Sea Breeze Season8 -16ページ目

あの夏の日から、この夏へ


更新していなかった3年の間にあった出来事。



お盆休み中のある日、

オレは、お客さんも途切れヒマになったので、たまたま通りかかった知り合いと話していた。

この知り合いは、バナナボートを引っ張っているジェットスキーのパイロットの□□さんだ。

この海水浴場では、バナナボートにお客さんを乗せて、海上を走っている。

オレは、そのパイロットの□□さんと話していた。


「なんだ、にいさんヒマそうじゃねぇか。」

「ちょうど今ヒマになったんだよ。□□さんこそバナナボートはいいのか?」

「あぁ、今は若い奴に任せてあるよ。」

「若い奴?」

「夏が始まる時に挨拶に連れて来ただろ?アイツだよ。」

「あぁ、あの時のにぃちゃんか。」


オレは、沖のバナナボートを見た。
ジェットスキーを走らせているパイロットは、あのにぃちゃんだ。

バナナボートには、大勢のお客さんが乗っている。
この日も繁盛しているようだ。


挨拶に来た時は、まだ真っ白だったが、今は真っ黒に日焼けしている。

そんな話を□□さんとしている時、

「□□さ~ん!」

と、呼ぶ声が聞こえた。

その声の方向を見ると、3人の女の子がいた。

その中の1人が手を振っている。

彼女は、少し茶色がかったセミロングの髪で、小麦色に日焼けした体に白いビキニを着けている。
均整の取れたその体に、それはよく似合っていた。


□□さんは、オレに、

「ちょっと行ってくるよ。昨日のバナナボートのお客さんだ。」

と言って、彼女に向かって歩き出した。

□□さんが近づくと、彼女は両手を広げていきなり抱きついた。

しばらく話をしていた2人は、こっちに向かって歩いて来た。

売店の前にいたオレに、□□さんが、

「ちょっと仕事してくるよ。」

と言った。

その横で、彼女がオレの顔をじっと見ている。

その表情に、

「ん?」

と思ったが、大して気にせず彼女に向かって、

「ねえさん、そのオジサンには気をつけるんだよ。」

と言うと、彼女は笑いながら、

「大丈夫。昨日、バナナボートに乗せてもらったの。また乗ってくるね。」

と、□□さんの後を歩いて行った。



オレは、売店に戻りお客さんの対応を始めた。

お盆休みだけあって、売店のお客さんの数も多い。

バイトリーダーの●●も応援に入り、忙しく動き回っている。

ある程度、お客さんが片付いたところで、あとはバイトの●●に任せて、オレは砂浜に出したサマーベッドに寝ころんでいた。

しばらくすると、売店にはそこそこお客さんが集まっていたが、今は●●もいるし、手の空いた他のバイトも、後から応援に入っている。
これなら、まだ大丈夫だろうと様子を見ていた。

