Sea Breeze Season8 -17ページ目

スマホ


この日は、朝から少し強めの吹いていた。

それでも夏の日差し、気温は高い。

人の出も多く、パラソルの数も多かった。

パラソルを使用する時は、安全装置を付けなければならない。

安全装置と言っても、パラソルの中にロープを結び、その先端にある重りを砂に埋めるだけのものだ。

だが、これがあるだけで、パラソルが風に飛ばされることはない。

この日も、風は吹いているが、日射しはかなり強い。
レンタル小屋には、パラソルを借りにくるお客さんが次々とやって来た。

バイトは、パラソルを立てる為に走り回っている。

そんな様子を、オレは売店から見ていた。

あらかじめ用意しておいた、レンタル小屋のパラソルも減ってきた。

オレは、海の家の中から、パラソルを持ってレンタル小屋に補充した。

そんな時、バイトがオレに、

「あそこのパラソル、ヤバいっすよ。」

と指差した。

そこには、パラソルの下に座っている、3人の女の子達がいた。

3人とも、スマホに夢中になっている。
自撮りしては、スマホを操作する。
その繰り返しだ。

そのパラソルは自分達で持って来た物らしく、安全装置も付けていない。

朝から吹いていた風は、徐々に強くなってきている。

彼女達も、パラソルが飛ばされないように、時々、片手で押さえている。
それでも、もう片方の手はスマホを放さない。

海に来て、そこまでスマホに夢中にならなくてもいいだろう、と思うのだが。

このままでは、パラソルが風に飛ばされかねない。

以前、お客さんの持ってきたパラソルが風に飛ばされ、他のお客さんがケガをした事があった。


オレは、彼女達の所へ行き、

「このパラソル、ねぇさん達が立てたの?」

と聞いた。

彼女達は、

「そうです。」

「このままじゃ、風に飛ばされるよ。」

と言って、パラソルを引き抜いた。

そして、バイトを呼び、

「このパラソル立て直して、安全装置を付けておいてくれ。」

と指示して、売店に戻った。

パラソルを立て直して、バイトが戻った後、彼女達が売店に来て、

「ありがとうございました。」

と、お礼を言った。

「お礼なら、あのバイトに言ってあげてよ。アイツが、ねぇさん達のパラソルが危ないって教えてくれたんだから。」

「ハイ!」

と返事をして、

「その前に、かき氷お願いします。」

と言った。

オレは、かき氷を作り、

「お待ちどお様。」

と、彼女達に渡した。

かき氷を受け取った彼女達が、テーブル席に座った。

オレは、彼女達に、

「なんで、そんなにスマホばかりやってるんだ?せっかく海に来たのに。」

と聞いた。

「写真撮って友達に自慢してるの。」

と答えた。

「だけど、海にも入ってないだろう?」

「だって、すぐ返信が来るから返さないと。」

「また後でとか言って、適当に切り上げればいいのに。」

「だって、話し始めると止まらなくなっちゃうんだもん。」

と言いながら、早速かき氷の写真を撮った。

「それで、今度はかき氷の写真を送るんだ。」

「そう。」

と言った。

今度は、かき氷を顔の横に持って写真を撮っている。

まったくご苦労な事だ。

そして、かき氷を食べ終わった彼女達は、

「おにいさん、ありがとう。」

と言って、レンタル小屋に向かった。

レンタル小屋で、バイトにお礼を言っている。

そこで、お約束のようにバイトと一緒に写真を撮っている。

レンタル小屋で写真を撮った後、彼女達はパラソルに戻り、スマホをいじり始めた。

今度はバイトと撮った写真を、早速送ったのだろう。





ノンアルで乾杯


海の家に向かって、オレは海岸通りをMTBで走っていた。

海沿いの駐車場は、海水浴客の車でほぼ満車の状態だ。

「今日も忙しくなりそうだなぁ。」

と思いながら、MTBのペダルを踏んでいた。


海の家に近づいて行くと、駐車場で車から荷物を降ろしている4人の女の子達がいた。

彼女達の前を通りすぎようとした時、

「ねぇ、海の家どこにする?」

「行ってから決めればいいんじゃない。」

そんな会話が聞こえた。

オレはMTBを止めて、

「まだ海の家決めてないの?」

と、聞いた。

オレを見る彼女達の表情は、明らかに警戒している。

海に来て、知らない男からいきなり声を掛けられたら、誰でもナンパだと思うだろう。
警戒されて当然だ。


オレは、

「あぁ、ごめん。オレはそこの海の家の者だけど、よかったら来る?」

と、すぐそばにある海の家を指さした。

彼女達は、何か相談している。

そして、その中の一人が、

