Sea Breeze Season8 -13ページ目

雨上がりに


台風12号が東の海上を通り、温帯低気圧に変わった。

大きな被害はなかったが、前線の影響もあり雨が降ったり止んだりという日が多かった。



雨上がりに、大きな虹がかかっていた。













ある日の迷惑コンビ


ある日、あの迷惑コンビの2人が、売店の応援に入った事があった。

迷惑コンビとは、○美と□子だ。

オレから頼んだ訳ではなく、ヒマな時間を潰しに来た押し掛け応援だ。


もう夏も折り返し、終わりに近づいていたので、お客さんもそれ程多くはない。
彼女達がいても邪魔にはならないだろう。

とりあえず、売店に来たお客さんは彼女達に任せた。


彼女達は以前から、自分の仕事がヒマになると、売店に来てオレに絡んでくる事がちょくちょくあった。

そんな時に売店が忙しくなると、自分から進んでお客さんの対応をしていたので、かき氷を除けば大抵の事はできた。

この日は、結構空き時間もあったので、かき氷の作り方を教えてみようと思った。

オレは、

「お前ら、かき氷作ってみるか?」

と言った。

2人共、

「やるやる!」

「○○さん、教えて!」

「じゃあ、オレが1コ作るから見てろよ。」

と氷をセットした。

その時□子の、

「いらっしゃいませ!」

と言う声が聞こえた。

若い女性客だ。注文は抹茶のかき氷。

オレは、氷をセットしてかき氷を作り始めた。

そこでもう一度、

「いらっしゃいませ!」

と言った。

女性客の後に、上品そうなお婆さんと孫らしい5歳ぐらいの女の子。

女の子は、イチゴミルクを注文。


オレは、抹茶のかき氷を作り、○美に、

「ハイ!抹茶お待ちどう!」

と渡した。 

続けて、イチゴミルクを作り、

「ハイ!イチゴミルク上がり!」

受け取った□子が、女の子にイチゴミルクを渡している時、お婆さんが、

「抹茶にミルクをかけたら美味しそうね。」

と言った。

それを聞いた□子が、

「ハイ!抹茶にミルクをかけると美味しそうにいただけますよ!」

と元気よく答えた。

オレは、

「えっ!?」

○美も、

「バカ!違うでしょ!美味しくいただけますでしょ!」

「そうだぞ!美味しそうにいただくって、まずいものを旨そうに食うのか?オレの抹茶ミルクがうまいのはお前も知ってるだろ!ちょこちょこつまみ食いしてるんだから。」


かき氷を作っていると、カップからこぼれた氷が下の受け皿に落ちる。
その受け皿の氷に、勝手にシロップをかけてはつまみ食いをしていた。


「□子!アンタそんな事してるの?」

オレは、

「○美!お前もだよ!」

「なんだ、アンタだってつまみ食いしてるんじゃん!」

□子が言い返した。


そのやり取りを見ていたお婆さんが、笑いながらオレに、

「おにいさん、元気があって面白いお嬢さん達ね。」

と楽しそうに言った。

「もう、コイツらの子守りは大変ですよ。」

と答えると、

「何が大変なのよ!」

「ホントは楽しいくせに!」

2人でオレをバシバシ叩いた。


お婆さんは、

「それじゃ、お嬢さんオススメの抹茶ミルクを1つお願いしようかしら。」

□子は、

「おにいさん、抹茶ミルク1つ。美味しく作ってよ。」

「お前が言った、美味しそうにいただける抹茶ミルクを作るよ。」

横で聞いている○美は笑いをこらえている。

「ほら、抹茶ミルク。」

□子は、

「お待たせしました。」

と抹茶ミルクを渡した。


お婆さんは一口食べて、

「お嬢さん、大丈夫。ちゃんと美味しくいただいてますよ。」

