Sea Breeze Season8 -18ページ目

ボディガード


売店に、2人の女の子が来てペットボトルのジュースを買った。
手にはビーチシートを持っているので、すぐに砂浜に戻ると思ったが、
彼女達は、売店の影で隠れるようにジュースを飲んでいる。

そこで、ヒソヒソ話をしながら、砂浜の方を気にしている。

聞こえてくる内容から、どうやら2人の男に付きまとわれているようだ。

砂浜を見回してみると、ビーチの喫煙場所に、こちらを見ている2人組がいた。

オレは彼女達に、

「へんな奴らに付きまとわれてるの?」

と聞いた。

「そうなんです。さっきからずっと。」

「ずっと?どこか海の家は入ってる?」

「○○っていう海の家です。」

ここから4~5件先にある海の家だ。
そんな方から逃げて来たのか。
そのままほっとく訳にもいかないので、

「そこに隠れててもしょうがないから、中に入れば。」

「でも・・・」

と、怯えている。

「ここにいるのは、もうアイツらにはバレてるんだから同じだよ。中に座って、オレと話していれば大丈夫だから。」

「いいんですか?」

彼女達の表情はまだ硬い。

「いいよ、おいで。」

売店横のテーブル席に座らせた。
ここがオレから一番近く、お客さんと会話がしやすい。

常連さん夫婦も、いつもこの席に座ってオレと話している。


彼女達に話を聞いてみると、

海の家からビーチに出て、シートを広げて座っていた時、女の子を物色するようにウロウロしている2人組がいた。

一度、後ろを通りすぎ、しばらくすると、今度は前を通りすぎた。

その後、もう一度前を通りすぎ、少し離れた場所で、彼女達をチラチラ見ながら話していた。

それを見た彼女達は怖くなり、場所を変えたが、まだついて来る。
結局、ここまで逃げて来たと言った。

しばらく話しているうちに、彼女達の表情が少し落ち着いてきた。

せっかく海に来たのに、このままでは可哀想だと思い、

「じゃぁ、そろそろ行こうか。」

と、彼女達のビーチシート持って砂浜に出た。

彼女達は、恐る恐るついて来た。
オレは歩きながら、2人組がこっちを見ているのを感じていた。

「この辺がいいかな。」

オレは売店からよく見える場所にシートを広げ、

「ここでゆっくりしていればいいよ。」

と、彼女達に言った。

「でも、あの人達が・・・」

と、まだ怯えている。

「大丈夫。ここならオレからよく見えるから。」

彼女達は少しは安心したのか、そのままシートに座った

それでも、やっぱり不安が残っているようだ。

オレは、売店に戻り様子を見ていた。

しばらくすると、2人組が彼女達に向かって歩き出した。

彼女達は気づいていない。

オレは売店を出て、彼女達の所へ向かった。
彼女達までの距離は、喫煙場所よりこちらの方が近い。

「どう?調子は」

と、声をかけた。

「少し落ち着きました。」

と笑顔になった。

視界の端に、喫煙場所に逆戻りする2人組が見えた。

しつこい奴らだ。

オレはレンタル小屋に行き、バイトに彼女達の所へウキワを持って行くように言った。

ウキワを受け取った彼女達は、バイトと何か話していたが、バイトが戻った後、ウキワを持って売店にやって来た。

「あのぉ、バイトの人がウキワ使っていいって持って来たんですけど。」

「オレが行かせたんだよ。それで遊んでいいから。」

「いいんですか?」

「いいよ。それと、あの2人が来そうだったら、売店かアイツの所に行けばいいよ。」

と言った。

ウキワを持って行ったこの男は、バイトの中でもリーダー的な存在で、仕事も早く、お客さんの扱いもうまい。