「荷物を預けたり、パラソルを借りられたりできるんですか?」

と、聞いてきた。

「できるよ。取り敢えず来てみれば?イヤなら断っても構わないよ。どうするかはお客さんの自由だから。」 

と答えた。

ナンパではないとわかり、少し安心したのか、

「じゃぁ、取り敢えずお願いします。取り敢えずね。」

と言って、荷物を抱えて着いて来た。

彼女達を連れて、オレがビーチに続く階段を降りて行くと、お客さんの呼び込みをしていたバイトの女子高生達が、

「おはようございま~す!」

と挨拶した。

オレは、

「オッス!」

と挨拶を返し、

「お客さんだよ。」

と、後から着いて来た彼女達を見た。

バイトは、

「いらっしゃいませ~!」

と言ったあと、

「このおにいさんにナンパされたんですか?」

と聞いた。

コイツらは、オレが女の子のお客さんを連れて行くと、すぐにナンパしたと言う。

「バ~カ!オレがそんな事するわけねぇだろ!」

と、バイトの頭をペシッと叩いた。

その様子を見ていた、駐車場で最初にオレと話したねぇさんが、

「そうなの。このおにいさんに強引にナンパされたの。」

他の女の子も、

「そう、かなり強引に。」

と笑った。

バイトの女子高生達は、口々に、

「イヤラシイ~!」

「や~だ~!」

と、オレを見た。

「うるせぇ!そうやっていつもお前らがオレの評判を下げてるんだからな!」

と言うと、

「それは大丈夫。だって○○さんの評判は、下がる前に元々上がってないから。」

他のバイトも、

「そうそう。」

と笑った。

オレは、もう一度ペシッと頭を叩いた。

そんなやり取りを見ていた彼女達は、

「ここにしようか?」

「そうだね。ここにしよ。」

と言った。

どうやら、彼女達のオレへの警戒心は消えたようだ。

オレは、彼女達を連れて中に入って行った。

受付兼預かり所に行くと、

今度はバイトの大学生が、

「おはようございます!ナンパ成功したんスか?」

と言った。

「やめろ!お前らまで!お客さんだ!オレは売店に行くから、あとはヨロシクな。」

バイトは、

「了解っス。」

と言い、

「いらっしゃいませ!」

と彼女達を迎えた。

オレは、彼女達をバイトに任せ、売店に向かった。

しばらくすると、彼女達が水着に着替え、預かり所に荷物を預けているのが見えた。

そこで、バイトの大学生や女子高生達と話している。

やがて、話し終わった彼女達が売店にやって来た。

「随分、バイト達と盛り上がってたみたいじゃない。」

と言うと,

「おにいさん、人気者だね。」

と彼女達が言った。

「アイツら、なんか言った?」

「うん、いろいろと。」

「オレの悪口でも言ってたか?」

「うぅん、おにいさんがいると楽しいみたいだよ。」

「だって、楽しまなきゃ損だろ?せっかく海でバイトしてるんだから。」

「うん。そう言ってた。」


今のバイト達も、ここに来て、もう3回目の夏だ。
よく遊ぶが、仕事はしっかりとやる。
楽しみ方をよくわかっている。


「ねぇさん達も楽しんでいってくれよ。それと、パラソル使うんだったよな?」

と言って、彼女達をレンタル小屋に連れて行き、バイトにパラソルとサマーベッドを用意させた。

「じゃぁ、また後で。」

と言って、オレは売店に戻った。


売店に戻ったオレは、他のお客さんの対応をしていた。

それからしばらくして、海で遊んでいた彼女達が売店に来た。

オレは、

「ビールか?」

と聞いた。

彼女達は、

「今日はビールなしだから。」

と言った。

「なんで?みんな飲みそうなのに。」

「だって車だもん。」

確かに。
オレが声を掛けたのも、駐車場で車から荷物を降ろした時だ。
そんな彼女達に、ビールを飲ませる訳にはいかない。


数日前、彼女達は仕事帰りに4人で飲んでいた。
高校時代からの友人で、職場はバラバラだが、社会人になった今でも4人で飲む事が多いという。

その時、休みが揃う日曜日に、みんなで海に行く計画を立てた。

そして、荷物を持って電車に乗るのは面倒だし、せっかくだから海沿いを車でドライブしながら行こうという事で、ここの海になった。

だが、車を持っているのは一人だけ。みんな免許は持っているが、他の3人はペーパードライバー。

車を持っている彼女が、自分だけ飲めないのは不公平だ。
という事で、今回はアルコールなしで話はまとまった。

そんな話をしてくれた。



「で、その車の持ち主は?」

「あたしです。」

と手を上げた。

オレは、車のねぇさんに、

「でもみんな優しいじゃん。ねぇさんに付き合って飲まないんだから。」

と言った。

