Sea Breeze Season8 -22ページ目

あん



売店の前を往復している女の子が二人。


ひとりはTシャツに短パン姿、もうひとりは白いワンピースに日傘をさしている。


そんな二人に声をかけてみた。


「さっきから何か探してるの?」


「かき氷が食べたいんだけど見つからなくて。」


とTシャツの彼女が答えた。


「それで行ったり来たりしてたのか。」


「何軒も見たんだけどメニューがなくて。」


「それならここにあるよ。」


と売店の上にあるメニューを指差した。


かき氷と言えば海の家では定番だが、当たり前すぎるせいか意外とメニューはあっさりしていて目立たない。


「あっ、ホントだ。すぐ目の前にあったんだ。何にしようかな。」


とTシャツの彼女がメニューを見た。


「いろいろあるね。」


と隣にいる日傘の彼女に話しかけた。


「ホントたくさんあるのね。」


と首をちょっと傾けておっとりした口調で話す日傘の彼女。


見た目と口調から、お嬢様なのか?と一瞬思った。


それに対して活発そうなTシャツの彼女。


まるで対照的な組み合わせだ。



Tシャツの彼女がメニューを見ながら、


「何にする?イチゴがあるよ。ブルーハワイもある。」


「ホント。あん、メロンもあるわ。あん、抹茶もあるのね。」


と相変わらずおっとりとした口調の日傘の彼女。


普通ならば、「あっ、メロンもある。」とでも言うのだろうが、


日傘の彼女は、「あっ」とか「えーと」を「あん」と言うらしい。


「あん、どれにしようかしら。」


と迷っている。


その話し方がなんか面白くて、オレは彼女に


「そんなに悩むほどのモノはないよ。」


と話をふってみた。


「でもたくさんあるから。あん、どうしようかしら。」


と日傘を肩の上でくるくる回している。


やっぱり面白い。


「あたしはイチゴミルク。」


とTシャツの彼女が早々にメニューを決めた。


「日傘のねぇさんはどうする。」


とちょっと急かしてみた。


「あん、やっぱり迷っちゃう。」


もう一度メニューを端から順番に見ていた彼女の視線が止まった。


そして、


「あん。」


と言った。


やっと決まったようだ。


「あたしは抹茶ミルクで。あん、あとメロンをひとつ。」


「そっか、氷メロン頼まれてたんだよね。」


とTシャツの彼女。


オレはイチゴミルクと抹茶ミルクを作り、彼女たちの前に置いた。


「ふたりともミルク系が好きなの?」


「そう、やっぱりイチゴミルクよね!」


「うふ、抹茶ミルクでしょ。」


今度は「あん」ではなく「うふ」が出た。


この日傘の彼女はホントに面白い。


そんな彼女たちの前に置いてあるかき氷を見て、なるほどなぁと思った。


Tシャツの彼女はイチゴミルク。

イチゴミルクには元気で明るいイメージが、


日傘の彼女は抹茶ミルク。

抹茶ミルクにはおっとりしたイメージがあると思う。


まるでこのふたりを表しているようだ。


オレはメロンのかき氷を作る前に、


「氷メロンにミルクをかけてもうまいんだよ。食べてみる?」


と言って試食用に少し作り、


「食べていいよ。」


と彼女たちの前に置いた。


ひとくち食べて、


「ホントだ!おいしい!」


とTシャツの彼女。


日傘の彼女も、


「あん!おいしい!」


と、少しトーンの高い「あん」が出た。


試食を終えた彼女たちは、


「ごちそうさま。」


「あん、ありがとう。」


と試食用のカップを置いた。


そしてかき氷を持ったふたりは遊泳区域の外に向かって歩き始めた。


遊泳区域の外にはバーベキューをしているグループがいくつかあった。


彼女たちはその中のどれかから来たのだろう。


それにしてもビーチでのバーベキューに来るのに白いワンピースに日傘とは。


でも、夏を楽しんでいるのであればそれもありかなと思った。















 

