ケツがかゆい、ふたたび
8月24日 日曜日
今年の夏の、海の家最後の営業日。
オレにとっても、手伝いの最終日だ。
そんな最終日に、2人の女の子に声をかけられた。
「おにいさん、あたし達のこと覚える?」
花柄のビキニにロングヘアー女の子。
オレはわからず、
「え~と…、誰だっけ?」
と聞いた。
「え~っ!?覚えてないの?ヒドイなぁ。」
すると、もうひとりの薄いブルーのビキニの女の子が、
「覚えてないよ。海に来る女の子はいっぱいいるんだから。」
と不満そう。
だけど、声をかけた彼女は納得できないようで、
「ホントに覚えてないの?」
どうしても思い出せないオレは、
「前に会ってる?いつ?」
と聞くと、
「バイト君に、あの辺にパラソル立ててもらったよ。」
と言って、レンタル小屋のほうを指差した。
そして、
「パラソル禁止になったからって、おにいさんが片付けに来たじゃん。」
と言った。
それを聞いて思い出した。
「あぁっ!!そっかぁ!!思い出した!!ケツをかいていたネーサンだ!!」
「そうだよ。だけどあれは砂を払ってただけなんだからね!!」
あの時と同じように、相変わらず砂を払ってたと言い張っている。
「なんですぐ思い出してくれないのよ。」
「そんなこと言ったって、あの時見たのはネーサンの後ろ姿と半ケツだけだし。それにニーチャン達もいたし、全員なんか覚えきれないって。」
そして、
「でもネーサンのことは覚えてるよ。あの日は髪をアップにしてなかった?」
と言うと、
「そうそう、おにいさんちゃんと覚えてるじゃん。」
と嬉しそう。
「それと、今日とは違う黄色いビキニだったよな。」
「え~っ!?水着も一緒だよ。おにいさんテキトーに言ってない?」
と疑わしい目でオレを見た。
「違うよ。おにいさんちゃんと覚えてるよ。あんたあの時、水着の上に黄色いパンツはいてたじゃん。」
と、もうひとりの彼女が言った。
「あっ、そうだった。おにいさんホントに覚えててくれたんだね。」
とまた嬉しそうな顔になった。
「ところで、今日はケツかゆくないのか?」
と聞くと、
「うん、大丈夫って、あれは砂を払ってただけだって言ってるでしょ!!」
と今度はノリツッコミで返してきた。
そんな話をしていると、
「ほかのコも来てるから、一緒に行こうよ。」
と売店から引っ張りだされた。
そこには、2人の女の子が待っていた。
あの日のコたちだ。
しばらく彼女たちの会話に付き合い、オレは売店に戻った。
やがて夕方になり、彼女たちが4人揃ってやって来た。
「おにいさん、お世話になりました。あたし達そろそろ帰るね。」
「どうしたんだ?やけに丁寧じゃん。」
「せっかく仲良くしてくれたのに、今年はもう来られそうもないから。」
「そっか。でも海の家もこの夏は今日までなんだよ。」
「えっ!?そうなの?」
と寂しそうな顔になった。
「そう。だからオレも今日でおしまい。」
「じゃぁ、また来年だね。」
「そうだな。また来年だな。今度はちゃんと覚えておくよ。」
と言って、彼女たちを見送った。
最終日にこういう挨拶をされると、ガラにもなくしんみりした気分になってしまう。
忘れ物
だんだん近づいて来るうるさい話し声。
砂浜を歩いていた高校生ぐらいの6人の女の子。
売店から声をかけてみると、まだ海の家を決めていないと言う。
ちょっと話をして、ここを利用してくれることになった。
早速、水着に着替えた6人が、
「おにいさん、空気入れある?