そのお客さんの中に、売店を覗き込みながらウロウロしている女の子がいた。

さっきのバナナボートの彼女だ。

背はそれほど高くはないが、スラリとした小麦色の肌に白いビキニのコントラストは、お客さんの中でも目立っていた。

これなら、嫌でもナンパ男達の目につくだろう。


オレは、サマーベッドから、

「よう、ねえさん、バナナボートはどうだった?」

と、声をかけた。

振り向いた彼女は、

「あ~っ!おにいさん!いた~!」

と、嬉しそうな顔をして、こっちに駆け寄って来た。


売店のお客さんの邪魔にならないように、少し離れた所にサマーベッドを出したので、気づかなかったのだろう。


駆け寄って来た彼女は、

「なんで、こんな所にいるのよぉ。」

と、いきなりオレの腕を抱え、サマーベッドから起こした。

「休憩中だよ。」

と言ったが、彼女はそんな事にはお構いなく、

「おにいさん、イチゴミルク。」

と、オレの腕を抱えたまま、売店に向かった。


売店に連れ戻されたオレは、イチゴミルクを作って彼女に渡した。

受け取った彼女は、またオレの腕を抱えて歩き出し、サマーベッドに座った。


「そこ、オレの場所なんだけど。」

「いいじゃない。」

と、イチゴミルクを食べている。

「そう言えば、友達は?」


彼女達は3人で来ていたはずだ。


「知らない。あたしが戻って来たらいなかった。ナンパされちゃったんじゃない?」

「ねえさんは一緒に行かなくてよかったのか?」

「あたし、ナンパはキライだから。」

と言った。

「なのに、初対面のオレなんかと話してていいのか?ねえさんをナンパするかもよ。」

「大丈夫。おにいさんはそんな事しないでしょ?□□さんが言ってたよ。」

「□□さんが?なんて言ってた?」

「ヒマだったら、アイツの所に行けばいい。話し相手になってくれるからって。おにいさん、□□さんの事よく知ってるの?」

「あぁ、何年も前から知ってるよ。さっきみたいに、ここにもよく顔を出すし。それにしても、あのオッサンそんな事言ってたのかよ。」

「そんな事言ってたよ。だから、おにいさんの所に来たんじゃん。」



□□さんは、バナナボートのお客さんを連れて、顔を出す事がある。

海の家に用がある時は、お客さんの話し相手をオレに任せて、□□さんは店長と話している事もある。



「で、ひとり取り残されて寂しいねえさんの話し相手に、オレが指名されたわけだ。」

「いいじゃん。これひとくちあげるから。ハイ、ア~ン。」



と、スプーンにかき氷を乗せて、オレの顔の前に出した。

オレが、それをパクっと食べると、


「ハイ。これで契約成立。約束だからね。よかったね、おにいさん。」

「なにが?」

「仲良くしようね。」


と勝手に決めて、嬉しそうにかき氷を食べた始めた。
なんか、わがままそうなコだなぁと思ったが、

「しょうがねぇなぁ。でも、□□さんの頼みじゃ断れねぇか。せっかく海に来たんだから、楽しんで行けばいいよ。」

オレは、引き受ける事にした。


「じゃぁ、約束ね。」

と、彼女はハグしてきた。


気の合ったお客さんや、リピーターのお客さんとは、挨拶のように軽いハグをする事はよくある。

彼女もそうなのだろうと、ハグを受けとめ、背中をポンポンと叩いた。



しばらく彼女と話をしていると、売店からバイトの●●の、

「○○さ~ん!こっちお願いしま~す!」


と呼ぶ声が聞こえた。

振り向くと、売店がお客さんで溢れている。


オレは、彼女に、

「ちょっと待っててくれ。売店を片付けてくるから。そのサマーベッドは使ってていいよ。」

と言った。

「うん、ありがとう。頑張ってね。」

と、彼女は手を振って見送ってくれた。


売店の混雑は予想以上だ。
バイト達は、ドリンクやおつまみなら対応は早いが、かき氷はまだ上手く作れない。
こういう時は、分担を決めて作業を進めた方が早い。


「手分けして一気に片付けるぞ。かき氷は全部引き受けるから、そっちはお前らに任せた。」

「了解っす!」

オレは、

「かき氷のお客さんはこっちに並んで下さーい!」

と、お客さんの行列を分けて、かき氷のお客さんを、片っ端から片付けていった。



一段落ついたところで、売店は●●達に任せ、缶コーヒーを2本持って砂浜に出た。

