小林研一郎 プラハ交響楽団 スメタナ《わが祖国》(1月11日・サントリーホール) | ベイのコンサート日記

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音楽評論家、長谷川京介のブログです。クラシックのコンサートやオペラなどの感想をつづっています。

プラハ交響楽団の持つ響きはチェコ・フィルハーモニー管弦楽団以上に東欧らしく聞こえる。プラハに行ったのは21年前の11月。どんよりとした曇り空、カレル橋からみたヴァルタヴァ河(ドイツ語ではモルダウ)、くすんだ街並みや教会、モーツァルトが「歌劇《ドン・ジョヴァンニ》」を初演したエステート劇場(実際にこのオペラを観た)、プラハ歌劇場などを思い出す。

 

プラハ響は14-12-10-8-7の編成。スメタナ《わが祖国》第1曲「ヴィシェフラド」冒頭の2台のハープの音の温かいこと。ハープのきらびやかさとは異なる。このオーケストラの温かな響きを予感させる。このオーケストラを聴くのは2013年ウカシュ・ボロヴィチ指揮、2016年ピエタリ・インキネン指揮に次いで3回目。印象は今回も大きくは変わらない。弦は味わい深く、木管も温かい。金管はパワフルで、安心して聴いていられる。唯一シンバル奏者は代役なのか、叩くタイミングを間違えたり、自信がなさげだったり、見ていてハラハラした。

 

前回の来日では気づかなかったが(まだ入団していなかったのか)、このオーケストラには個性的な奏者が二人いる。一人はホルン首席ズザナ・ルゾンコヴァZuzana Rzounkova。他の楽員が燕尾服を着ている中で、彼女だけはニット帽にカジユアルな黒のシャツとパンツ姿。演奏はとても安定しておりうまい。ホルン隊をきっちりとまとめていた。チェコにはホルンの伝統があり(ラデク・バボラークもチェコ生まれ)、プラハ響の二人の日本人奏者も対談でそう話している。
【団員へインタビュー!】2024年1月来日・プラハ交響楽団 | クラシック音楽事務所ジャパン・アーツクラシック音楽事務所ジャパン・アーツ (japanarts.co.jp)

 

もう一人はティンパニのLubor Krása。とにかく明るい。始終踊りながらティンパニを叩いているようにも見える。燕尾服の袖をまくり上げ、ノリノリで叩く姿に笑いを誘われる。こんなに明るいティンパニストは見たことがない。以前サンタ・チェチーリア管弦楽団のティンパニストがマフィアの親分みたいでかっこよかったことがあるが。

Lubor Krása | Symfonický orchestr hlavního města Prahy FOK

 

小林研一郎は《わが祖国》を知悉しているプラハ響に、演奏を任せていたところがあった。指揮をせず、表情だけでオーケストラをリードする場面も多かった。

 

演奏全体をふりかえると、後半が良かった。小林研一郎とプラハ響に集中力があり、覇気のある演奏が展開された。

 

前半も第2曲「モルダウ」の2本のフルートの導入部の滑らかさや、第3曲「シャールカ」のクラリネットの名演やコーダの盛り上がりが素晴らしかったが、クライマックスで小林研一郎が強奏を試みるところは、少し無理が感じられた。そこまで鳴らさずとも、自然な流れのままのほうが、かえって惹きつけるものが生まれるのではと思った。