チョン・ミョンフン指揮東京フィル《田園》《春の祭典》(2月22日・サントリーホール) | ベイのコンサート日記

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音楽評論家、長谷川京介のブログです。クラシックのコンサートやオペラなどの感想をつづっています。

何と温かく人間的なベートーヴェン「交響曲第6番《田園》」だったことか! 第3楽章「田舎の人々による愉快な集い」から第4楽章「雷、嵐」、第5楽章「牧歌、嵐の後の喜ばしい感謝の気持ち」が特に素晴らしかった。

 

第3楽章は生き生きとした踊りの表情が、第4楽章は初演当時アンデア・ウィーン劇場に集った人々の驚きを体感するような激しい衝撃があった。終楽章コーダ237小節目sotto voceのやすらぎが味わい深い。これぞ巨匠のベートーヴェン。

 

第3楽章91小節目からのオーボエ荒川文吉の軽快なソロはヴィブラートが少なく、すっきりしてとても良かった。チョン・ミョンフンは演奏後最初に荒川を立たせていた。

 

《田園》に続きストラヴィンスキー《春の祭典》も暗譜で指揮するチョン・ミョンフンは余裕がある。変拍子も自在で、時に重心をかける。第1部最後「大地の踊り」の突然の休止も鮮やか。

 

第2部「選ばれし生贄への賛美」の変拍子も懐が深く、重量級の衝撃。

最後の「生贄の踊り」も風格がある。きっちり正確に指揮するというよりも、東京フィルの自発性を引き出し、大きな流れをつくっていくように感じられた。

コーダのピッコロ、フルート、ヴァイオリン、ヴィオラの鋭い上昇と金管・打楽器・低弦の一撃は、百戦錬磨のマエストロならではの絶妙な間のとりかたがあった。

 

何度かカーテンコールに出てきた後、チョン・ミョンフンは楽員に何か話しかけると、皆がザワザワし始めた。予定にはないアンコールを始めるらしい。

これまで《春の祭典》の後にアンコールを演奏することなどあっただろうか。

 

何かと思いきや、第1部最後の「大地の踊り」をもう一度演奏した。

今度は即興性もあってスピードが早くなり、オーケストラの集中度も本番以上に高く、圧巻だった。本番の出来に満足しなかったのか、あるいは客席の熱狂に応えたのか。

 

再び拍手が長く続き、チョン・ミョンフンは近藤薫の手をとり楽員全員をもう一度ステージに呼び戻した。今日のコンサートマスターの三浦章宏はなぜいないのかなと思っていたら、すでに着替えを済ませており、あわてて下手から出てきて、ステージから去ろうとするチョン・ミョンフンを追いかけていた