とオレのところに来た。
大きなうきわ、小さなうきわ、ビーチマットなど、合計6個。
「そこにあるから使っていいよ。」
とりあえず使い方を教えて、あとは彼女たちに任せた。
6人でワイワイ言いながら空気を入れている。
心配になり売店から覗いてみると、空気入れをうまく使えてない。
彼女達の後ろには空気待ちの行列ができていた。
このまま放っておくと、他のお客さんに迷惑がかかってしまう。
「オレが入れてやるよ。」
と代わった。
待っているお客さんを見ると、持っているのはうきわだけ。
大きいものや、面倒なキャラクターものはない。
こっちを先に片付けたほうが早そうだ。
オレは彼女達に、
「ネーサン達のは数が多いからちょっと待っててくれるかな。オレが全部入れてやるから。」
と言うと、
彼女達は、
「じゃ、ちょっと海に行ってこようか。」
「うん、そうしよ。行こ行こ。」
と言いながらバタバタと出て行った。
オレは、他のお客さんのうきわを全部片付け、彼女達のうきわに取り掛かった。
前に使った時、かなり雑に扱ったようで、うきわのロープは絡まり、砂だらけでグチャグチャになっている。
空気を入れ終わったオレは、うきわをすぐそばの空きスペースに置いて売店に戻った。
それからしばらくして戻ってきた彼女達に、
「ネーサン達のうきわそこに置いてあるから。」
と指差した。
「おにいさん、ありがとう。」
と彼女達。
「それにしても雑過ぎるよ。知らねえ人が見たらゴミと間違えられるぞ。」
と言うと、
「だって~、うきわって片付けるの面倒くさいんだも~ん。」
「そうそう、アレってチョー面倒くさいんだよ。」
「あたしもキラ~イ。」
「おにいさん片付ける時、手伝ってくれない?」
とオレに向かって好き勝手にしゃべり始めた。
そのしゃべりはどんどん勢いを増し、静まりそうにない。
思わずオレは、
「うるせぇっ!!面倒なのはわかったから、早くそれ持って海に行ってこい!!」
と追い出した。
彼女達は、
「ハ~イ。」
とか、
「じゃ~ね~。」
とか、
「また後でね~。」
とか言いながら、ガヤガヤと出て行った。
その後、海の家に戻ってきた彼女達は、座敷の一画を確保して食事を始めた。
この日はグループ客が多く、彼女達のまわりにも、何組ものグループ客がいた。
こういう日は荷物の数も多く、特にグループ客は忘れ物をしやすい。
それからは、彼女達のうるさい口撃に合う事もなく、
お客さんも徐々に帰り始める時間になった。
帰り客の混雑の中、彼女達も荷物を片付けている。
「もう帰るのか?」
と声をかけると、
「おにいさん、うきわ手伝ってって言ったじゃん。」
「そうだよぉ。約束したじゃん。チョー面倒くさかったんだよ。」
「それはネーサン達が勝手に言っただけで、オレは約束なんかしてねぇだろ。」
「さっきしたよね。」
「うん。したした。」
とまたオレに口撃を浴びせ、しゃべるだけしゃべると、
「じゃあね~」
と言って、帰って行った。
ほとんどのお客さんが帰り、戸締まりの準備が始まった時、
彼女達が座っていた辺りに、見覚えのあるマットとうきわの忘れ物を見つけた。
忘れ物については、お客さんから連絡が入る事もあるので、保管することになっている。
片付けもほぼ終わり、一足早く海の家を出たオレは、
海岸線にあるコンビニに向かって、海沿いの駐車場を自転車で走っていた。
その時、
駐車場からビーチに降りる階段に座り、話し込んでいる彼女達を見つけた。
オレが声をかけると、
「あっ、おにいさんだ。」
「どうしたの?」
と不思議そうにしている。
「だれかマットとうきわ忘れなかったか?」
と、色とデザインを説明をした。
彼女達は荷物を確かめて、
