Sea Breeze Season8 -14ページ目

休日出勤


ある夏の日、土曜日。

いつもなら海の家に行くのだが、この日は、どうしても片付けなければならない仕事があり、会社に休日出勤していた。


この日も晴天で、気温も高い。
絶好の海日和だ。


ほとんどは、金曜日に処理しておいたので、この日の作業は、夜の間に届いて来るデータを加えた、最後の仕上げのようなものだ。

時間としては、半日もかからない。


休出なので、私服で出社。
足元は、海ではないのでビーサンではなくスニーカー。
カバンも仕事用ではなく、大きめのワンショルダーバッグ。
この中には、着替えが入っている。


会社に着くと、オレ以外にも数人が休出していた。

オレの顔を見ると、

「なんだ、お前がこの時期に休出するのは珍しいな。」

と言った。


声をかけて来たのは、隣の課にいるオレの同期だ。
コイツは、オレが週末に海の家を手伝ってのを知っている。

オレは、

「お前も来てたのか。オレはさっさと片付けて海に行くよ。」

と、肩にかけているバッグをポンポンと叩いた。


自分の席に座りパソコンを開くと、データは届いていた。

予定時間を少しオーバーしたが、なんとか仕事を済ませ、同期に、

「じゃあな。お先に。」

同期も、

「おう。また機会があったらBBQやらせてくれよ。」

と言って手をあげた。


何年か前、課の後輩達を連れてBBQをやりたいので、海の家を使わせて欲しいと頼まれた事があった。
課が隣同士なので、後輩の事もよく知っている。
オレも参加するということで、店長は快く海の家を使わせてくれた。
この時のBBQは、大いに盛り上がり、同期も後輩達も喜んで帰って行った。


