山田和樹 シモーネ・ラムスマ 読響 (2月13日・サントリーホール) | ベイのコンサート日記

ベイのコンサート日記

音楽評論家、長谷川京介のブログです。クラシックのコンサートやオペラなどの感想をつづっています。

山田和樹の魅力は採れたてのオレンジを絞ったようなフレッシュにある。そのことを小澤征爾さんの追悼コンサートになった2月9日の武満徹「ノヴェンバー・ステップス」他が演奏された日に実感した。

 

今日の1曲目 R.シュトラウス:交響詩「ドン・ファン」もまさにそのような演奏。冒頭の弦の弾けるような上昇で出る「悦楽の嵐」の主題から一気に聴き手を惹きこむ。女性との出会いを示すオーボエの金子亜未のソロ、「ドン・ファン」のもうひとつの雄大なテーマを吹くホルンの松坂隼のソロも決まる。
コーダ手前の「ドン・ファン」のテーマが回帰するクライマックスは絢爛豪華だった。欲を言えば、女性と逢瀬(おうせ)のエピソードにもう少し蠱惑(こわく)的な表情があればさらに良かったのでは。

 

ブルッフ:ヴァイオリン協奏曲第1番でのシモーネ・ラムスマは、気品があり、演奏に一本強靭な筋が通っている。したがって、弱音もオーケストラに負けずきちんと届く。長身を生かしたフレージングはスケールが大きい。第2楽章の甘美な主題を息長くたっぷりと歌わせた。まるでベルカントのソプラノのアリアを聴くような、滑らかな美しい歌が続いた。山田和樹読響もダイナミックかつ繊細なバック。総奏では激しく、ヴァイオリンが緩徐な主題を弾く際の対旋律が実に繊細だった。

 

ラムスマは5年前カンブルラン読響で弾いたチャイコフスキー「ヴァイオリン協奏曲」から更に細やかな演奏に進化している。アンコールはその時と同じイザイの無伴奏ヴァイオリン・ソナタ第2番第4楽章だったが、前回よりも更に緻密で磨き抜かれた音になっていた。

シルヴァン・カンブルラン 読売日本交響楽団 シモーネ・ラムスマ(ヴァイオリン)  | ベイのコンサート日記 (ameblo.jp)

 

 

フランク:交響曲 ニ短調

山田和樹は5月16、17、18、21日の4日間、シカゴ交響楽団にデビューする。

フランクの交響曲のほか、武満徹のハウ・スロー・ザ・ウィンドとベートーヴェン: ピアノ協奏曲第1番 をマーティン・ヘルムヘンと共演。
2023/24 Season Catalog by Chicago Symphony Orchestra - Issuu

この日の指揮ぶりを聴いていると、準備は万端のようだ。

 

どこか曖昧模糊とした雰囲気をもつ交響曲だが、山田&読響の演奏は緻密で見通しがよく、各楽章のクライマックスは、霧がさーっと晴れていくような、爽快感と輝きがあった。

 

第1楽章の3つの主題の性格描写も的確。

序奏部の祈りの動機の重厚さ、希望の動機の清らかさ、信仰の動機の全合奏による輝き。

提示部最後の瞑想的な部分も、ホルン、オーボエ、フルートが信仰の動機を美しく歌う。

展開部の3つの主題の緻密な絡み合いも手際よく進めた。

再現部の序奏と各主題の再登場も壮大。

 

第2楽章ではピッツィカートの上で奏でるイングリッシュ・ホルンの表情を細やかに指示。

中間部の弱音器付き弦のトレモロが繊細。新しく出る主題ではクラリネットのソロが光る。

前半の再現でも3つの主題の性格がきちんと描かれ流れよく進んだ。

 

第3楽章はファゴットが導かれた歓喜の主題が引き締まった演奏で輝かしく雄大に鳴らされた。ワーグナー的な第2主題の金管の弱奏もコントロールされた。

 

イングリッシュ・ホルンが第2楽章の主題を再現する場面では、ヴァイオリンが繊細なオブリガートを弾く。

 

展開部の歓喜の主題と第2主題の高揚のあと、オーボエが苦悩の動機を静かに奏でる。徐々に盛り上がり、全合奏で歓喜の動機が再現、金管による第2楽章の主題はフォルティシモで再現。ハープとともに第1楽章の序奏や主題が再現し、そこに歓喜の主題が雄大な姿を現し結末に向かい、最後は輝かしく上昇して演奏を終えた。

 

フランクの交響曲の堅固な構造を最後まで維持し、入り組んだ主題を的確に描き分けながら、流れ良く進んで行く山田和樹の明解な指揮に感嘆した。