この日もかなり暑い。
彼女が熱中症にでもなったら、□□さんに申し訳が立たない。

オレはレンタル小屋へ行き、パラソルを1本持ち、彼女の所へ向かった。



彼女の方を見ると、サマーベッドの横に男がしゃがみ込んで、彼女に話しかけている。


離れた所から見ると、サマーベッドに座っている彼女の姿も、なかなか絵になっている。


そんな彼女の横にしゃがみ込んで、まったく相手にされていないナンパ男を見ると、その姿がやけに情けなく見える。

彼女は、無視を決め込んでいるが、明らかにご機嫌斜めだ。


オレは、しばらくその様子を見ていた。

その視線に気づいたのか、彼女がオレの所へやって来て、

「なんでそんな所で見てるのよ!早く来てよ!」

と、怒った。

「サマーベッドに座っているねえさんに見とれてたんだよ。意外といい女だなぁって。」


彼女は笑顔になり、

「ホントに?そんなにいい女?」

と、オレの首に腕を回した。

「見てるだけならな。」

「どういう意味よ!」


見てるだけなら性格はわからないから、と言おうとしたが、それはやめておいた。


「まあ、いいから。これ持ってて。」


と、缶コーヒーを彼女の頬に、ペタッとつけた。

そして、サマーベッドの所へ行き、パラソルを立て始めた。


「なんでパラソル立てるの?」

「暑いだろ?このパラソル使っていいよ。」

「いいの?でも、もうちょっと焼こうと思ったんだけどなぁ。」

「それ以上焼いてどうするんだよ。熱中症になったら、遊んでやらねぇからな。それでもいいのか?」

オレは、今立てたパラソルを抜こうとした。

「それはヤダ。」

と、彼女がオレの腕を抱えた。

「じゃぁ、パラソルの下でおとなしく待ってろ。」

「うん、わかった。」

オレは、彼女の全身を見て、

「日焼けしてるコは大勢いるけど、そのくらいの日焼けが一番好きだな。ねえさんに似合ってるよ。」

「ホントに?」

「うん。だから、おとなしく待ってろよ。約束するんなら・・・」

「うん、約束する!」

と、いきなり飛び込むようにハグしてきた。

「おにいさん、どう?いい女からハグされた気分は。」

彼女は無邪気に言った。

「まぁ、悪くはないかな。」

と言い、

オレは、ハグをされたまま、

「そういう訳だから、コイツは諦めた方がいいよ。」

と、ナンパ男を追っ払った。だが、彼女は離れようとしない。オレは、彼女の肩を叩き、

「ねえさん、もう離れていいから。」

離れようとしない彼女を、無理やり引き離し


彼女から缶コーヒーを受け取って、

「じゃぁ、乾杯しようか。」

彼女は、

「カンパ~イ!」

と嬉しそうに缶コーヒーを飲んだ。

「おにいさん、なんでハグさせてくれたの?」

「その方が効果あるだろ?ああいうにぃちゃんを追っ払うには。だからちょっとねえさんのマネしてみた。」

「いいよ、もっとマネしても。いい女のハグは悪くないんでしょ?」

と、両手を広げて迫って来た。

オレは、迫って来る彼女のおでこをペシッと叩き、

「調子に乗るなよ。」

彼女は、

「ケチッ。」

と言ってるが、顔は笑っている。


いい女と言われたのが嬉しかったのか、オレがハグさせたからなのか、彼女はご機嫌のようだ。



「それにしても、ねえさんのスキンシップって、ちょっと激しくない?いつもこんな感じなのか?」

「なんで?」

「さっきも□□さんにハグしてたし。今だって。」

「誰にもって訳じゃないよ。ちゃんと仲良くなった人だけ。」

「ちゃんと仲良くったって、さっき初めて会ったばかりだぞ。」

「だけど、おにいさんは□□さんからは信頼されてるし、さっきも話したし、日焼けしてるあたしの事が好きって言ったでしょ。」


日焼けが似合ってるとは言ったが、好きだとは言ってない。
彼女の頭の中で、自分の都合のいいように置き換えられている。


「ちょっと勘違いしてるけど、まぁ、いいか。」

「やったぁー!」

と両手を広げて、オレにハグしてきた。

「ねえさん、わかったから取り敢えず落ち着こうか。」

と、彼女をサマーベッドに座らせた。


彼女は、感情が態度に出るタイプのようだ。
それも、かなり極端に。


「せっかく持ってきたコーヒーがぬるくなるぞ。」

「そうだね。」


