クァルテット・インテグラは第71回ミュンヘン国際音楽コンクール弦楽四重奏部門第2位&聴衆賞受賞。バルトーク国際コンクール弦楽四重奏部門第1位など、今最も勢いのあるクァルテットのひとつだ。マネジメントもジャパンアーツとなり、活動の場が今後更に広がるだろう。2018年から4年間サントリーホール室内楽アカデミーに在籍し、現在ロサンゼルスのコルバーン・スクールにレジデンス・アーティストとして在籍している。
今回はチェロが都合により築地杏里からパク・イェウンに交代となった。
休憩なしの1時間あまりのコンサートだが、中身が濃い。
最もクァルテット・インテグラらしいと思ったのは、アメリカの作曲家ジョン・ゾーンの「キャット・オー・ナイン・テイルズCat O'Nine Tails」。ゾーンとクロノス・カルテットによる、弦楽四重奏、ヴォーカリスト、ターンテーブリストのための作品『Forbidden Fruit』(録音のみ)の経験に触発されたクロノス・カルテットが、何か演奏可能な作品を書くようゾーンに依頼し『Cat O'Nine Tails』が作曲された。この作品は、50以上の短い音楽セグメントから構成されており、トランプのようにシャッフルされ、執拗かつ無謀に演奏される。
DJが次々に短いフレーズをミキシングしてつないでいくような勢いのある作品で、短く激しいフレーズを4人が次々と弾いていく。時にタンゴや陽気なメロディーも出るが、不協和音や雑音のように弦を弓で激しくこすったり、叩いたりしていく。時おり出るミステリアスな旋律も味がある。
百聞は一見にしかず。他の団体の演奏映像をご覧ください。
Molinari Quartet, John Zorn Cat O'Nine Tails (youtube.com)
ハイドン:弦楽四重奏曲 第37番 ロ短調 op.33-1は、モーツァルト、ベートーヴェンに大きな影響を与えた。モーツァルトが「ハイドン・セット」を書くときに参考にしたもので、主題労作を確立した重要な作品。
第3楽章まで少し固さがあったが、第4楽章でクァルテット・インテグラの勢いが発揮され、生き生きとした演奏になった。
最後は、ベートーヴェン:弦楽四重奏曲 第16番 ヘ長調 op.135
第1楽章は4人それぞれが個性を主張する点が良かった。
新しく入ったチェロのパク・イェウンが他のメンバーをよく見て音楽をつくっていた。当然のことながら、他の3人と較べると音楽性にはまだ異質なものもあり、なじむまでは少し時間もかかるだろう。
第2楽章ヴィヴァーチェはもっと楽しそうに演奏してもよいのでは。ベートーヴェンの常軌を逸したような側面を出してもいいような気もした。ジョン・アダムズが都響を指揮した「アブソリュート・ジェスト」でエスメ弦楽四重奏団がこのスケルツォの断片を弾いたが、彼らの演奏のように流れるような滑らかな動きと艶やかな音の美しさもほしい。
感動的な音楽である第3楽章レントは、残念ながら「哲学」が感じられなかった。この楽章で説得力のある演奏をするには、人生の年輪を重ねなければならないと思う。
弦楽合奏版だが、故小澤征爾さんが指揮しているスイス国際アカデミーの学生たちの演奏を聴いていると、ベートーヴェンが神に最も近づいた作品のひとつではないかと感じる。こうした演奏にぜひチャレンジしてほしい。
Ludwig van Beethoven - Quatuor n°16 en fa majeur op.135 - 3ème mouvement - (youtube.com)
第4楽章はベートーヴェンが冒頭の序奏動機に書き込んだ「そうでなければならないのか?」の問いに「そうでなければならない!」のアレグロ動機で入る切り替えに勢いがあった。
アンコールはベートーヴェン:弦楽四重奏曲第2番 ト長調 Op.18のフィナーレ。
これは、力が抜けて音も濁らずとても良かった。若手のクァルテットが積極的に演奏に向かっていく結果として、音に濁りが生じるのは止むを得ないのかもしれないが、同時に繊細な美しさを失うことにも繋がる。そのバランスが大事だと思う。
クァルテット・インテグラ
三澤響果、菊野凛太郎(以上、ヴァイオリン)
山本一輝(ヴィオラ) パク・イェウン(チェロ)
※チェロの築地杏里は都合によりパク・イェウンに交代
2015年桐朋学園に在学中に結成。第71回ミュンヘン国際音楽コンクール弦楽四重奏部門第2位&聴衆賞受賞。バルトーク国際コンクール弦楽四重奏部門第1位。第8回秋吉台音楽コンクール弦楽四重奏部門第1位、ベートーヴェン賞、山口県知事賞(グランプリ)を受賞。国内ではサントリーホール、王子ホール、フィリアホール、サルビアホール、宗次ホール等各地でリサイタルを行い、今年1月から第一生命ホールにてベートーヴェン、バルトーク、ブラームスを取り上げたリサイタルシリーズが始まった。2021年より毎年大晦日に東京文化会館にて行われるベートーヴェン弦楽四重奏曲9曲演奏会に出演している。国外では今年度にアメリカのニューヨークとサンディエゴ、イタリアのナポリとシエナ、ドイツのフランクフルトとバート・テルツでのリサイタルが予定されている。これまでに、磯村和英、堤剛、練木繁夫、山崎伸子、エルサレム弦楽四重奏団と共演し好評を博す。NHK「クラシック倶楽部」、「リサイタル・パッシオ」、「ららら♪クラシック」等に出演。キジアーナ音楽院夏期マスタークラスにて、最も優秀な弦楽四重奏団に贈られる“Banca Monte dei Paschi di Siena” Prizeを二度に渡り受賞。第41回霧島国際音楽祭に出演し、堤剛音楽監督賞、霧島国際音楽祭賞を受賞。松尾学術振興財団より助成を受けている。磯村和英、山崎伸子、マーティン・ビーヴァー、クライヴ・グリーンスミスに師事。桐朋学園を経て、2018年から4年間サントリーホール室内楽アカデミーに在籍し、現在ロサンゼルスのコルバーン・スクールにレジデンス・アーティストとして在籍。
写真©Abby Mahler