500円玉と彼女


この日は朝から薄曇りだった。


オレが売店の前に出て、


まだ梅雨も明けてないしこの天気じゃこんなものかなとまだこみ合う程ではないビーチを眺めていた。


その時、


「トイレ貸してもらえますか?」


とひとりのねぇさんに声をかけられた。


そして、


「これがあるんですけど。」


手には海の家の無料券を持っていた。


「なんだ、それがあるなら海の家を使えばいいのに。荷物とかも全部預けられるよ。」


と言うと、


「だって、いちいち取りに来るの面倒なんだもん。」


と笑った。


「まったく横着なねぇさんだなぁ。まだそんな歳でもないだろう?」


彼女は笑っている。


「それじゃこれはもらっておくからトイレでもシャワーでも好きに使っていいよ。」


と彼女の手から無料券を取りあげた。


「ありがとう。」


と言って彼女はトイレに向かった。


出てきた彼女はそのままビーチへ。


戻った先にはビーチシートに別のねぇさんが寝ていた。


彼女も隣に寝転んだ。


彼女たちは二人で来たらしい。



それからかなりの時間がたって、
さっきの彼女が売店に向かって歩いて来るのが見えた。


オレは彼女に、


「横着ねぇさんがやっと動き出したな。」


と言うと、えへへと笑いながら、


「おにいさん、生ビールちょうだい。泡少なめでね。」


と言った。


オレはビールを入れたジョッキを彼女の前に置き、


「ねぇさんホントに動かないんだな。ずっと寝たままで。そんなに寝てるとこの天気でも日焼けするぞ。」


と言うと、


「いいの。焼くんだよ。」


とビールを持って戻って行った。


それからしばらくして、今度はふたり揃ってやって来た。


横着ねぇさんは生ビールを注文した。


もうひとりのねぇさんは、


「おっ、モヒートがあるじゃん。」


とストッカーから出したモヒートを手にしていたが、


横着ねぇさんの前に置かれた生ビールを見て、


「やっぱり生ビールがいいなぁ。あたしも生ビール。」


と注文し、


「これ戻しておいてね。」


と横着ねぇさんにモヒートを渡した。


「あんたが頼んだんだから自分で戻しなよ。」


と横着ねぇさんが文句を言いながらストッカーのガラスをスライドさせた時、


その勢いで上に置いてあったジョッキを倒し、ビールをこぼしてしまった。


売店の冷蔵庫は、お客さんが上から見えるように上面がガラスになっていて、それをスライドさせるようになっている。


横着ねぇさんはその上にジョッキを置いたままガラスを開けたためにビーチをこぼしたのだ。


それを見ていたモヒートのねぇさんが、


「ちょっと奥さん、なにやってんのよ。」


と言った。


オレが、


「へぇ~、ねぇさんは奥さんだったのか。」


と聞くと、


モヒートのねぇさんが、


「いや独身なんだけどね。」


と笑いながら答えた。


オレは、


「ま、いいや。じゃ奥さんこれで拭いておいて。」


と横着ねぇさんにふきんを渡した。


「だから独身なんだってば!」


と言っていたが、この瞬間から横着ねぇさんを奥さんと呼ぶことにした。


ビールを拭き終わった奥さんが、ゴメンねと言いながら千円札を出した。


生ビールは1杯500円。


オレがお釣りの500円玉を出すと、


「いいの。1杯こぼしちゃったから2杯分。」


ともう一度千円札を差し出した。


「あぁ、それはいいよ。」


と言って500円玉を握らせた。


二人はビールを持ってビーチに戻って行った。


それからしばらくすると、奥さんが空になったジョッキを持って売店にやって来た。


「ご馳走さま。ハイ、これ。」


とジョッキを置きながら、


「さっき一緒にいたのはお姉ちゃんで、ホントはあっちが奥さんなんだよ。」


と言った。


オレは、


「でもいいじゃん。あっちがねぇさんで横着ねぇさんが奥さんで。そのほうがおもしろいし。」


「ええっ!?なんで?なんか悪意を感じるなぁ。」


「そうか?こっちは親しみを込めて言ってるつもりなんだけどなぁ。」


「そうなの?なんかうまくごまかされた気もするけどそういう事にしておいてあげる。」


と笑った。そして、


「さっきはありがとう。まだお礼言ってなかったよね。あの500円であとで何か買いに来るね。」


と言って戻って行った。




その後、閉店時間が近づいてきたので、


オレは彼女たちの所へ行き、


「そろそろ時間だからシャワー浴びるんなら早めに頼むよ。」


と言った。


「大丈夫。海には入ってないし、このまま服を着て帰るから。」


と彼女たち。


「じゃあ、あとはご自由にね。」


と言って売店に戻った。




閉店時間になり後片付けをしていると、彼女たちが帰り支度を整えてやって来た。


「もう帰るのかな?」


「うん、そろそろ帰るね。」


そして、


「今日はありがとう。まだ使ってなかったからあの500円は今度使うね。」


と言って帰って行った。



この時は、まだ梅雨明け前。


今は梅雨も明けて、いよいよ夏本番。


彼女は、

「あの500円は今度使うね」とさらっと言ったが、


それはまた遊びに来るという事なのだろう。


オレは、


彼女の言い方に、もう一度あの500円玉と彼女たちに会えるような気がした。













近くで開催されている桜祭り。

夜はライトアップされているので、

ちょっと夜桜見物へ。