それから缶コーヒーを飲みながら、話し相手をした後、オレは売店に戻ってお客さんの対応に追われた。
相変わらずの混雑だ。


しばらくして、彼女の様子を見ると、またナンパされている。
だが、彼女は無視している。本当にナンパが嫌いなようだ。


仕方なく売店から出て、

「おーい!ねえさん!」

と言いながら、彼女に向かって歩いて行った。

「あっ、おにいさん!」

と走り出した彼女が、つまづいてオレの腕に倒れ込んできた。
受けとめたオレは、そのまま抱き上げた。
お姫様抱っこの状態だ。


「ちょっと手伝ってくれよ。手が足りねぇんだ。」

彼女は、

「うん。わかった。」

と、嬉しそうに足をバタバタさせている。


オレはナンパ男達に、

「悪いけど、このねえさんはもらっていくから。」

と、ナンパ男をその場に置き去りにして、彼女を抱えたまま売店に戻った。


売店では、彼女にかき氷を渡し、

「これはそこのピンクのビキニのねえさんに!350円もらってくれ!」

と指示を出すと、
彼女は、

「お待たせしました~!」

とかき氷を渡し、代金を受け取ると、

「ありがとうございました~!」

と、元気よく言った。
その後も、彼女はそつなく受け答えをしている。
オレは、へぇ~、と感心しながら見ていた。


彼女のおかげもあり、徐々に混雑も解消されてきた。


オレは、

「ねえさん、サンキュー。お疲れさま。」

と、彼女を見た。
暑い中を動き回ったせいか、結構汗をかいている。


「ねえさん、先に戻っててくれ。すぐに行くから。」

「うん、行ってるね。」

と言って、サマーベッドに戻って行った。


彼女が売店から出たあと、残りのお客さんを片付け、スポーツドリンクとタオルを持って、彼女の所へ行った。


サマーベッドで待っている彼女に、

「ねえさん、お待たせ。これ。」

と言って、スポーツドリンクを渡した。

「うわぁ、ありがとう!」

と、スポーツドリンクを飲んだ。

そして、彼女に、

「ねえさん、こっち向いて。」


オレに向けた彼女の顔の汗を、タオルで拭いてやった。


彼女は、

「どうしたの?急に優しくなって。」

と、聞いた。

「手伝ってもらったからな。」


実際、彼女のおかげでかなり助かった。
このくらいサービスしてもいいだろう。


「ありがとう。じゃぁ首も。」

と、ちょっとアゴを上げた。
オレは、首筋の汗を拭いた。

「もうちょっと下も。」

肩から胸元の汗を拭いた。

「もうちょっと下も。」

そこは、彼女の胸だ。


オレは、彼女のおでこをペシッと叩いた。

「調子に乗るな。」

「なんだ、せっかくさわらせてあげようと思ったのに。」

「どうせ、胸さわったんだからハグさせろとか、なんか要求してくるんだろ?」

「そんな事しないから、いいよ。ほら、新鮮だよ。ピチピチでしょ。ほらほら。」

と、胸を強調してきた。

オレは、もう一度おでこをペシッと叩き、

「ねえさんが頑張ったからお礼しようと思ったのに。もういい!さっさと飲め!」

「あぁ!欲しい!欲しい!」

「何がいい?」

「おにいさん、ちょっと腕貸して。」

と、オレの腕を取った。
そして、サマーベッドの背もたれに腕を置き、その上に自分の頭を乗せ、腕枕にした。

「またひとつ仲良くなれた。」


と、オレの腕の上で嬉しそうに、頭を右に左にゴロゴロさせた。


「またひとつって、ねえさんの仲良しにはランクがあるのか?」

と聞いた。

彼女は、寝返りを打って体をオレに向け、

「そういう訳じゃないけど、おにいさんとどんどん仲良くなっていくのが楽しいから。」

「どうして?」

「ナイショ。」

彼女は、そのままオレの腕の上で眼を閉じた。

「オイ!寝るな!」

「あと、もうちょっとだけ。」

と言って、オレが腕を外せないように、腕枕をしているオレの手を握った。


その後、彼女から解放されたオレは、空になったペットボトルを持って売店に戻った。


売店にお客さんはなく、落ち着いていた。
冷蔵庫の中を覗くと、ドリンク類がかなり減っている。
今のうちに補充しようと、在庫を持ってきて冷蔵庫に入れ始めた。
補充しながら彼女の様子を見ると、また、男が言い寄っていた。
よく見ると、持っているビールを勧めていた。
だが、彼女はそっぽを向いている。


