スマホ
ある日、お客さんから、
「写真撮ってもらえますか?」
と頼まれた。
大学のサークルっぽいグループ。
「これでお願いします。」
と、その中のひとりの女の子がスマホを差し出した。
受け取ったオレは、スマホを見て、
「このスマホ、画面がシワだらけだよ。」
と言った。
パネル全体が細かいシワだらけになっている。
「あ、それシワじゃないんです。」
と彼女。
画面に触れてみると確かにシワではない。
初めは保護シートを貼るのに失敗したのかと思ったが、
画面はツルツルしてる。
よく見ると、それはひび割れだった。
スマホの画面全体がバキバキにひび割れている。
ステンドグラスをもっと細かくしたような感じになっている。
「これでタッチパネル使えるの?」
と聞くと、
「それが使えるんです。」
と言った。
写真は無事に撮れたが、
あそこまでひび割れているスマホを見たのは初めてだ。
バイトの特権
花火大会
この海水浴場でも8月に花火大会が開催される。
海の家は通常午後5時に閉店するのだが、
この日だけは売店も夜の営業をする。
海に面した席は全て常連さんの予約席。
そして、
大勢の見物客で売店は大忙しになる。
男のバイトは全員売店に入り、お客さんの対応をする。
夜は食事メニューを出さないので、女の子のバイトは全員花火見物に繰り出す。
夕方5時、いつも通り片付けを終えた彼女たちは、
いいポジションをキープするため、サマーベッドを持って場所取りに向かう。
一般客もサマーベッドを借りに来るが、夜の貸し出しは行わないことになっている。
海の上には花火を打ち上げるための船も待機している。
ここの花火大会は海上から打ち上げ、砂浜から見物するスタイルだ。
ベストポジションにサマーベッドを置き、シートで隠しておく。
花火が始まるまで、彼女たちは夜店の屋台を回って、食べ物を物色している。
その間も砂浜には見物客が続々と集まってくる。
売店は徐々に大忙しの状態に突入していく。
ジュース、ビール、かき氷、お菓子が飛ぶように売れる。
男のバイトは汗だくになり、声をからしながらお客さんの対応をしている。
オレはというと、
かき氷を作り続ける。
冷たい氷をさわっているはずなのに、汗が流れてくる。
7時30分
花火大会開始を知らせる花火が上がる。
この頃になると、あたりは暗く、広い砂浜が人で埋め尽くされる。
早い人は早々に砂浜ににシートを広げ、場所を確保している。
場所取りに出遅れると、膝を抱えて体育座りで見ることになる。。
なかには砂浜に座れず立ち見の人もいる。
そんな人たちをよそに、
バイトの女の子たちは屋台で買い込んできた食べ物を手に戻ってくる。
サマーベッドに横たわって花火を見ている。
花火が始まると売店も一段落するので、
オレはかき氷を作って彼女たちに持って行った。
この日はいつも、彼女たちからリクエストを聞いて、食べたいかき氷を差し入れる。
人でいっぱいの砂浜で彼女たちは、サマーベッドに座り、足を伸ばして花火を見ている。
贅沢な時間だ。
花火大会が終わって戻って来た彼女たちは、
「もぉ、サイコーだったよぉ!!」
と言って喜んでいた。
他の海の家ではこんなことはしないらしいが、
この海の家でバイトをした彼女たちの特権だ。
そして3人で
ここのビーチは禁煙だ。
但し、それぞれの海の家の前に灰皿が置かれ、
そこが喫煙場所となっている。
海の家の中は喫煙できるのだが、
オレは砂浜の喫煙場所に行くことが多い。
今もそこでタバコに火をつけようとしていた。
そこに、
「あつ~い。」
と言いながら、女の子が来た。
あの日焼けしたい彼女だ。
手にサンオイルとタバコを持っている。
焼きたくない彼女は、パラソルの下で寝ている。
彼女はタバコに火をつけようと、
「お兄さん、ちょっと持ってて。」
とサンオイルを渡そうとしたが、
オレの両手がふさがっているのを見ると、
オレと話していた男に、
「そっちのお兄さん、ちょっと持ってて。」
とサンオイルを持たせた。
隣にいた男とは、
ひとりで海に来ていたあの彼だ。
その彼にサンオイルを持たせ、タバコに火をつけようとしたが、うまくつかない。
「手にサンオイルがついてるからだよ。」
と言うと、
「ちょっと、ごめんね。」
と、オレの腕にサンオイルを擦り付けた。
「あっ!オマエ何して…」
言いかけると、
「大丈夫、大丈夫。」
と、オレの肩をポンポンと叩いた。
そんなやりとりを見て、サンオイルを持たされた彼は笑っていた。
それから3人で話しをした後、オレは一足先にその場を離れ、売店に戻った。
2人はその後も話しをしていた。
しばらくして気がつくと、
彼女たち2人と1人できていたあの彼が一緒に海で遊んでいた。
ひとつのウキワに3人でつかまり、プカプカと浮かんでいる。
どうやら、喫煙所での会話で気が合ったようだ。
焼きたくない彼女も楽しそうに彼と話している。
それから夕方まで、3人は一緒に遊んでいた。
帰りぎわに、焼きたい彼女が来て、
「お兄さんのおかげで今日は楽しかったよ。ありがとう。」
と言い、しばらく雑談をした。
その間、焼きたくない彼女は彼と話している。
そして、3人は一緒に帰って行った。
女2人に男1人。
焼きたい彼女も、
焼きたくない彼女も、
どちらも彼とはいい雰囲気だった。
この3人、
この後、どういう展開になったのだろう。