と言った。

○美は、

「□子、よかったじゃん。美味しいって。」

と言いながら、□子の肩をバシバシと叩いた。


 
その後、○美は、□子の美味しそうにいただける件を、他のバイトに言いふらし、□子とモメていた。

2人はそのまま売店になだれ込み、オレにグチり始めた。
そこから話は行ったり来たり、最終的に何故かオレが悪いという事で気が済んだのか、2人はご機嫌で戻って行った。

この2人がグチりに来ると、必ずオレが悪者にされてしまう。




豪雨の中の青春


更新していなかったある夏の日のこと。


この日は、朝からとにかく暑い日だった。

それが、昼頃から南風が吹き始めた。
時間が経つにつれ、その風がかなり強くなってきた。


オレは、レンタル小屋に行き、バイト達に、

「パラソルが飛ばされないように注意してくれ。」

と、伝えた。

西の空を見ると、遠くに黒い雲が出ている。
だが、真上は晴天。
まだしばらくは、雨は降らないだろう。



売店に戻ると、3人の女の子がやって来た。
オレが声をかけて入ったお客さんだ。

彼女達が、水着に着替えて浮き輪に空気を入れ始めた。
だが、空気を入れるのに手こずっている。
それを手伝ってから、話すようになった。



「おにいさん、かき氷ちょうだい。」

彼女達はかき氷を注文した。
注文は、3人バラバラだ。

オレは、かき氷ができるたびに、

「はい、ショートのねえさん。」

次に、

「これは、セミのねえさん。」

最後に、

「ラスト、だんごのねえさん。」

と言って渡した。

彼女達の髪型が、1人はショートカット、2人目はセミロング、3人目はだんごにしていた。
3人共タイプは違うが、そこそこかわいい顔をしている。


ショートのねえさんは、何も言わなかったが、

セミのねえさんは、

「なんか虫みたいでヤダ~。」

だんごのねえさんも、

「あたしが太っているみたいじゃん。」

と文句を言った。

オレは、

「髪型で区別してるんだよ。わかりやすいだろ。」

ショートのねえさんも、

「いいじゃん、別に。」

と言っている。

でも、2人は不満そうだ。


もうひとつの、彼女達の特徴を言えば、

ショートのねえさんは、3人の中で一番背が低い。身長ならば一番ショートだ。

セミのねえさんは、日焼けしていて、よくしゃべる。虫で言えば、アブラゼミと言ったところか。

だんごのねえさんは、決して太っている訳ではないが、細身の2人と比べると、少しぽっちゃり見える。

それはそれで間違ってはいないと思ったが、

「ショートのねえさんも、いいって言ってるんだから、いいんじゃないのか?」

と、話を終わらせた。


彼女達は自分達のパラソルへ戻って行った。


それからしばらくして、さっきまで吹いていた強い南風がやみ、無風状態になった。


もしこの後、強い北風に変われば豪雨になるかもしれない。

オレは、売店を出て彼女達の所へ向かった。

「ねえさん達、いつでも動けるようにしておいた方がいいよ。」

セミのねえさんが、

「どうして?」

と聞いてきた。

オレは、北を指さして、

「もし、向こうから強い風が吹いてきて、空が曇り始めたら、大雨になるかもしれないからだよ。」

「全然大丈夫。こんなにいい天気なんだから。」

と、ショートのねえさんは、オレの言う事を気にもしていないようだ。



ここは、北から南へ海岸線が伸びている。

普段は弱い南風だが、その後強い南風、そして無風になり、強い北風に変わるとゲリラ豪雨のような雨になる事がある。

そんな天気の移り変わりを、何度も経験してきた。


