カーチュン・ウォン指揮日本フィル 児玉麻里・児玉 桃(ピアノ) | ベイのコンサート日記

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音楽評論家、長谷川京介のブログです。クラシックのコンサートやオペラなどの感想をつづっています。

(1月26日・サントリーホール)

コンサートのテーマは「アジアと西洋音楽の出逢い」

チナリー・ウン:グランド・スパイラル[日本初演]

1942年カンボジアに生まれたウンは1964年アメリカに渡り、以降アメリカ国籍を得る。

タイトル通り、渦を巻くような多彩な響きの中にカンボジアの音楽も混じり、アジアとヨーロッパの現代音楽が交じり合う。カーチュン・ウォン日本フィルの演奏は色彩感豊かで、リズムの切れがある。

 

プーランク:2台のピアノのための協奏曲 ニ短調*

児玉麻里が第1ピアノ、児玉 桃が第2ピアノ。二人のリズム感が弾けるように生き生きとしており、まさにブリリアント。第1楽章最後は1931年プーランクがパリの植民地博覧会で聴いたガムラン音楽に影響された世界が出現する。

第2楽章はモーツァルトのピアノ協奏曲ハ長調K.467の緩徐楽章を思い起こさせる。

第3楽章は2台のピアノとオーケストラが軽快に動く。ジャズに似たフレーズも出る。

ウォンと児玉姉妹のピアノに一体感があった。

 

後半のコリン・マクフィー:タブー・タブーアン。マクフィーは1900年カナダ生まれ。64歳で亡くなった。SPレコードで聴いたガムラン音楽に魅せられ、1931年からはバリ島に住み、それを採譜・編曲、素材としてオーケストラ作品を書いた。

 

タブー・タブーアンは副題に「オーケストラと2台ピアノのためのトッカータ」とあるように、指揮台の前に2台のピアノが屋根を外され並んで置かれ、今度は児玉 桃が第1ピアノを、児玉麻里が第2ピアノを担当。曲は約20分と長い。第1楽章オスティナートはガムランに似た動機が繰り返される。第2楽章ノクターンは作曲家がバリ島で聴いた旋律がゆったりと流れるが、バックではガムランノリズムや動機が演奏される。第3楽章フィナーレは極彩色のシンコペーションのリズミカルな音楽となるが、そのリズム感や金管の響きはジャズにも通じる。聴いた印象は作曲家の開放的で楽天的な音楽性が感じられた。

 

ドビュッシー:交響詩《海》

これほど明晰な《海》は初めて聴いた。まるで細密画を見るよう。ウォンはプレトークで葛飾北斎が描いた海や日本のガムランを聞いてください、と話したが確かに日本的な色彩感、浮世絵のような淡い色彩感があった。フランスのオーケストラや指揮者とは異なる色合いだ。

 

第3楽章《風と海の対話》では159小節目からのフルートとオーボエの二重奏のバックに、これまで気づかなかったハーモニーが絶妙な響きとともに浮かび上がってきたことにも驚いた。

 

237小節目からはベーレンライター新版で復活したトランペットのファンファーレがオッタビアーノ・クリストーフォリのソロで鋭く吹かれ、コラールとともにクライマックスへ突入していく。

コーダではウォンの指揮は、よくぞここまでと言いたくなるほど日本フィルに対するコントロールが行き届いており、精緻さと共に爆発的なエネルギーも備えていた。海外の一流オーケストラと較べても全く遜色のない、いやむしろ凌駕しているのではと思える演奏だった。

恐るべき才能!カーチュン・ウォン