補充を済ませたオレは、炭酸水を持って彼女の所へ向かった。
歩きながら、少し炭酸水を振っておいた。


「お待たせ。」

「あっ!おにいさん!早いね、大丈夫なの?」

「あぁ。もう片付いたから。」

と言って、ペットボトルのキャップを捻った。

「キャッ!」

プシュッ!と、彼女に炭酸水の泡が飛んだ。


炭酸水ならば、彼女の白いビキニがシミになることもない。

オレが、持っていたタオルで彼女にかかった泡を拭き、炭酸水を一口飲むと、

「あたしにもちょうだい。」

と言って、彼女は一口飲んで、オレに返した。

オレが一口飲むと、その様子を見ていた彼女が、

「おにいさんと間接キッスしちゃった。これでまた仲良し度アップ。」

その様子を見ていたナンパ男に、

「残念だけど、このねえさんは、にいさんよりオレの方がいいんだってよ。」

と言って、追っ払った。


そのまま、しばらく彼女の話し相手をした。

そう言えば、彼女はバナナボート以外に海に入っている様子はない。
オレは、ちょっと試してみようと思い、

「ねえさん、海に行ってみる?」

と誘ってみた。

「うん!行く!行く!」

と立ち上がった。

オレ達は、波打ち際に向かって歩いた。
彼女はオレのTシャツの裾をつかんでいる。
顔を見ると、嬉しそうだ。
あれだけ大胆な彼女が、なぜTシャツの裾なんだろうと不思議に思ったが、オレはそのまま歩き続けた。


