ジェラール・プーレ 川島余里 サロン・ヨリネット第9回コンサート | ベイのコンサート日記

ベイのコンサート日記

音楽評論家、長谷川京介のブログです。クラシックのコンサートやオペラなどの感想をつづっています。

世界的ヴァイオリニストで偉大な教育者ジェラール・プーレと、彼と長くデュオを組む川島余里のサロン・コンサート。
収益はすべて能登半島地震災害支援に寄付される。会場は川島さんのご自宅の音楽室。

 

2月と言うことでプログラムは全て第2番のヴァイオリン・ソナタが選ばれた。
 

ブラームス「ヴァイオリン・ソナタ第2番」は、2人が歌心のある演奏を繰り広げた。

第1楽章展開部の重層的なヴァイオリンとピアノの絡み合いが聴きごたえがあった。

 

ベートーヴェン「ヴァイオリン・ソナタ第2番」
第1楽章はヴァイオリンとピアノが生き生きとした会話を交わす。ユーモアも感じさせた。

第2楽章アンダンテ、ピウ・トスト・アレグレットの沈鬱な表情は深みがあった。

第3楽章アレグロ・ピアチェヴォーレ(速く心地よく)は速度ならびに発想標語通り、楽し気に軽やかに弾かれた。

 

川島余里は指が温まっているうちに休憩なしで弾きますと前置きして、ラヴェル「オンディーヌ(水の精)~夜のガスパールより」を、ひとつひとつの音をクリアに粒立ち良く弾いた。

 

10分の休憩後のプロコフィエフ「ヴァイオリン・ソナタ第2番」は、この日最も充実した演奏だった。

第1楽章モデラートでは、清冽な第1主題のヴァイオリンの表情が何ともお洒落な雰囲気。第2主題も洗練されている。

プロコフィエフというと、ロシアあるいは旧ソ連の作曲家の印象が強く、無機質な表情で演奏されることもあるが、作曲家はパリに長く住み活動したこともあり、フランス文化との接点も多かったはずだ。プーレの演奏は、プロコフィエフを解釈するうえで新たな視点を教えてくれた。

 

第2楽章スケルツォはピアノに乗ってリズミカルに進む。スケルツォの再現はエネルギッシュに躍動する。コーダの激しい追い込みは今年85歳とはとても思えない。

 

第3楽章アンダンテは抒情的な主題をプーレが柔らかく歌う。ピアノと安らぎに満ちた対話を交わす。中間部はどこかガーシュウィンのけだるいブルースを思わせる。ピアノの伴奏が繊細。

 

第4楽章フィナーレはエネルギッシュな第1主題がピアノの強力な伴奏とともに力強く登場する。ポーコメーノモッソの第2主題も重厚なピアノの上でヴァイオリンが力強く弾いていく。哀愁に満ちた新しい主題をヴァイオリンとピアノで歌い上げたあと、力強く第1主題が登場し、第2主題のあと、さらにエネルギーを増し、雄大に演奏を終えた。

毅然とした風格のある演奏だった。

 

アンコールは、『いつものドビュッシー』とプーレが告げ、ドビュッシー「ヴァイオリン・ソナタ」第1楽章を、色彩感豊かに気品を湛えて演奏した。父親のガストン・プーレは、1917年ドビュッシーが「ヴァイオリン・ソナタ」を作曲家自身のピアノで初演の際に共演したヴァイオリニスト。ジェラールの解釈は父から直伝のものであり、何度でも聴きたい演奏だ。

 

もう1曲もおなじみの曲、ファリャ「歌劇《はかなき人生》」より「スペイン舞曲」。フラメンコのカスタネットとステップの音が聞こえてくるようなリズミカルな演奏だった。