やがて、無風だった状態から北風が吹き始めた時、彼女達が海の家に戻って来た。

売店前のテーブル席に座り、外の様子を見ている。

それから間もなく、その北風が強くなってきた。
さっきまでの日差しも陰っている。



ショートのねえさんが、

「なんか、曇ってきたね。」

だんごのねえさんも、

「あっちから吹いてきた風も強くなってきたよ。」

と北の方を指さした。


オレは、売店から出て空を見上げた。
遠くにあった黒い雲が、今は真上にかかっている。


オレは、彼女達に、

「ねえさん達、荷物は全部持ってきた?」

と聞いた。

セミのねえさんが、

「うん。全部持ってきたよ。」


北風が更に強くなってきた。
レンタル小屋のバイトが、パラソルの向きを風上に向けるために走り回っている。
他の海の家のバイトも、同じように走り回っていた。

お客さんも荷物を飛ばされないように押さえている。
それでも、浮き輪やビーチボールが飛び交っていた。


その時、オレの顔に雨粒が落ちてきた。
やがて、粒の細かいシャワーのような雨が降りだした。


売店に戻ると、海の家のトタン屋根がバラバラと音を立て始める。
本格的に降り出したようだ。
ビーチにいた海水浴客が、一斉に海の家に逃げ込んで来た。

海の家の席が、次々と埋まっていく。
こうなると、売店も食堂も忙しくなる。


それでも、まだパラソルの下で頑張っている客もいるが、濡れるだけだ。

屋根に叩きつける雨音が更に大きくなってきた。


その様子を見て、セミのねえさんが、

「ホントに降ってきたね。」

ショートのねえさんも、

「早めに上がって来て良かったね。席も取れたし。」

それを聞いた、だんごのねえさんが、

「あんた、おにいさんの言う事、全然信じてなかったじゃん。」

セミのねえさんも、

「そうそう、全然大丈夫とか言って。」

「そんな事ないじゃん。ちゃんと一緒に来たし。」

とショートのねえさんが反論している。

オレは、

「まぁ、いいじゃねぇか。みんな濡れずに済んだんだから。」


トタン屋根の音が、更に大きくなる。
大粒の雨が、物凄い勢いで降っている証拠だ。


その雨を見ながら、セミのねえさんが、

「でも、なんでわかったの?」

「たまにあるんだよ。こういう日が。」

だんごのねえさんが、

「この後、どうする?」

と、セミとショートのねえさんに話している。

「さっきの風で砂だらけになったから、シャワー浴びて浴びてくるよ。」

とショートのねえさんが言った。

それを聞いた他の2人も、一緒に行くと言った。

オレは、

「シャワーなら交代で行った方がいいよ。」

ショートのねえさんが、

「なんで?」

「周りを見てみろよ。みんなでシャワーに行ったら、あっという間に席とられるぞ。」


突然の雨で、雨宿りに来た客でごった返している。
座れずに立ったままの客も多い。
席が空けば、すぐに他の客が座ってしまう。

彼女達は、売店前のテーブル席で、売店に向かって座っているので周りが見えていない。
そして、後ろを振り向いて、

「ホントだ。スゴイね。」

「シャワーだったら目の前にあるぞ。天然のシャワーが。」

雨は、相変わらず物凄い勢いで降っている。

セミのねえさんが、

「あたし、ちょっと行ってみる。」

と言って、席を立った。

そして、わーっ!っと言いながら、自分達のパラソルまで走って行った。

だんごのねえさんも、後を追って飛び出した。
距離にして、15mぐらいか。
パラソルに着いた時には、びしょ濡れになっていた。
2人は何か話しては、パラソルから出たり入ったりしている。