波打ち際に近づき、白い砂が湿り気を含んで、うっすら黒く色が変わる辺りから、オレは彼女の背中に手を当てた。
彼女の背中を押しながら、海に入って行った。


膝ぐらいまで入った所で、オレは彼女の背中を押した。
彼女は2,3歩前に進んだ。
オレは、後ろから両手で水をかけた。

「キャッ!」

と振り向いた彼女に、バシャバシャと水をかけた。

「も~っ!ナニすんのよ!」

と彼女。

「どうだ?気持ち良かっただ・・・」

まで言ったところで、思いっきり水をかけられた。
そこから、追い打ちをかけるように何度も水をかけてきた。

まともに受けたオレは、結構な勢いでびしょ濡れになった。

オレは波打ち際まで戻り、

「ねえさん、行こうか。」

と彼女を呼んだ。

びしょ濡れになった彼女が海から上がって来る。
怒られるかなと思ったが、笑いながら、

「おにいさん、びしょ濡れじゃん。」

オレは、半パンにTシャツ。それがズブ濡れになっている。

「ねえさんが、やったんだろ!」

「おにいさんが水かけるからだよ。」

彼女も顔や髪から、海水が滴り落ちているが楽しそうだ。

「じゃぁ、行こうか。」

と歩き出した。

彼女は、またTシャツをつかんでいる。
サマーベッドまで戻ったオレは、タオルを取り、

「ほら、こっち向け。」

と言った。
そして、彼女の頭にかけ、ゴシゴシと拭いてやった。
拭きながら、

「さっき、なんでTシャツをつかんでたんだ?」

「ちょっと、やってみたかった。かわいかったでしょ?」

「やっぱりな。で、仲良し度はアップしたのか?」

「アップしたよ。今もアップしてるし。」

と言った。

「ありがとう。今度はあたしがおにいさんを拭いてあけるよ。」

とタオルを取った。

濡れたTシャツを脱ぎ、絞っているオレの頭にタオルをかけてゴシゴシと拭き始めた。

拭いている最中に、

「いただきま~す!」

と、オレの頭にタオルをかけたまま、いきなりハグしてきた。

そして、

「やったぁ~!仲良し度アップ!おにいさんのハダカいただき~!」

と、はしゃいでいる。

オレは、タオルを取り彼女の頭かけて、

「じゃぁ、これなら?特別サービス。」

と言って、ギュッとハグしてやった。

彼女は、

「わ~い!アップした~!」

とハグしながら、ピョンピョン飛び跳ねている。

どうやら、オレと何か新しい事をやる度に、彼女の仲良し度はアップするらしい。

「もう、満足しただろ?」

「うん。いっぱい仲良くなったね。」

と、嬉しそうだ。

「でも、約束はまだ終わってないからね。あたしが帰るまでだからね。」

「わかってるよ。」




その後、彼女の友達が帰って来た。

「そろそろ戻った方がいいんじゃないのか?」

「うん、そうする。」

「じゃぁな。」

オレは、パラソルとサマーベッドを持って歩き出した。

その時、彼女が、

「あっ、ちょっと待って。」

「ん?」

オレが振り向くと、

「これは今日のお礼。」

と言って、ハグしてきた。
両手が塞がっているオレは、抵抗できず、

「あっ!やられた!」

彼女は、

「やったー!今日はありがとう。またね。」

と手を振りながら、満足そうに友達の所に向かって歩き出した。

そして、振り返り、

「あたしの、勝ち~!」

と言った。






次の日、いつものように海の家に行き、売店から砂浜に出ると、

「おにいさ~ん!」

と呼ぶ声が聞こえた。

聞き覚えのあるその声は、あの彼女だ。

そして、声のした方を見ると、

「おはよ~!」

と、彼女が両手を広げた。



花火大会


8月には、花火大会がある。

海の家の営業は5時までだが、花火大会の日は、夜も売店だけは開けている。

花火見物の客が、ビーチに溢れるからだ。


海沿いの駐車場には、車ではなく、夜店が立ち並ぶ。


そんな花火大会の夜、オレは、バイトの女子高生に、夜店に行こうと売店から連れ出された。

夜店が並んでいる駐車場に行くと、そこには、バイトリーダーの大学生の●●と、もうひとりのバイトの女子高生が待っていた。

「これで揃った。じゃぁ、行こ。」

と言って、バイトの女子高生達は、さっさと歩き始めた。

オレは、

「なんだ、お前も引っ張り出されたのか。」

と●●に聞いた。