同期と別れたオレは、会社を出て駅に向かった。

電車の中にも、海水浴らしき客が多い。

早めに出社したので、この時間なら昼頃には海に着くだろう。


昼過ぎに海の家に行くと、入口でお客さんの呼び込みをしていたバイトの女子高生達が、オレの姿を見つけ、

「○○さん、遅いよ~!」

「遅刻だよ~!」

と騒ぎ出した。

「うるせぇなぁ!仕事してきたんだよ!」


彼女達を振り切り、中に入って行くと店長が、

「どうしたその格好は?今日は仕事だったのか?」

「あぁ。休日出勤だ。全部片付けてきたよ。」

「そうか。じゃあ売店頼んでいいか?」

「了解。その前にシャワー浴びてくるよ。」

と言って、荷物の預かり所に向かった。


預かり所のバイトが、

「今日は遅いッスね。仕事だったんスか?」

と聞いてきた。

「あぁ。シャワー浴びるからカゴひとつくれ。」


荷物を預けるためのカゴを受け取り、シャワー室へ行った。


オレはバイトではなく、手が空いている時のただの手伝いなので、特に時間は拘束されていない。


シャワーを浴びてサッパリしたら、空腹だった事を思い出した。

オレは預かり所のバイトに、

「これ、頼むよ。」

と荷物を入れたカゴを渡し、食堂へ行った。


食堂で、

「オレのメシある?」

と言うと、食堂のおばちゃんが、

「何食べる?」

オレは、 

「じゃぁ、チャーハン。」

おばちゃんは、

「ダメ。カレーにしな。」

と言って、オレの前にカレーを置いた。


おばちゃんは、何食べる?と言いながら、その時には、もう皿に飯を盛り、カレーをかけようとしていた。


オレは空いている席に座り、だったら聞くなよ、と思いながらカレーを食べた。


だが、これもいつもの挨拶みたいなものだ。


カレーを食べ終えたオレは、食堂に行き、

「ごちそうさん。」

と皿を返した。

「食べた分しっかり手伝うんだよ。」

と言いながら、受け取った皿を持って行った。


このやり取りも、いつもの事だ。
元々、代金を取ろうなどという気などない。



売店に行くと、

「お疲れさまです!」

とバイトが言った。

「おぅ、お疲れ。今日はヒマそうだなぁ。」

「さっきまで忙しかったんスけど、今は落ち着いてます。」

「そうか。」

オレは冷蔵庫から缶コーヒー取り、売店前のテーブル席に座った。

缶コーヒーを飲みながら目の前のビーチを眺めた。

ほとんどのお客さんは、ビーチに出ているので、海の家の中はガラガラの状態だ。


やがて夕方が近づいて来ると、帰り支度のお客さんで売店混み始めた。


帰り際の混雑も終わり、ほとんどのお客さんが帰ってヒマになってくると、大きなゴミ袋を持った迷惑コンビが、ゴミの回収にやって来る。

そして、オレに絡み始める。その騒ぎを聞きつけて、他のバイトも集まって来た。
こうなると、売店はもう大騒ぎだ。
だが、この騒々しさが楽しい。

やっぱり、夏はここが一番居心地がいい。





2020年 夏


2020年 夏


今年は、コロナの影響で海水浴場は開設されていない。


8月も終盤に入った日曜日。

突然の豪雨。

雨が上がった後に、大きな虹が出ていた。











いつもなら、海の家でバイトやお客さん達とワイワイ騒ぎながらこの虹を眺めていた事だろう。




愛すべき心優しき迷惑コンビ


ある日、オレがかき氷を作っている時、バイトの女子高生の○美が、真っ赤な顔をして売店にやって来て、

「○○さ~ん、日に焼けて痛いよ~。」

と泣きついてきた。


この○美は、『疲れた~』とか、『お腹すいた~』とか、何かというとオレに絡んで来る。


オレは、売店を出て、

「なんだ?その顔は。真っ赤じゃねぇか。」

「昨日、友達とプールに行って日に焼けたんだよ~。」

と、情けない声で言った。


この日は、土曜日。
前日の金曜日は、バイトを休んで友達とプールに行って来たという。

オレが、海に行くのは会社が休みの、週末やお盆休みだけだ。
なので、○美がプールに行っているのは知らなかった。


そして、

「ほらぁ。さわってみてよぉ。」

と言って、ネックラインの広いTシャツの首元をグイッと開いた。

覗き込むと、肩から背中にかけて真っ赤になっている。
 

Tシャツの中に手を入れて、肩、背中をさわってみた。

かなり火照っている


「お前、スッゲェー熱いぞ。」

「あぁ~、○○さんの手、冷たくて気持ちいい~。」


氷をさわった手が冷たくて気持ちいいと感じるのは、相当な日焼けと言うことだ。
冷えているオレの手のひらにも、その熱が伝わってくる。

たった1日であそこまで日焼けすれば当然だ。

「お前、ここでバイトしてるんだからわかるだろ。それで、ここまで日焼けするか?」

「そんな事言ったって、しょうがないじゃん!」

「ちょっと待ってろ。」

と言って、氷水に手を入れ、その手を○美の背中に入れた。

「あぁ~、気持ちいい~。」

と言っている。

そこに、○美と仲がいい□子がやって来た。

コイツも○美と同じように、売店に来てはオレによく絡んでくる。
○美と□子が2人揃って絡んで来た日には、たまったものではない。
もう大騒ぎだ。

だが、2人共仕事はしっかりとやる。


その□子がオレに、

「○○さん、コイツこんなに日焼けして、バカだよね。」

と言った。

「ウルサイなぁ。アンタには関係ないでしょ!」

と、○美。

オレは、□子に、

「オレも、コイツがバカなのは前から知ってるから。」

「○○さんもナニ言ってんのよ!」

と、オレの背中をバシバシ叩いた。

「痛ぇよ。もっといいモノやるから。」

と言って、売店に戻った。


小さくて、使えなくなったかき氷用の氷をビニール袋入れた。

それを、○美の肩に乗せた。
