《ラ・ボエーム》東京春祭プッチーニ・シリーズ vol.5(演奏会形式) | ベイのコンサート日記

ベイのコンサート日記

音楽評論家、長谷川京介のブログです。クラシックのコンサートやオペラなどの感想をつづっています。

(4月11日・東京文化会館大ホール)

歌手陣が声を全開。これぞイタリアオペラ。ロドルフォのステファン・ポップ(テノール)は力余って怒鳴るように過剰だが、これくらい派手に歌ってくれるとすっきりとはする。

ミミのセレーネ・ザネッティ(ソプラノ)は艷やかで豊かな声。しっとりとした柔らかさも備えており、最大限の声でも余裕があり、安心して聴くことができる。

マルチェッロのマルコ・カリア(バリトン)も小柄ながら身体全体を使って骨太のバリトンを聴かせた。ショナールのリヴュー・ホレンダー(バリトン)コッリーネのボクダン・タロシュ(バス)も元気よく堂々としている。

 

指揮のピエール・ジョルジョ・モランディはミラノ・スカラ座の首席オーボエを10年間務めた。モーツァルテウムでライトナーに指揮を学び、スカラ座ではムーティ、パターネのアシスタント指揮者を務めた。オペラ指揮者として歌手に寄り添うことに徹する。

東京交響楽団は14型、コンサートマスターはグレブ・二キティン。東響の演奏は多少粗いが歌手に巧みにつけるモランディの指揮に良くついていった。

 

第1幕のロドルフォとミミの出会い「冷たい手を」「私の名はミミ」から愛の二重唱に至るクライマックスはポップとザネッティが思う存分に歌い上げ、聴くものの胸を熱くさせた。

 

第2幕のクリスマスの情景は東京オペラシンガーズの力強い合唱、東京少年少女合唱隊の舞台前面に出て歌う動きのある演技、バンダの行進などもあって賑やか。

 

1992年から2010年までウィーン国立歌劇場の総裁を務めたイアオン・ホレンダー(バリトン)アルチンドロ役で登場、譜面を見ながらムゼッタのマリアム・バッティステッリ(ソプラノ)とやり取りする。現役時代は1962年から66年、今から60年も前のこと。さすがに声はあまり出ない。東京春祭20周年のお祝い行事の余興と言っては失礼だが、遊び心もあって楽しかった。

ちなみにイアオン・ホレンダーとリヴュー・ホレンダーは親子共演。カーテンコールでは二人仲良く出てきた。

 

バッティステッリの歌うムゼッタのアリア「私が街を歩けば」は若さと勢い、切れ味があり、爽快。バッティステッリはエチオピア生まれのイタリア人でエキゾチックな美貌と強靭な声はこれから人気を呼びそうだ。

 

第3幕のミミとロドルフォの別れの場面も秀逸。愛と別れのロドルフォとミミ、喧嘩するムゼッタとマルチェルロの四重唱が明解に聞こえる。重唱のバランスが良く、立体的に聞こえてくることに海外の歌手陣の水準の高さを感じる。

 

第4幕の若者たちのやり取りも自然。コッリーネのボグダン・タロシュが歌う「古い外套よ」も味わいがありとても良かった。

 

ミミが寝たふりをしてロドルフォと二人きりになり、クリスマス・イヴに出会った思いを語り合う最後の場面をザネッティは繊細に表現、ミミに駆け寄り抱きしめ絶望の叫びをあげるポップは演技を超えて泣いていた。

 

公演はもう1回、4月14日日曜日14時から。

 

 

出演

指揮:ピエール・ジョルジョ・モランディ

(テノール):ステファン・ポップ

ミミ(ソプラノ):セレーネ・ザネッティ

マルチェッロ(バリトン):マルコ・カリア

ムゼッタ(ソプラノ):マリアム・バッティステッリ

ショナール(バリトン):リヴュー・ホレンダー

コッリーネ(バス): ボグダン・タロシュ

べノア(バス・バリトン):畠山 茂

アルチンドロ(バリトン):イオアン・ホレンダー

パルピニョール(テノール):安保克則

管弦楽:東京交響楽団

合唱:東京オペラシンガーズ

児童合唱:東京少年少女合唱隊

合唱指揮:仲田淳也

児童合唱指揮:長谷川久恵