ルネ・パーぺ(バス)&カミッロ・ラディゲ(4月10日・東京文化会館小ホール) | ベイのコンサート日記

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音楽評論家、長谷川京介のブログです。クラシックのコンサートやオペラなどの感想をつづっています。

東京春祭歌曲シリーズvol.38

バスルネ・パーぺはやわらかく深々として威厳のある声。世界中から引っ張りだこの理由がわかる。舞台に登場したときからオーラを放ち、伴奏のカミッロ・ラディゲも大歌手にひたすら尽くす。

 

モーツァルト:無限なる宇宙の創造者を崇敬する汝らが K.619

モーツァルトがフリーメイソンのために書いた作品。1791年7月6日完成。歌詞はフリーメイソンの思想そのもの。人間たちに警告する天からの声、教祖様の説教を聞いているよう。

 

ドヴォルザーク:《聖書の歌》op.99

ドヴォルザークがアメリカのナショナル音楽院の院長を務めていた1894年に作曲された。

解説(西村理氏)によれば、第1曲から第3曲が苦悩、第4曲は神の慰め、第5曲は神の栄光、以上が前半。第6曲から第8曲が苦悩、第9曲は救い、第10曲は神への讃歌が歌われる。

パーペは第1曲から第3曲を厳しい表情で、第4曲は優しさを込め、第5曲は威厳をもって、第6曲は威風堂々と、第7曲は雄大に、第8曲は大河が流れるがごとく、第9曲は壮大に、第10曲は高らかに喜びを込めて、歌い上げた。

 

後半のクィルター:《3つのシェイクスピアの歌》op.6 はバスのパーペの堂々とした声は味わいはあるが、歌の内容から少し重過ぎるように感じた。バス・バリトンのブリン・ターフェルくらいの声質だとこの歌曲集がしっくりとくるのだが。

 

ムソルグスキー:《死の歌と踊り》

この歌曲集はパーペの十八番ではないだろうか。13年前トッパンホールで聴いた人の話によると、ホールが狭すぎると思うほどものすごかったらしい。

そのころの勢いとは異なるかもしれないが、表現力がけた違いで、聴き手も死神に取りつかれる恐怖を味わうようなドラマティックな歌唱が披露された。

 

第1曲「子守歌」はシューベルト「魔王」の世界に通じる。母が看病している病気の子供に死神が近づきやさしく子守歌を歌い永遠の眠りを誘う。

死神の最後の言葉を死の宣告を告げるように恐ろしい表現で歌い、ぞっとさせた。

 

第2曲「セレナーデ」も病んだ娘に死神がとりつく歌。最後の「私の愛の囁きを聞け、黙って…、おまえは私のもの!」を叫ぶように迫力を込めて歌う。

 

第3曲「トレパーク」は雪女の伝説のロシア版。酔っぱらった老農夫が荒野に迷い込み死神が凍死へと誘う。眠れば夏のお花畑に行けるよ、と死神がささやく。カミッロ・ラディゲが弾く後奏が不気味。

 

最後の第4曲「司令官」は戦場の戦死者たちに死神が呼びかける。さすがのパーペもここにきて少し疲れが見えた。

 

しかし、アンコールは3曲も歌ってくれた。

シュトラウス:献呈



シベリウス:安かれわが心よ



シューマン:若者のための歌のアルバム 作品79より
第21曲子供の見守り

 

恋の歌にしては堂々としたシュトラウス:献呈

シベリウス「交響詩《フィンランディア》」の中間部に出る感動的な讃美歌第298番「安かれわが心よ

」、最後は『たぶんシューマン』と前置きして、シューマン:若者のための歌のアルバム 作品79より
第21曲「子供の見守り」を優しさに満ちた声で歌った。

 

NHKにより録画が行われたので、いずれ放送されると思う。