ショートのねえさんを見ると、頬杖をついて雨を眺めていた。

「ショートのねえさんは行かないのか?」

「うん。あたしはここがいいよ。海でこうしてどしゃ降りの雨を眺めることなんか滅多にないでしょ?」


確かに。
雨の日に海水浴には来ない。雨の心配がない晴天の日に来るのが普通だ。
こういう日に当たるのは、稀なことだろう。


オレは、

「雨を眺めるながら物思いにふけるみたいな?」

「そう。なんか謎の美少女って感じでしょ?」

「謎?オレには、雨宿りしてて眠たくなったって感じに見えるかな。」

彼女は、人差し指を立てて、チッチッチッと言いながら、

「わかってないなぁ、おにいさんは。この物思いにふける女心を。」

と言った。

「女心はともかく、美少女って言われてもなぁ・・・。」

とショートのねえさんの顔を見た。

「なんか言った?💢」

「いや別に。で、謎の美少女としてはこの後どうする?」

「このままでいいかな。こうしてボーッとしてると、なんか落ち着くね。雨の音が余計な雑音を消してくれるから。」

と、どしゃ降りの雨を眺めている。


パラソルでは、セミとだんごのねえさん達が出たり入ったりしながらはしゃいでいる。

そして、豪雨の中を海の家まで歩いて戻って来た。

オレは、

「なんで歩いて帰って来たんだ?さっきは走ってたのに。」

と聞いた。

セミのねえさんは、

「大雨の中を濡れながら歩くって、なんか青春してるみたいじゃない?」

と、全身ずぶ濡れのまま楽しそうに言った。

だんごのねえさんも、

「こんな雨の中を歩いたの初めて。なんか気持ち良かったし。」

「ねえさん達には、雨に濡れながら歩くのが青春なのか?」

「だって、傘がない時に雨が降ると走って建物に駆け込むとか、そんなのばっかりじゃない。」


オレは、

「映画やドラマなら、失恋して泣きながら雨の中を歩くっていうシーンは見たことあるけど、それか?セミのねえさんは失恋中?」

「違うよ!」

と反論した。

「ショートのねえさんは、どう思う。」

「あのコ、彼氏いないから。」

それを聞いたセミのねえさんが、

「違う!そこじゃない!青春の話だから!」

と慌てて否定した。そして、

「なんか、あるじゃん。そういうのって。楽しい時は濡れながら歩くのも楽しいみたいな。水着だから全然濡れてもいいし。」


まあ、彼女の言いたい事もわからなくもない。

オレはショートのねえさんに、

「じゃあ、雨を眺めながら物思いにふける謎の美少女も青春かな?」

ショートのねえさんは、

「そう、これも青春。」

そして、

「この後どうする?」

と2人に聞いた。

だんごのねえさんが、

「ちょっと早いけど、帰る準備する?」

と相談を始めた。


オレは、

「大丈夫だよ。もうすぐ雨も上がって晴れるから。」


今、降っている雨は通り雨だ。
西の空にあった黒い雲が、上空を通過している。
通り過ぎた後は、また快晴になる。
暑いひざしも戻って来る。

でも彼女達には、このどしゃ降りの雨が上がるとは思えないらしい。


「さっき、オレの雨が降るって言葉を信じたんだから、今度は晴れるって言葉を信じてみれば?」

それを聞いたショートのねえさんが、

「もうちょっと待ってみようよ。」

と2人に言った。


その後、雨は上がり、一気に晴れてきた。
雨が降っていた時間は、せいぜい20分ぐらいだろう。

だんごのねえさんが、

「ホントに晴れたね。おにいさん、なんでわかったの?」

「だから言っただろ。時々こういう日があるって。」

オレは、海の上を見た。
海上を黒い雲が移動している。

「ねえさん達、向こうの海の上を見てみろよ。」

と指さした。

「海の上に雲が見えるだろ?」

「うん。」

「その雲と海の間に、少し煙ってるような所があるだろ?」

「うん。」

「あれが雨だよ。今、ここで降っていた雨なんだよ。」

「えーっ!」

彼女達は驚いているが、オレには何度も見た光景だ。


オレは、彼女達に、

「もう晴れたんだから、そろそろ海で青春してきたらどうだ?まだ帰るには早いだろ?」

「そうだね。」

「じゃあ、ちょっと青春してくるね。」

と、セミとだんごのねえさんは、席を立って海に行った。

オレは、テーブルに残っているショートのねえさんに、

「で、謎の美少女としてはどうするんだ?あの2人は海で青春してるぞ。」

「じゃあ、あたしも行ってこようかな。」

と言って、2人の後を追いかけて行った。


この日、一日海で遊んだ彼女達は、豪雨の時が一番青春を感じたそうだ。
多分、海でこういう体験をしたのは、初めてだったのだろ。