキチンと存在感を発揮できる作品は名作、はっきり分かるんだね。
弧次郎があれほど苦戦していた長尾をにも一太刀浴びせる保科、生きていればこそこうしてその才能を発揮でき、そして今は巡り巡って時行くんたちの重要な味方になっている。本当に胸熱です。
〇腹黒い弟の洗脳
遂に明かされた今川の過去と素顔
かつて「瑪瑙」という優秀な馬と出会い、その才能に惚れこんだ今川範満。馬が大好きで、それが高じて馬の才能を見抜く得難い素質を持った今川が出会った瑪瑙はまさに駿馬であり、今川にとってはまさに唯一無二の存在でありました。馬に乗る武士にとっては馬とは戦いの乗り物であるだけでなく、様々な意味で欠かせぬ存在。解説にもある通り、全てを兼ねる財産であるのです。古今東西、優秀な将や戦士には名馬は欠かせません。それだけ名馬を見抜く「鑑定眼」も大切なのです。そして、瑪瑙に惚れこみ戦場を駆け抜ける今川にとっては至福の時でありました。
…
別離は突然に
瑪瑙が射殺されてしまう悲劇に見舞われて心を病んでしまった今川。髪も結わず、ひたすら死に装束の恰好で瑪瑙の後を追おうとするほどでした。心配する家臣たちと共に現れた上司である南北朝のラスボスの腹黒い弟・直義。既にこの戦いでも示されていますが、優秀な騎馬武者を仕留めるには当人を狙う必要はありません。戦となれば、まず馬を狙って攻撃をかければいいのです。その意味で不可避であった運命。しかし今川はその現実を受け入れることができなかったのです。今川の優秀な才幹を買っている…そう直義もまた他の廂番衆がそうであるように優秀な武将の才幹をキチンと見抜いている為政者。だからこそこのまま今川が朽ち果てさせるわけにはいかないのでした。何としても今川を立ち直らせ、その才幹を足利のために役立たせなければならない。そして直義が立ち直らせた手法は…
足利直義「瑪瑙の凄さは…馬の潜在能力を引き出すお前の超馬術があってこそだ。その馬術を限界まで極めるのだ。そして駄馬に乗ってそれをやれ」
駄馬なら使い捨てにしても惜しくはない。その能力をフルスロットルで引き出し、亡き瑪瑙の代わりとなる。言っていることはまさに生命を使い捨てにする非道でしかないのですが、
兄の南北朝のラスボス足利尊氏は天然で人を狂わせますが
腹黒い弟は計算ずくの冷徹な言葉で人を狂わせる。
足利兄弟はまさに強大なるラスボス的存在
かくして見事に今川を立ち直らせ、同時に狂気の騎馬武者と化した馬頭鬼と化したのが今の今川でした。そして今、今川は追い込まれながら、理性を取り戻したかのように奥の手を繰り出します。それは持っていた槍に備え付けられた謎の針。それを今乗っている馬の頭に突き刺し、
馬の脳の新皮質だけを吸い取ると理性が破壊され、潜在能力を抑えるものが何もなくなる
馬を愛し、その身体構造などを知悉している今川ならではの恐るべき策。何しろそんな器用に馬の脳に的確に突き刺し、新皮質だけ吸い取るなんて真似ができるものではない。そして狙い通り、馬は凄まじい超加速で時行くんに追いつきます。それはかつての瑪瑙に一瞬だけ出会える今川にとってはほんの一瞬の至福の時。
今川範満「ああ、この加速だ。一瞬しか会えない俺の宝石」
純粋にかつての愛馬と再会できる喜び、しかしそれと同時に馬を使い捨てにする非道さとそれでもなお止められない狂おしいほどの愛。遂に時行くんを追い詰めた今川。辛うじて今川の斬撃を交わしますが、遂に万事休すかと思われたその時…時行くんが感じたのは今川が流す涙。それは馬を愛するが故にくる良心の呵責に押しつぶされた涙でしょうか。そしてその背後には吹雪が斬りかかります。
それにしてもコマが大きいんだけど凄すぎて情報量が追い付かない。次回いよいよ決着です。