オレが、彼女達の話をすると、

「了解っす。」

と言って、彼女達にウキワを持って行ったのだ。

頼りになる男だ。

彼女達も安心したのか、ウキワを持って海に向かった。

あの2人組は、またどこかで女の子を物色しているのか、姿が見えなくなっていた。

売店と、レンタル小屋の両方から見張られていては、何もできないと諦めたのだろう。

しばらく海で遊んでいた彼女達が、海から上がって来るのが見えた。

オレは、売店から出て彼女達の所へ向かった。

「ありがとうございました。」

と、ウキワを持って来た。

「どう?楽しめた?」

「はい!楽しかったです!」

「じゃぁ、そのウキワはバイトに返してきてくれるかな?」

「はい!」

と言ってレンタル小屋に行った。

レンタル小屋では、バイトと彼女達が楽しそうに話していた。

戻って来た彼女達が、そろそろ海の家へ帰ると言うので、

「じゃぁ、行こうか。」

と、オレ達は3人で歩き始めた。

歩きながら、

「今日はどうだった?」

と聞くと、

「おかげで楽しく遊べました。」

もうひとりの彼女も、

「本当はジュースを買った後、へんな人達がついて来るから、もう着替えて帰ろうかと思ってたんです。」

と言った。

「せっかく来たのに勿体ないよ。それに、あの2人組もいなくなったし。帰る時間にはまだ早いだろ?もっと遊んでいけばいいよ。」

「ありがとうございます。そうします。」

そんな話をしているうちに、海の家○○が見えてきた。

オレの姿を見つけると、海の家○○のオヤジさんがいきなり、

「うちのお客さんにちょっかい出してんじゃねぇよ!ダメだろ!」

と言った。

「ナニ言ってんだよ!オヤジさんがちゃんと見てねぇからだろ!ねぇさん達がへんな奴らに付きまとわれて、こっちまで逃げて来たんだんだからな!」

と言い返した。

「おねえさん達、気をつけるんだよ。コイツはもっとアブナイから。」

と、急に優しい声で彼女達に言った。

オレは、

「オヤジさんの所のお客さんだから、わざわざ送って来たのに、ありがとうの一言も無しかよ!」

そんなやり取りを見て、ビックリした彼女達は、

「あ、あのぉ、すみません。私たちのせいなんです。」

と、申し訳なさそうに言った。

オレは笑いながら、

「あぁ、気にしなくていいよ。オヤジさんとはいつもこんな調子だから。地元同士だし、むか~しからよく知ってるから。」

と言った。

「オマエと一緒だとあぶねぇからなぁ。」

と、オヤジさんも笑っている。

「オレのどこが?それはオヤジさんの方だろ。ガラ悪いし。」

彼女達も、

「ビックリした~。ケンカが始まったのかと思っちゃった。」

と笑った。

この辺りでは、地元同士で話しているとケンカに間違われる事がたまにある。

その後、しばらく4人で話しているうちに、
彼女達も打ち解けて、楽しそうに話すようになった。

もう大丈夫だろうと思い、オレは彼女達に、

「じゃぁ、オレはそろそろ戻るから。」

と言い、オヤジさんに、

「ちゃんと送り届けたからな。あとはよろしく。」

と言って、歩き始めた。

「おう、ありがとな。」

オヤジさんは答えた。

一度振り返ると、彼女達はオヤジさんと楽しそうに話していた。

そして、オレに向かって手を振った。



別の日に、オヤジさんに用があって海の家○○に行った時、

あの後、またあの2人組が現れて、彼女達に声をかけて来たらしい。
それをオヤジさんが追っ払ったそうだ。

オヤジさんは、

「アイツら、素直なもんだったよ。」

と笑っていた。

あのオヤジさんのことだ、相当こっぴどく言ったのだろう。




