ミハイル・プレトニョフ 東京フィル マルティン・ガルシア・ガルシア(ピアノ) | ベイのコンサート日記

ベイのコンサート日記

音楽評論家、長谷川京介のブログです。クラシックのコンサートやオペラなどの感想をつづっています。

(1月23日・サントリーホール)

シベリウス「組曲《カレリア》」は、ほの暗い響き、陰影の深さ、そしてひんやりとした空気感が醸し出される。

第1曲「間奏曲」の遠くから音が響いてくる遠近感が良く出ていた。第2曲「バラード」の弦のほの暗く柔らかな響きとイングリッシュ・ホルンの哀愁漂う演奏が15世紀の城の吟遊詩人を描いた。打って変わって快活な行進曲が始まる第3曲「行進曲風に」の輝かしい金管にも冷たい空気を感じた。

 

グリーグ「ピアノ協奏曲」のソリストはマルティン・ガルシア・ガルシア(2021年第18回ショパン国際ピアノコンクール第3位)。使用ピアノはファツィオリ。

第1楽章はピアノの音色が明るく、グリーグというよりもショパンのように感じられた。しかし、カデンツァの迫力は凄まじく、彼の特長が良く出ていた。

 

第2楽章はプレトニョフ東京フィルが生み出す抒情性豊かな響き、ホルンのオブリガートの歌に支えられ、ガルシア・ガルシアの演奏もオーケストラと同化していた。

 

第3楽章はプレトニョフが攻めていく。壮大なスケールで管弦楽を展開していく。その大きな波に負けることなく、強靭なタッチで互角に向かっていくガルシア・ガルシアの演奏は聴きごたえがあった。中間部のフルートの清涼感が素晴らしかった。コーダのガルシア・ガルシアのソロは雄大で、最後はオーケストラとともに劇的に終えた。

 

アンコールはアルベニス「ナバーラ」。タイトルはスペイン北東部ピレネーの西に広がる地名で、同地の民族舞踊ホタの主題に基づく幻想曲。アルベニスは完成させることなく亡くなり、弟子であり、また友人でもあったデオダ・ド・セヴラックが復元、補筆し、1909年に完成させた。スペイン生まれのガルシア・ガルシアにとっては水を得た魚のごとくの演奏。

 

プレトニョフの指揮でシベリウスの交響曲を聴くのは初めてだが(録音もないのでは?)、「交響曲第2番」は構えの大きいまさに巨匠の至芸で、プレトニョフの凄さを改めて知った。

第1楽章から構えが大きい。展開部のポーコ・ラルガメンテのクライマックスは大河のごとく進む。金管の斉奏も雄大。

 

第2楽章のトランペットのソロから始まる再現部からフォルティシモへのクライマックス、金管の咆哮は強烈で重心も低い。そのままコーダへと重厚に進めていく。最後には金管の咆哮とピッツィカートが楔のように打ち付けられた。

 

まず、第3楽章スケルツォの急速な動きに始まり、続いてレント・エ・スアーヴェ(ゆっくりと優雅に)のオーボエのソロと続く弦が憂愁を漂わせ深い。すぐにヴィヴァチッシモの管弦楽の激しい動きが始まるがこれがエネルギッシュ。第4楽章の動機も姿を見せ、盛り上がっていく。再びレント・エ・スアーヴェでオーボエが出る。そのまま高潮して第4楽章に入っていくが、その移行が本当に巧みだ。大きな構えの中で、堂々と第1主題を進めていく。低弦、ティンパニの動きも激しい。

 

トランクイロで低弦とティンパニの不安気な動きの上で木管が第2主題を吹く。金管が勇壮な動機を吹いて入る展開部。徐々に明るさを増しながら、金管の動機が加わり

頂点に向かって盛り上げていくプレトニョフの指揮も奥が深い。クライマックスに達した後、再現部となり再び頂上へ向かう。流れが止まることなく、奔流のように全管弦楽で盛り上げていく。金管の動機、ピッツィカート、渾身のトレモロの中、ニ長調となってトランペットをはじめ金管が高らかに歌い上げた。金管の強奏は伸びやかで無理がない。

 

演奏後、プレトニョフはトランペット、トロンボーン、ティンパニ、ホルン、ファゴット、クラリネット、フルートと次々に首席を立たせていった。コンサートマスターの依田真宣には何度も握手し、リードぶりを讃える姿が印象的だった。

 

この後1月28日(日)15時からオーチャードホールでの公演がある。