「アイツら、俺たちにおごらせるつもりらしいっスよ。昼間から相談してましたから。」

と言った。

「まぁ、しょうがねぇか。」

と、2人の後を追った。

近づいて、

「お前ら、歩くのが速いよ。」

と言うと、

「もっと離れて歩いて。あたし達、これからナンパされるんだから。」

「じゃぁ、オレ達はいなくてもいいんじゃねぇのか?」  

「いなきゃダメなの!」

と言って、またスタスタと歩き始めた。


しばらく歩くと、2人の男がナンパしてきた。

バイト達は、少し話して、すぐに歩き出した。

うまくやり過ごしたらしい。

オレは、

「断ったのか?」

「だって、今の2人なんか気持ち悪いんだもん。」

「お前らだって、似たようなもんだろ。」

「そんな事ないもん。」

と言って、また歩き出した。

オレは、●●に、

「少し脅かしてやろうか。」

と言った。

●●も、

「面白そうっすね。」

と言って、

オレ達は、夜店が並んでいる駐車場から、砂浜へ降りた。

駐車場と砂浜は、大人1人分位の高さがある。
こちらからは夜店の灯りで見えるが、バイト達からは暗い砂浜は見えない。

オレ達は、砂浜をバイト達の少し後から歩いた。

しばらく歩くと、今度は3人組が声をかけて来た。

バイト達は、さっきのように断ろうとしたが、今度の男達は諦めない。
バイトは腕を掴まれている。

よく見ると、昼間、売店に来た奴らだ。 

キョロキョロしているが、後ろにいるはずのオレ達がいない。

本当に焦り始めたようだ。

ちょっと可哀想になり、

「そろそろ行くか。」

と、●●に言った。

オレ達は、砂浜から駐車場に戻り、バイト達の後ろから、

「お前ら、どこ行ってたんだよ。」

と声をかけた。

振り向いたバイト達は、

「○○さ~ん!」

と、泣きそうな顔になった。

オレは、歩きながら、

「なんだ、さっき売店に来たにいさん達じゃねぇか。」

にいさん達も、

「あぁ、売店の。」

と言った。

オレは、バイトの頭に手をおいて、

「コイツら、ウチのバイトなんだよ。」

と言い、

「お前ら、勝手に歩き回るなって言っただろ!ほら、行くぞ!」

そして、にいさん達に、

「じゃぁ。」

と言って、歩き出した。

オレは、後ろを歩いているバイト達に、

「どうだった?ナンパされた気分は。少しは懲りたか?」

と振り向くと、

「なんで、いないのよ!」

「隠れることないじゃん!」

と、懲りるどころか、いきなりオレと●●にキレ始めた。

●●が、

「だって、お前らが近づくなって言ったんだろ?」

と言い返すと、

「ナニ言ってんのよ!今日は○○さんと●●先輩のおごりだからね!」

と言って、夜店を物色し始めた。

「○○さん、焼きそばが食べたい。」

もうひとりのバイトも、

「●●先輩、あたしはお好み焼きがいい。」

そして、食べ始めると機嫌が直ったのか、

「○○さんも食べる?」

と、オレにも食べさせてくれた。

その後も、焼き鳥、ジュース、ベビーカステラ、じゃがバター等々、射的まで始めた。

このままでは、●●のバイト代が消えてしまう事になりかねない。

結局、途中からは全部オレが払った。

ひと回りする頃には、バイトの女子高生達はご機嫌になっていた。

最終的に、オレにはこの夏一番イタイ出費になった。




ただの友達


二組のカップルが、テーブル席に座った。

女の子は、ポニーテールとショートカット。

売店の前を通ったので、何気なく声をかけたら、入ってきたお客さんだ。

オレは4人に、

「今日は海でダブルデート?」

と聞いた。

すると、ポニーテールの彼女が、

「全然、ただの友達。」

男の方も、

「男2人じゃカッコ悪いから、コイツら連れて来たんだよ。」

と言った。



この4人は、車2台でやって来た。
男1台、女1台。
特に付き合っている訳ではなく、ただの遊び友達だと言う。
にいさん達は、今回の海で女の子をナンパし、彼女を見つけると言っていた。
そして、ナンパに成功したら、その女の子達を、にいさん達が車で送って行く。
ねぇさん達は、女2人で車で帰る。
その為に、車2台でやって来た。
もしナンパに失敗しても、ねぇさん達がいるから、一応見た目の格好はつく。
という事らしい。



