男1人で
1人で海に遊びに来た男がいた。
うちに入ったお客さんだ。
大学生か社会人になりたてという感じ。
フラッと売店に来てはビールやチューハイを買っていた。
オレが喫煙場所でタバコを吸っている時、
その男も現れ、タバコを吸い始めた。
「さっきからひとりだけど、連れはいないの?」
と聞くと、
「急に休みが取れて、そうだ!海に行こう!!と思って着ちゃいました。」
と答えた。
「ひとりでよく来たね。退屈じゃない?」
と言うと、
「ここなら電車で一本だし、初めてひとりで来たけど、のんびりできていいですよ。いつもはヤローばかりで騒いでおしまいたから。」
なるほど、そうかもしれないと思った。
そして、
「まわりで騒いでいる人たちを見て、俺たちいつもあんな事してるのかって思っちゃいましたよ。」
と言って笑った。
「あれはあれでいいんだよ。みんな楽しみに来てるんだから。」
「ですよね。」
「但し、迷惑さえかけなければね。」
と、一応クギを差しておいた。
そして、
「退屈になったら売店に来ればいいよ。話し相手くらいはできるから。」
と言って別れた。
女2人で
女の子2人がキャーキャー言いながらウキワに空気を入れていた。
別々の会社だが、休みが合ったので海に来たと言っていた。
「大丈夫か?」
とオレが聞くと、
「平気、平気。」
と言いながら、なんとかウキワに空気が入った。
早速、海に入って遊んでいる。
遊び疲れるとパラソルの下で寝ている。
このふたり、
ひとりは日焼けしたい派。
もうひとりは日焼けしたくない派。
焼きたくない彼女はTシャツを着たまま遊んでいる。
これは正解だ。
顔、腕、脚だけ日焼け止めを塗っておけば、ある程度は日焼けは防げる。
それに海で遊ぶこともできる。
それを焼きたくない彼女に言うと、
「ありがとう。」
と言って、念入りに日焼け止めを塗っていた。
それとは逆に焼きたい彼女はサンオイルを塗って日射しの下にいる。
売店がヒマになったので、オレが砂浜の喫煙場所でタバコを吸っていると、
「お兄さん。」
と声をかけられた。
焼きたい彼女だ。
「楽しんでる?」
と聞くと、
「天気もいいし、サイコーに楽しいよ。けどナンパがウザい。」
と答えた。そして、
「でもお兄さんと話しするのは楽しいよ。」
と言った。
「そう?ありがとう。」
「だってさっきら何度も話してるのに、全然ナンパしようとしないじゃん。」
と言った。
「別にナンパなんかしなくたって話しはできるよ。今もこうして話してるし。」
「そう。なんか自然に話せるんだよね。なんで?」
「売店はね、お客さんといちばん雑談ができる場所なんだよ。ねえさん達ともきっかけは雑談からだったろ?」
「そう言えば、そうだね。」
「せっかくだから、今からナンパしようか?」
と言うと、
「そんなことしたら、グーで殴ってやる。」
と握りこぶしを見せて笑った。
彼女たちは何度かナンパされていたが、いつも無視していた。
「それに海の家のお兄さんがナンパしたらイメージ悪いだろ?」
と聞くと、
「そんな海の家には二度と入らないよ。」
と言った。
そんな会話をしている横を、売店に向かって歩いて行くお客さんがいたので、
「じゃぁオレは戻るよ。」
言い、彼女も、
「うん。またあとでね。」
と言って、パラソルに向かって歩き始めた。
パラソルの下では、焼きたくない彼女がこちらに手を振っている。
オレも手を振り返し、売店に向かって歩き始めた。
客引き合戦
毎年のことだが、
海の家の客引き合戦は熾烈を極める。
お客さんの入りがよければ、それだけ利益が上がるのだから当然だ。
だが、それだけではない。
うちではかなりの利益が上がった時に、
大入り袋が出ることがある。
バイトにとっては臨時収入が入るのだから、張り切らざるを得ない。
そんな客引き合戦をしている中、
売店の近くで携帯を手に女の子が2人。
キョロキョロしながら、行ったり来たりしている。
オレは、
「待ち合わせなの?」
と声をかけた、
客引きと思っているらしく、明らかに警戒している。
オレは、
「そんな暑い所にいないで、こっちの日陰においで。お金払えなんて言わないから。」
と笑いながら言った。
彼女たちは安心したらしく、
「すいません。」
「もう暑くて倒れるかと思った。」
と言って汗を拭きながら日陰に来た。
こういう場面は、前にも書いたが、本当によくある。
あまりにも暑そうなので、麦茶をあげなから、
もう一度
「待ち合わせ?」
と聞いた。
「今、海に着いたって連絡が来たんだけど、どこにいるかわからないみたいで…」
と言った。
「まわりに何が見えるが言ってなかった?」
「とりあえず砂浜に行くって…。」
と言った彼女の横で、もうひとりの彼女が、
「あれじゃない?」
と言って、海岸に降りる階段の方を指差した。
2人は、
「ありがとう。」
と言ってコップを返し、その方向に歩いて行った。
見てみると、
10人くらいの女の子の団体が、客引き合戦に合っている。
そこに2人が合流した。
その様子を見ていると、
うちのバイトが隣の客引きに押されている。
仕方ないので、オレはバイトのところに行って、
「見つかったみたいだね。」
とさっきの2人に声をかけた。
オレの顔を見ると、さっきの2人が、
「ねぇ、こっちにしようよ。」
と言った。
他の女の子が、
「いいけど、なんで?」
と聞いた。
「さっき、このお兄さんに助けてもらったの。」
と言った。
「じゃぁ、こっちにしよ。」
と、一気に形勢逆転。
うちの海の家に入って来た。
訳がわからない隣の客引きとうちのバイトはキョトンとしている。
特に隣の客引きはあと少しで、団体客を捕まえられるはずだったのに、
オレの一声で、あっさり持っていかれたのだからたまらない。
あとで、バイトにいきさつを説明すると、
バイトの女の子が、
「相変わらず女の子には優しいんだから!」
とオレを睨んだ。
「オレはみんなに優しいよ。」
と言うと、
「じゃぁ、あたしたちにも優しくしてよね!」
と言った。
結局、この日はバイト達にご馳走する約束をさせられてしまった。
とにかく客引きは大変なのだ。