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今、CFOに求められるもの(その3)

株式会社インテグリティ 代表取締役
米国公認会計士
尾関 好良 氏


内部統制の重要性とCFOが果たす役割

――会社組織において、CEOやCOOがいる中で、CFOが果たしていく役割は何ですか?

 組織においてもっとも大切なのは、バランスを保つことだと思います。
 組織を車に例えるならば、ハンドルを握って行き先を決める人がCEO、アクセルを踏んで車を前に動かしていく人がCOO 、そして、車が暴走しないようにブレーキをかける人がCFOでしょうね。
 CFOがやってはいけないことは、前に出て率先して旗を振ること、つまりアクセルを踏むことだと思います。もしCFOがそれをしてしまったら、会社は前に進むばかりで、ブレーキをかける人がいなくなります。それはとりもなおさず、会社の速度を調整する人がいなくなるということです。CFOは、積極経営で急成長している会社をあえて冷めた目で見続け、企業の暴走を止める役割を担っているということを忘れてほしくありません。


――最近では、企業内からも、内部統制を重視する声も多く聞かれるようになりました。内部統制を進めていく上で、CFOが果たす役割とは何ですか?

 私は、20代から30代にかけてずっと海外で仕事をしていました。公認会計士として監査も経験しました。1992年に日本に戻り、日本で仕事をするようになって、大きな監査法人が行っている会計監査を見る機会がありました。しかし、その会計監査を見た私の感想は、「何これ?」でした。やっている内容は、自分が経験した公認会計士監査としては幼稚で、レベルが低いと感じました。あれから10年以上の月日が経ちましたが、米国のレベルに追いつくまでには、まだ相当の年数が必要だと想像します。
 日本での監査は、自分が学んだ監査からは似て非なるものでした。過去に起こった、カネボウやライブドアなどの粉飾決算事件も、起こるべくして起こったものだと思っています。むろん監査だけが理由ではありませんが…。
 過去に、「日本の企業の悪いところは、問題を隠す・先送りする・しがらみから離れない」と指摘した方がいました。まさにこの言葉が、日本の企業と監査法人の関係を端的に表していたと思います。日本は、欧米と比べ、いろいろなところで遅れをとっていますが、会計基準や監査のレベル・基準などの面でざっと20年は遅れていたのではないでしょうか。
 最近は、日本版SOX法ができるなど急速に環境が変わりつつあり、日本企業は20年の遅れを一気に縮めなくてはならなくなりました。しかし、企業も監査法人も、今までやってきたことで蓄積された負の遺産を整理するまでには相当の時間が必要だと思います。


――環境が変わっても、企業はそう簡単には変われないということでしょうか?

 確かにSOX法はできましたが、それは単に法律ができたというだけで、個別企業での内部統制システムの整備作業はこれからです。ですから、2008年に導入されてからもいろいろな問題が出てくると思います。一つの法律ができると、企業は、それに抵触しないように尽力します。しかし、その行動は、違法行為をしないように最低の基準を整えているに過ぎません。企業に求められる企業統治や内部統制さらに倫理のレベルは、本来、法が要求するものよりはるかに高いものです。
 そうした状況において、内部統制をきちんと整備していくには、CFOが担う役割も確かに大きいとは思いますが、それ以上にCEOが不正行為を排除しようという高い倫理観を持っているか、社員をどれほど真剣に守ろうとしているかにかかっていると思います。


――CFOだけではなく、CEOの努力が必要だと?

 先ほど、粉飾決算をした企業の話をしましたが、米国でも、エンロンとワールドコムという二つの大きな事件がありました。この二つの事件は、株主の損害の規模という点ではほぼ同じですが、私見では、ワールドコムの詐欺行為の方が企業統治と内部統制の観点で罪が重いと考えます。ワールドコムの場合、当時のCEOであるバーニー・エバーズが、自分の欲望のまま走り続けてしまったことに最大の原因があります。もし彼に、社会人として法と倫理を守って経営しようとする気持ちがあれば、その上で彼にブレーキをかける人がいれば、ワールドコム事件はあそこまでの詐欺事件にならなかったと思います。企業トップの責任の重さを日本の経営者がどれほど理解しているかといえば、疑問が残ります。
 「内部統制を整備しよう」と言うだけではなく、その目指す目的をしっかり理解することが大切だと思います。「監査があるから、それに違反しないようにチェックを厳重に行う」のではなく、「社員に不正をする機会を与えないよう、彼らを守るためにチェックを行う」という意識が必要なのです。企業を守るだけじゃない。社員一人ひとりを守るために、内部統制を確立することが企業にとっては大切だということを、CEOは理解してほしいと思います。
(次回に続く)