だけど、車のねぇさんは、

「いつもは、すっごくわがままだけどね。」

それを聞いた最初のねぇさんが、

「元々は、あんたが車を出さないって言うから、飲まない事にしたんじゃない。」

すると、車のねぇさんが、

「だから言ったじゃん。電車にしようって。そうすればお酒飲めたのに。」

今度は、他の二人が、

「お酒飲んで、荷物持って電車で帰るの面倒くさいじゃん。」

と言った。

オレは、ここでモメられてはたまらないと思い、

「もうわかったから。結局みんなわがままって事だよな。さっきの優しいって言葉は取り消すよ。」

と言った。

「えーっ!?優しいじゃん。あたし達、おにいさんの言うこと聞いて、ここに入ってあげたたんだから。」

オレは、

「わかったよ。じゃぁ、今日のところはこれで我慢しておけよ。ご馳走するから。」

と言って、ノンアルコールのビールを出した。

「えっ、いいの?」

と彼女達。

これは売れ残りの品物で、返品もできない。
飲んでもいいと言われていた。

「アルコールゼロだから、これなら車のねぇさんも飲めるだろ?帰るまでまだ時間はたっぷりあるし。」

「ホントにいいの?」

と、最初のねぇさんが聞いた。

「いいよ。こういう楽しみ方があってもいいだろ?その代わり一杯ずつな。気分だけでも味わってくれよ。」

と言って、グラスに入れ、彼女達のテーブルに並べた。

彼女達は、グラスを持ってカチンと乾杯した。

すると、車のねぇさんが、

「おにいさんにも乾杯しようよ。」

と言った。

他の3人も、

「そうだね。」

「えっ、オレに乾杯してくれるの?じゃぁ、オレも付き合うよ。」

と言って、残ったノンアルをグラスに入れ、彼女達の所へ行った。

そして、

「ありがとう。おにいさんに、カンパ~イ!」

オレは、彼女達とカチンとグラスをあわせた。

グラスを飲み干すと、彼女達はまたパラソルに戻って行った。


そして夕方、彼女達が戻って来た。
海の家の中は、ほとんどのお客さんは帰り、残っているのは数組の家族やグループだけだ。

オレは彼女達に、

「どう?しっかり楽しんだ?」

と聞いた。

「楽しんだよ~。」

と言って、テーブル席に座った。

多分、このままここで話し始めたら、閉店時間になってしまう。

「そんなのんびりしてないで、先にシャワーを浴びてきてくれるかな。ウキワの空気は抜いておくから。」

と、彼女達をシャワー室に行かせた。

その間に、オレは彼女達のウキワの空気を抜き、売店の後片付けを始めた。

ひと通り片付けが終わった頃、彼女達が帰り支度を終えて売店に来た。

オレが、

「おかえり。」

と言うと、

彼女達は、

「ただいま~。」

と、荷物を持って戻って来た。

「どうだった?今日一日は。」

最初のねぇさんが、

「楽しかったよ。」

車のねぇさんも、

「バイト君達の言ってた通りだったね。」

と言った。

「なんて言ってた?」

と聞くと、

他の二人が、

「おにいさんと仲良くなったお客さんは、みんな楽しんでるって。」

「オレも楽しませてもらってるからな。今日だってねぇさん達と会えて話して楽しかったし。今も楽しいしね。」

「あたし達も楽しかったよ。」

そんな話をしているうちに、帰る時間になった。

彼女達が、荷物を持って席を立った。

オレは彼女達に、

「気をつけて帰れよ。」

と、売店の中から見送ろうとしたら、

「えーっ、見送るだけ?途中まで送ってくれるんじゃないの?」

と言った。

「なんで?」

「だって、ここに連れてきたのはおにいさんでしょ。」

と言い、他の女の子達も、

「そうだよ、ナンパされて来たんだから。早く行こうよ。」

と、オレを連れ出そうとする。

「だから、ナンパじゃねぇだろ。」

と言ったが、仕方なく、

「じゃぁ、そこまでな。」

と、彼女達と歩き出した。

駐車場に続く階段を上がり、少し歩いたところで、車のねぇさんに、

「おにいさん。」

と呼ばれ、彼女を見た。

「これ、後で食べて。」

と、コンビニ袋を渡された。

中には、コンビニで買ったスイーツやお菓子、ペットボトルのコーヒー等が入っていた。

「えっ、いいの?」

と聞くと、
最初のねぇさんが、車のねぇさんを見て、

「このコが、おにいさんにお礼しようよって言うから。」

「なんで?お礼されるような事はしてないと思うけど。」

と言った。

車のねぇさんも、

「今日は楽しかったかし、あたし達の話を聞いて、ノンアルご馳走してくれたり。今までそんな事してくれた海の家なかったよ。だから受け取って。おにいさんにもこういう楽しみ方があってもいいんじゃない?」


