第21回東京音楽コンクール 優勝者コンサート(1月8日・東京文化会館 大ホール) | ベイのコンサート日記

ベイのコンサート日記

音楽評論家、長谷川京介のブログです。クラシックのコンサートやオペラなどの感想をつづっています。

このコンクールは東京文化会館、読売新聞、花王(株)、東京都の4者が共催。
新人演奏家の発掘、育成・支援を目的としている。
過去の優勝者の中には2005年北村朋幹(ピアノ)、2007年成田達輝(ヴァイオリン)、2012年小川響子(ヴァイオリン)、2013年田原綾子(ヴィオラ)、2015年水野優也(チェロ)など第一線で活躍しているアーティストも多い。

 

まずは弦楽部門初のコントラバスでの優勝者水野斗希(みずのとき)が登場。愛知県出身、名古屋の東海高校のオーケストラ部でコントラバスを弾いていた。指揮者の角田鋼亮、東京フィルコンサートマスター近藤薫の後輩になる。
現在東京藝術大学音楽学部器楽科2年。2003生まれで今日が成人式だという。

 

演奏曲目はニーノ・ロータ「ディヴェルティメント・コンチェルタンテ」。オーケストラのコントラバス奏者がふだんはあまり弾くことのないフラジョレットや重音も使われ、半音階も多い全4楽章の作品。

 

オーケストラは新日本フィルハーモニー交響楽団、10-8-6-4-2の編成。コンサートマスターは特任コンサートマスターの伝田正秀。指揮は下野竜也

水野の音はやわらかく温かみがある。第3楽章アリアは繊細だが、もう少し抑揚やメリハリもあってもいいのでは。第4楽章の超絶技巧もきちんと弾いていく。第3楽章と同じく、メリハリや技巧の誇示があっても良かった。

下野竜也の指揮が丁寧で、水野にぴったりと寄り添う。新日本フィルも水野を盛り上げる。聴衆の拍手は大きく、温かい。コンクールの予選、決勝から聴きに来ている方も多いのでは。

 

演奏後の司会朝岡聡の「将来の目標は?」の質問に「オーケストラで弾きつつソロの曲もたくさんあるので弾いていきたい」と答えていた。

 

 

続いて木管部門第1位及び聴衆賞ファゴットの保崎佑(ほざきゆう)が ロッシーニ「ファゴット協奏曲」を演奏した。1993年生まれ。ファゴット奏者としては史上初となる、音楽研究の博士号を東京音楽大学で取得している。インタビューでは「歴史的なことを研究することで、実技にも自信がつく」と答えた。

演奏は安定しているが、やはり表情が一本調子。第2楽章は変化があった。第3楽章も正確な演奏だが、軽快な曲想を生かす活気をもっと出してもよかったような気がした。下野新日本フィルは保崎との一体感、きめ細かなサポートがあった。

保崎は演奏後「思う存分に吹けたので悔いはありません」と朝岡のインタビューに答えていた。将来の目標は「ファゴットにはソリストがいないので、基本はオーケストラに参加したい。オーケストラ活動と研究の両立を図りたい」とのこと。

 

後半は、ピアノ部門第1位佐川和冴(さがわかずさ)。

曲はベートーヴェン「ピアノ協奏曲第2番 変ロ長調 Op.19」

鈴を鳴らすような輝きと瑞々しい高音が何よりの魅力。第1楽章カデンツァではフレージングに思い切った表情をつけた。

ベートーヴェンの難しさなのだろうか、第2楽章も素晴らしい高音の美しさは保たれるが、もうひとつ深いものが感じられない。ただ、コーダではそれがあった。

下野新日本フィルの表情も深みがあった。

第3楽章は若々しく躍動感があり、オーケストラともども活気に満ちて高揚していった。

佐川は1998年生まれ。現在東京音楽大学大学院研究科に在籍。

 

朝岡のインタビューでは「ベートーヴェンの第2番は5曲の中で最も好きな作品。ベートーヴェン自身25歳で初めてこの曲を(公開で)弾いたので、今25歳の自分もとても親近感がある」と答え、「どんなピアニストになりたいですか?」の質問には「ピアニストは孤独に練習するので、多くのお客様の前で弾くのはうれしい。お客様から温かく見守っていただけるようなピアニストになりたい」と話していた。

 

3人は優勝の副賞として、今後リサイタル支援などで、聴衆の前で演奏する機会が提供される。ぜひ自立した演奏家として成功して行ってほしいと願う。