サマーベッドの彼女


彼女は、いつもパラソルのレンタル小屋の横にサマーベッドを広げていた。

多くのお客さんは、サマーベッドの背もたれを立て、足元は倒し、足を伸ばして座るようにしてくつろいでいる。


だが、彼女は背もたれも足元も倒して、水平にしたサマーベッドにうつ伏せになり、両手の甲に顔を乗せていた。


彼女は、いつもレンタル小屋とは逆の方向を向いているので、顔は見えない。


彼女は、日曜日に来る事が多い。
そして、同じ場所で、同じようにサマーベッドにうつ伏せになっている。


いつもこうしているので、彼女の体はきれいな小麦色になっている。


ある日、オレがレンタル小屋に行った時、サマーベッドに彼女の姿がなかった。


海を見ると、遊泳区域ギリギリの沖を、彼女がきれいなクロールで泳いでいた。

しばらくすると、ショートカットの髪を両手でかきあげながら、彼女が海から上がって来た。

彼女は背が高く、手足もスラリと長い。
顔も、美人と言えるタイプだが、ちょっと近寄りがたい雰囲気がある。
そのせいなのか、ナンパ男も声をかけようとはしない。

そして、海から上がった彼女は、タオルで軽く体を拭き、いつものようにサマーベッドにうつ伏せになった。

前の夏にも、同じような光景を見た事があったオレは、あの時の彼女かと思い、サマーベッドから体を起こした時に聞いてみた。

「去年もここで、こうしてなかった?」

体を起こした彼女は、

「どうして?」

と彼女は言った。

「去年も、ここで同じような光景を見たからね。」

それを聞いた彼女は、ニコッと笑った。
満面の笑みではなく、ちょっとクールな感じの笑みだった。
だが、そのクールな笑みからは、親しみが感じられた。

そして、

「おにいさんも、去年いたわよね。」

と言った。

「やっぱり。気づいてたんだ。」

「だって、いつもここでバイト君達にハッパ掛けてたでしょ?楽しそうに。」

「ねぇさんも、いい時間の使い方をしてるよね。」

「どうして、そう思うの?」

と聞いた。

オレは、ビーチを見回して、

「これだけガヤガヤしてるのに、ねぇさんのまわりだけ、時間がゆっくり動いてるみたいだからね。」

と言った。

彼女はいつも一人で、自分の時間を、自分のペースで楽しんでいた。

「そう?ありがとう。」

と、またクールに笑った。
その表情はさっきより、少し柔らかくなっていた。

それから、二言三言話して、

「じゃぁ、ごゆっくり。」

と、オレは売店に戻った。


そして、日が少し傾きかけた頃、彼女が売店に来た。

ミネラルウォーター買い、

「今日は、ありがとう。」

と、ニコッとクールに笑い、帰って行った。

『ありがとう』は、彼女を覚えていた事に対してなのか、話しかけた事に対してなのかはわからないが、

その笑みは、さっきよりも、さらに柔らかく親しみを感じた。






ドタバタの後で~ねぇさんと③


ビールを飲んでいるねぇさんと話していたオレは、そんな事を思い出しながら、

「ところで、あの日の帰りにあのねぇさんのナゾは教えてもらえたのか?」

と聞いた。

「そう!その話!なんかおにいさんと楽しく話せるようになったって。友達になれたって。嬉しそうだったよ。」

「そんな事だったのか。楽しくったっていつもと一緒じゃねぇのか?それにもう前から友達みたいなもんだし。」 

「それが違うんだって。」

「なにが?」

「それがハッキリ言わないんだよね。『あたしとおにいさんの秘密』って言って。ただ、おにいさんの事を愚痴ってたけど、なんか楽しそうなんだよね。おにいさん、あのコになんかした?」