オレは、

「こんなの初めてだよ。じゃぁ、遠慮なくもらっておくよ。ありがとう。やっぱりねぇさん達は優しかったんだな。」

「当然でしょ。」

と笑った。

オレは、

「みんな気をつけて帰るんだよ。」

と言い、

ねぇさん達は、

「おにいさん、今日はありがとう。」

と言って別れた。




海の家に戻って、この日の仕事を終えたオレは、海沿いの駐車場をMMTで走っていた。

海の家の営業時間が終わる頃になると、駐車場の車も減り、ウォーキングやジョギングをする人が増えてくる。

MTBもで走っている人も多い。

そんな中を、オレもMTBで走っていた。

その横の海岸通りの上り車線は、海水浴から帰る車で渋滞している。
この海岸線は、信号も多く、車はほとんど止まっているような状態だ。

そんな車を横目に見ながら走っている時、

「おにいさ~ん!」

という声が聞こえた。

オレは、MTBを止め、まわりを見た。
渋滞の中に手を振っている車があった。

あのねぇさん達の車だった。

オレと別れた後、すぐに帰っていれば、この時間にはいないはずだ。
オレは、彼女達の側まで戻った。


オレと別れた後、彼女達は駐車場の近くにあるコンビニのイートインで、コーヒーを飲みながら今日の話で盛り上がっていたらしい。
それで、この渋滞にハマってしまったそうだ。


そんな話を聞いている時、渋滞していた車が少し動き出した。

オレは、

「じゃぁな。」

と言い、手を振って彼女達とは反対方向に走り出した。

後ろからは、

「ありがとう~!」

と言う声が聞こえた。

オレは、もう一度手を上げて、そのまま走り続けた。




 

こういう方法も


この日も、かなり暑かった。
ビーチの砂もかなり熱く、裸足で砂浜を歩く人は、まずいない。

うっかり裸足で砂浜に出てしまい、慌てて引き返して来る人が何人もいた。

その暑さのおかげで、売店も繁盛していた。

そんな中、何度も売店にジュースや水を買いに来る3人の女の子達がいた。

一瞬、女子高生かと思ったが、時々見せる表情にあどけなさが残っている。
多分、中学生だろう。

ひとりの女の子が、首から防水ケースをぶら下げている。

ケースの中には、小銭と何枚かの千円札。

財布は荷物と一緒に海の家に預けて、売店で使う分だけケースに入れて来たようだ。


しばらくすると、また彼女達が売店に来た。
今度は、かき氷を注文した。

彼女は、ケースの中から千円札を出し、申し訳なさそうな顔をして、

「すみません。これでもいいですか?」

と、オレに見せた、

その千円札は、びっしょりと濡れていた。

彼女が持っていた防水ケースは、プラスチック製で、フタをしっかりロックしないと、水が入って来てしまう。

オレは、

「いいよ。」

と言って、びしょ濡れの千円札を受け取った。

そして、

「ちょっと、こっちに来て。」

と、彼女達を砂浜に連れ出した。

オレは、ビーサンを脱ぎ、砂の上に足を乗せた。

砂は、かなり熱くなっている。
これなら大丈夫だろう。

「ちょっと見てて。」

と言って、

焼けた砂の上に千円札を置き、その上に砂を乗せ、手のひらでしばらく押さえていた。

そして、砂の中から千円札を取り出し、パンパンと手で砂を落として、

「これ、触ってみて。」

と、彼女達に渡した。

彼女達は、

「あーっ!乾いてる!」

と驚いている。

焼けた砂の中に、濡れた紙幣を入れると、砂の熱さである程度は乾かす事ができる。


「こうすると乾くんだよ。覚えておくといいよ。」

と言って、売店に戻ってかき氷を作り、彼女達に渡した。

受け取った彼女達は、

「ありがとうございました。」

と言って、自分たちの場所に戻って行った。

その後、彼女達はまた売店にやって来て、ジュースを買い、

今度は、ニコニコしながら、

「これでお願いします。」

と言って、乾いた千円札を渡した。

さっそく、さっき教えた方法を試したのだろう。

その千円札には、落としきれなかった砂が、少しついていた。