4人は着替え、にいさん達は早速ビーチへ、ねぇさん達はテーブル席でビールを飲んでいる。

オレは、ねえさん達に、

「あの2人、ねぇさん達をほったらかしにしてナンパに行っちゃったけど、いいのか?」

「いいのいいの。今日は別行動だから。」

と、ポニーテールのねぇさんが言った。

ショートカットのねぇさんも、
  
「それに、アイツらがいるとウルサイし。」

と言った。

「だけど、あのにいさん達がいないと、ねぇさん達の所にナンパ男がよって来るんじゃないの?」

「大丈夫。あたし達はそんなヤツらには引っかからないから。」

と笑っている。

オレは、ねぇさん達を見て、

「そうだな。ねぇさん達なら大丈夫そうだな。」

と言った。

それを聞いた、ショートカットのねぇさんが、

「なに?その意味ありげな言い方は。」

「いや、ねぇさん達なら簡単に追っ払いそうだなって思って。」

「ホントは違うんでしょ?ナンパ男が来るわけないって思ったんでしょ。」

とポニーテールのねぇさん。

そして、

「もしナンパされたらビールご馳走してよね。」

と言った。

「それはダメだろ。ねぇさん達、車で来てるんだろ?」
  
「あっ、そうだった。じゃぁ、かき氷ね。」
  
ショートカットの、ねぇさんも、

「決まり!約束だからね。」

と、強引に約束して、ビーチに出て行った。


その後、にいさん達の姿は見えず、ねぇさん達も、パラソルの下で寝ころんでいた。


しばらくして、にいさん達が戻って来た。

オレは、

「どうだった?かわいいコいた?」

と聞いた。

「結構いるね。かわいいコ。」
    
と答えたが、誰も連れて来ないという事は、失敗したのだろう。

そこへ、ねぇさん達がやって来た。

「アンタ達だけ?女の子は?」 

「まだまだ、これからだよ。」

と言った。
失敗したとは言わない。

「お前らは?ナンパされたか?」
     
「あたし達が、ナンパなんかに引っかかるわけないじゃん。」

と、ポニーテールのねぇさん。

ショートカットのねぇさんも、

「ナンパ男ごときが、あたし達に声をかけようなんて100年早いよ。」

ねぇさん達に、声をかけて来た男は、まだいない。

「なんだ、誰も声かけてくれなかったのか。」

と言って、にいさん達はビーチ出て、辺りをを見回している。

その隙に、オレはねぇさん達に近づき、小声で、

「じゃぁ、勝負はオレの勝ちだな。」
    
と言った。

それを聞いたねぇさん達は、

「あっ!」

と言って、にいさん達に、

「ちょっと、アンタ達!」

と、にいさん達を呼んで、

「もし、ナンパできなかったら、かき氷おごってよね。」

と言った。

にいさん達も、

「おう、もし成功したらお前らがおごれよな。」

と言い、

「じゃぁ、また後でな。」

と、歩き始めた。

オレは、ねぇさん達に、

「ナニちゃっかり保険かけてんだよ。それってズルくねぇか?」

すると、ポニーテールのねぇさんが、

「当然でしょ。」

と笑っている。


ねぇさん達が、ナンパ男に声をかけられなければ、オレの勝ち。
かき氷をおごらずに済む。

その代わり、にいさん達がナンパできなければ、にいさん達にかき氷をおごってもらえる。

ねぇさん達がナンパされず、にいさん達がナンパに成功したら、ねぇさん達は自腹でかき氷を食べることになるのだが、そこは、全く考えていないようだ。


そして、ショートカットのねぇさんが、

「アイツらが失敗して、あたし達がナンパされたら、あたし達はかき氷2杯食べられるってことだよね。」

と言った。

オレは、

「ねぇさん達が、自腹になるって可能性もあるんだけど。」

「ないない。アイツらに引っかかる女の子なんていないもん。」

と、ポニーテールのねぇさん。

「じゃぁ、オレは売店に来たお客さんに、ねぇさん達の事を、腹黒い女だから近付かない方がいいって言っておくよ。」

「ダメだよ。それはルール違反でしょ。」

と、ポニーテールのねぇさん。

「そっちが勝手に決めたのに、ルール違反も何もねぇだろう。」

「ダメ。あたし達がルールなの。」

と笑っている。

「ひでぇ話だなぁ。」

と、オレは諦めた。

「じゃぁ、あたし達はナンパされに行ってくるから。」

と、ねぇさん達はパラソルに戻った。

その後は、特に何もなく、オレは売店に来るお客さんの対応をしていた。

しばらくして、にいさん達が戻って来た。

オレは、

「どうだった?」

と聞いた。

「ちょっと厳しいかなぁ。」

「それなら、あのねぇさん達でいいんじゃない?せっかく一緒に来たんだし。」

だけど、

「アイツら、うるせぇしなぁ。」

と、ねぇさん達と同じ事を言った。

意外とこの4人は、似た者同士で丁度いいのではないのか、とオレは思うのだが。


結局この日、にいさん達は誰もナンパできず、ねぇさん達もナンパされる事はなかった。

その結果、オレではなく、にいさん達がかき氷をおごる事になった。

オレは、かき氷を食べてるねぇさん達に、

「よかったじゃん。かき氷食べられて。」

と言うと、

ポニーテールのねぇさんが、

「え~っ!?おにいさんにご馳走して欲しかったのになぁ。」

と言った。

ショートカットのねぇさんも、

「これじゃ、いつもと一緒だよ。結局、アイツらのおごり。」

「よかったじゃん。自腹じゃねぇんだから。」

「たまには他の男の人にご馳走して欲しかったよ。」

と言った。

オレは、

「ねぇさん達こそ、今日ぐらいあのにいさん達におごってあげたら?」

「そうだなぁ。」

と、ポニーテールのねぇさんと顔を見合わせて、

「まぁ、たまにはいいか。」

と言って、にいさん達を呼び、

「ねぇ、かき氷食べる?」

と聞いた。

「おごってくれるんなら、食べてやってもいいよ。」

「なによ、その言い方。イヤなら別にいいけど。」 

「いや、ご馳走さま。」

と言って、4人で食べ始めた。

食べている間も、

「次はどこに行く?」

とか、

「今度の休みは何しようか?」

話している。

その様子は、どう見ても付き合っている者同士としか思えない。

そして帰る時、ねぇさん達が来たので、

「ねぇさん達、あれだけ仲がいいのに、なんで付き合わないんだ?」

と言ったら、

ねぇさん達は、

「だって、ただの友達だから。だけど、ずっと一緒にいるかもね。」

と笑い、

「じゃぁね。」

と帰って行った。

ねぇさん達には、このただの友達という4人の関係が、一番居心地がいいのかもしれない。