「何もしてないよ。いつもねぇさんと話してるように話しただけだよ。」
    
結局、まだ教えてもらえてないようだ。

「そうだよね。おにいさんが何もしてないのは、あのコの態度見てればわかるんだけど、気になるなぁ。」 

ねぇさんが、あまりにもあのねぇさんのことを気にするので、

「そんなに知りたい?」

と聞いてみた。するとねぇさんは、

「知りたいよ。あたしに秘密なんて。それにおにいさんのことみたいだし。」

と言った。

でも、オレはあの時、知らないと言い張ったので、

「多分だけど。」

と、一応前置きをして、オレがあのねぇさんと話していて感じた事を話した。

「あのねぇさんは、オレとねぇさんの会話が羨ましかったんだと思うよ。」

「なんで?普通の会話でしょ?」

「オレとねぇさんには普通でも、あのねぇさんには違ったみたいなんだよ。」

「どういう事?」

「あのねぇさんは、オレと話す時に気を使ってたみたいなんだ。」

「あのコが?あたしには全然気なんか使ってないよ。」

「ねぇさんには気を使わなくても、オレには気を使ってたんだって。他の友達と話す時みたいに。」

「あぁ、確かにそういう所があるかも。」

「だから最初はちょっと気を使ってたんけど、ねぇさんの時みたいに話したらすぐに打ち解けてきたよ。」

「どうして?」

「オレがあのねぇさんをお客扱いしなかったからじゃないか?」

「おにいさん、また失礼な事を言ったんだ。」

「いや、言ってないよ。だから普通にねぇさんと話してる時みたいに・・・」

「それが失礼な事だって言ってんの!!」

「でも、いいじゃん。あのねぇさんも喜んでたし。」

「あぁ、また被害者が増えたんだ。」

ねぇさんは笑っている。

「それってねぇさんがオレの被害者ってことか?」

「そう、被害者第1号。」 

「被害者はオレだよ。こんなウルサイねぇさんに付きまとわれて。」

「いいじゃん。あたしはお客さんなんだから。お客様は神様って言うでしょ。」

「どこが神様なんだよ。じゃぁ疫病神ってことで。一応神様だし。」

「なによソレ!」

「だからこういう事なんだよ。こんな風に話せたのが、あのねぇさんには嬉しかったんだと思うよ。あのねぇさんが言ってたよ。自分のまわりには、オレみたいにケンカを吹っ掛けてくる男友達はいないって。オレはケンカのつもりはないんだけど。」

「あたしのまわりにもいないよ。」

「それは、ねぇさんが怖いからだろ?」

「うるさい!」

「こういう会話が楽しかったんだろうな。」

「そっかぁ、だからあの日の帰りはあんなにはしゃいでたんだ。ありがとね。」

とお礼を言った。

「なんで?オレは何もしてないよ。ただあのねぇさんと話してただけだから。」

ねぇさんが言うには、

彼女は人当たりがよく、付き合いもいいのでいろいろ誘われる事も多いという。
だが性格なのか、いつもまわりに気を使っている所があるらしい。
初対面の相手でも会話はするが、いつの間にか聞き役になっている事が多いそうだ。
そして、聞かされる話は自慢話。
みんな自分をアピールする事しか考えていないという。

「だから、何も気にしないでおにいさんとガンガン言い合えたのが楽しかったんだね。あの日の帰りは、おにいさんの悪口で盛り上がったもん。」  

「結局オレは悪者か?今度は二人を相手にケンカしなけりゃいけねぇのか。」

「いいじゃん。楽しいケンカなんだから。」

「でも、この話ねぇさんは聞かなかった事にしてくれよな。」

「どうして?」

「だってねぇさんにはナゾの話だし、ねぇさんが知ってたらマズイだろ。それに、あのねぇさんが言ってただろ?『あたしとおにいさんのヒ・ミ・ツ』って。」

「なに、その言い方。全然かわいくないんだけど。」

「うるせぇ!そこはスルーしろ!だから、たまに聞いてみれば?あのナゾってなにって。いつか話してくれるんじゃないか?もしかしたら、オレが感じた事と違うかもしれないし。」

「うん、そうする。」

と、ねぇさんは言った。

あの夏以来、ねぇさんとは会えていないが、あのねぇさんからナゾは教えてもらえたのだろうか。