「あっ!!あたしだ!!」
「あたしも!!」
「じゃ、取りにおいで。戸締まりしないで待ってるから。」
と言って、自転車を走らせた。
海の家に戻ったオレが、マットとうきわの空気を抜き始めた時、2人がやって来た。
空気を抜いているオレを見て、
「おにいさん、あたしも手手伝うよ。」
「あたしも。」
と言って、彼女達も手伝い始めた。
そして、うきわをたたんでいる時、
「おにいさん、ごめんね。」
彼女達が言った。
「どうしたんだ?急に素直になって。」
「だって迷惑かけちゃったでしょ?」
「大丈夫だよ。忘れ物する人は結構いるから。それよりネーサン達が帰ってなくてラッキーだったよ。」
「ホントだね。でもおにいさんに感謝だよ。」
「そうだよ。おにいさんがあたし達に気づいてくれたから。」
「そりゃわかるさ。あれだけ口撃されたんだから。」
「そんなに言ったかなぁ。」
と彼女達は笑っている。
「そろそろ行こうか。みんなも待ってるだろ。」
とオレは立ち上がった。
「うん。」
彼女達もうきわを持って、オレ達は海の家を出た。
「じゃぁ、オレは帰るから。」
と自転車にまたがった。
「おにいさん、ありがとう」
と彼女達。
「もう忘れ物するなよ。」
と言って、オレは自転車で走りだした。
海水浴スタイル
お盆休み中のある日、
朝から来ていた2カップルの4人組のお客さんがいた。
男も女も早々に水着に着替え、座敷に自分たちの場所を確保すると、
早速、女の子2人が新品のうきわを手に、
「すいませ~ん。空気入れ貸してくださ~い。」
と売店にやって来た。
「そこにあるから、どうぞ。」
と使い方を教えると、
「あと生ビール4つお願いしま~す。」
と言った。
オレが、
「空気入れたらすぐ海に行くんじゃないの?」
と聞くと、
「まずは景気づけに1杯。」
と言って、うきわとビールを持って戻って行った。
その後も、入れ代わり立ち代わりビールやチューハイを買っては、
飲んで、しゃべって、笑って大盛り上がりしていた。
景気づけの1杯どころではない。
延々と飲み続けている。
静かになったと思えば、今度はうきわを枕に居眠り。
ニーチャンが売店に来た時に、
「ずっと飲みっぱなしで外に出てないんじゃない?一応ここは海水浴場だぜ。」
と聞いてみた。
すると、
「いやぁ、海で飲むのはサイコーに気持ちいいね。」
となどと言っている。
「海でって言ったって、海の家の中じゃぁ居酒屋と変わらねえんじゃねえのか?」
「そこは雰囲気雰囲気。」
と笑っている。
まあ、確かにまわりは水着に海パンばかりだからその通りなのだが。
結局、ほとんど一日をそうして過ごしていた。
夕方になり、帰る準備を始めたニーチャンたち。
ネーサンたちが、うきわの空気を抜くのに苦労している。
オレは、
「手伝うよ。」
と言って、ネーサンたちからうきわを受け取った。
空気を抜きながら、
「せっかく買ったこのうきわも、ネーサンたちの枕にしかならなかったな。かわいそうに。」
と言うと、
「そんなとこないよ。さっき海に入ったもん。」
と言った。
「えっ、いつ?全然気がつかなかったけど。」
「海にいたの5分ぐらいだったからなぁ。」
と横にいたニーチャン。
「たったそれだけ?」
そして、
「ずっとここで飲んで寝て、ちょっとだけ外に出てまた飲んでって、これオッサンの飲み方と同じじゃねぇか。」
と言うと、
「でも、一応海にも入ったし。」
とネーサンたち。
ニーチャンたちも、
「そうそう。いつもこんな感じ。これが俺らの海水浴のスタイルだし。」
と言って笑った。
昔なら、海でこういう飲み方をするのは、オッサンだけたったが、
どうやら、最近はオッサンだけではないようだ。