右肩、首、左肩、背中と火照っている部分に順番に当てていく。


○美は、

「あ~!キク~ッ!!」

と、仕事帰りにビールを飲んでいるサラリーマンのような顔をした。

「お前は、酔っぱらいのオッサンか!キク~ッじゃねぇよ。こんなに日焼けして。」


それを、横で見ている□子。
ちょっかいを出したくて、ウズウズしているようだ。


□子が、

「○○さん、あたしが代わってあける。」

と、氷袋を受け取り、○美に当て始めた。


しばらく黙っていた○美が、

「違う!もっと右!もっと下!ちゃんとやってよ!」

「やってるじゃん!こんなに日焼けするアンタが悪いんじゃん!」

「□子!アンタ雑!もういい!○○さんやって!」

と、□子から氷袋を奪い取り、オレに返した。

しばらく氷袋を当てていたが、もうほとんど水になっている。
元々小さい氷だ。日焼けで火照った体で氷が溶けてしまった。


そろそろ、売店も食堂も食事の客で混み始める時間になってきた。

オレは、2人を仕事に戻した。


昼間の食事混雑が終わった後、2人が歩いて来るのが見えた。

□子が○美の肩を、叩いている。
その手を○美が、振り払う。

そんな2人が、売店になだれ込んで来た。


そして、○美が、

「○○さん、□子がウルサイよ!まだ、イタイのに!」

「コイツがうるせぇのは、オレのせいじゃねぇだろう。元々うるせぇんだから。」

それを聞いた□子が、オレに、

「あたしのどこがうるさいのよ!」

「お前が静かな事ってあったか?」

「いつも静かじゃない!それに、おしとやかだし、かわいいし。」

「お前と真逆の言葉じゃねぇか。」

「どこが真逆なのよ!」

オレは、□子を指さして、

「ほら、それだよ。」

と言ってやった。


横で聞いていた○美が、

「○○さん、早くまた氷袋やってよ。」

「待ってろよ。今、用意してやるから。」

「早くしてよね。イタイんだから。」

オレは、仕方なく、

「わかったよ。」

準備しようと振り向くと、□子が氷の入っているストッカーのフタを開けて、

「この小さい氷使ってもいいの?」

と、聞いてきた。

「あぁ、いいよ。」

□子が、袋の中に小さくなった氷を入れている。

氷袋を持って、□子が、

「○美、こっち来なよ。」

と、○美を呼んだ。

売店から出て砂浜にしゃがみ込み、□子が○美の肩に氷袋を当てている。
なんだかんだ言っても、いいコンビだ。


○美も□子も、うるさいが意外と優しい。


以前、オレがかき氷機の刃を調節している時、人差し指を切った事がある。

縫うほどではないが、そこそこ血が出た。
そこへ、彼女達がガーゼや絆創膏を持ってきて手当てをしてくれた事があった。

その時も、『ガーゼがズレてる!』とか、『しっかり押さえて!』とか、ワイワイ言いながら手当てをしてくれた。


薬を塗り、ガーゼを当て、絆創膏を巻いてくれた。

手当てを終え、売店から出て行こうとしている彼女達に、

「ありがとな。」

と手を上げた。

オレの人差し指は、グルグル巻きにされた絆創膏で親指より太くなっていた。

□子は、

「じゃあね。」

とウィンクをした。

○美も、負けじと、

投げキッスをした。



その後、自分の仕事に戻った後も、『指は大丈夫?』とか、『絆創膏は剥がれてない?』とか、売店にちょこちょこ様子を見に来た。


数日後、指のキズも完治した。

それを2人に言うと、○美が、

「良かったね。それじゃ、お祝いしようよ。快気祝いってやつ。」

□子が、

「あたしはハンバーガーでいいよ。」

○美は、

「あたしも。せっかくだからセットにしてね。」

「やっぱり、あたしもセットがいい。」

と、□子が言った。

オレは、

「ちょっと待て。快気祝いって普通はオレが感謝の気持ちを示すものだぞ。それをなんでお前らが勝手に決めてんだよ。」

「だって、あたし達キズの手当てしてあげたじゃん。当然感謝してるでしょ。その気持ちを示してよね。」

と、□子。

○美も、

「お見舞いだってしたでしょ。」

「お見舞いって、いつ?」

「売店に、大丈夫?って様子を見に行ったでしょ。」


確かに、お見舞いと言えなくもないが・・・。
とにかく、この2人に何かにこじつけて攻め立てられると、まず逃げ切れない。
こうなると、オレは、もう苦笑いするしかない。


「じゃぁ、今日の帰りにマックね。○○さんの感謝の気持ちを、ありがたく受け取るから。」


結局、オレは快気祝いでマックをおごらされた。
その上、帰りにはデザートだと言って、フルーリーやパイ、ナゲットまでテイクアウトした。

会計を済ませ、別れる時、○美が、

「また、かき氷機で指切ったら言ってね。そしたら、すぐ手当てしてあげるから。」

□子も、

「で、治ったらまたお祝いやろうね。快気祝い。」

と、楽しそうに言った。

オレは、

「そんなにお祝いばかりやってたら、お前ら太るぞ。って言うか、お前ら太れ!それ食ってデブになっちまえ!!」

オレの、ささやかな抵抗だ。


それを聞いた○美が、

「いいよ~、太っても。じゃぁ、これから快気祝いの二次会やる?」

と腕を組んできた。

「それいいねぇ。○○さん、やろうよ。」

と□子も腕を組んできた。

オレは、その腕を振りほどき、

「お前ら、調子に乗るんじゃねぇ!」

と2人の頭を、ペシッ、ペシッと叩いた。



そんな彼女達も高校3年生。
高校1年から、3回の夏を一緒に過ごした。
そして、この年の夏がここでバイトをする最後の夏だ。


この3年間、彼女達に巻き込まれたドタバタの中は、結構、楽しくて居心地のいい時間だった。


最終日、『来年遊びに来るね~!』と言って
元気に別れたが、今年は海水浴場が閉鎖されているので、彼女達とは会えていない。


次の夏には、少しだけ大人になった彼女達にきっと会えるだろう。