ニューイヤーコンサート2024 原田慶太楼 都響 前田妃奈 東京文化会館《響の森》Vol.53 | ベイのコンサート日記

ベイのコンサート日記

音楽評論家、長谷川京介のブログです。クラシックのコンサートやオペラなどの感想をつづっています。

(1月3日水曜日15時・東京文化会館大ホール) 

今年最初のコンサート。業界関係者も多数出席、新年の挨拶を交わした。

指揮は原田慶太楼。管弦楽は東京都交響楽団コンサートマスター山本友重。原田と都響は初共演だろうか。個人的には初めて聴く組み合わせだ。

 

1曲目はヨハン・シュトラウス2世「オペレッタ《こうもり》序曲」。ウィーン風というよりもアメリカンでドライ・マティーニのように辛口、切れ味抜群の演奏。オーボエに始まるロザリンデのアリア「あなたのいない8日間」のメロディーはたっぷりと歌わせた。

原田は指揮を終えると、マイクを持ち『あけましておめでとうございます。正月早々、大間違いをしました。今日司会もやるとは思っておらず、ホールに来てから主催者に『ところで司会の方とはいつ打ち合わせを?』と聞いたら、『原田さんが行うことになっています』と言われ、大慌てで1時間ほど話すことを考えました』と場内を笑わせたあと、「今日は物語のある曲を選びました」とつけ加えた。

 

1曲目はバーンスタイン(メイソン編)「ウエスト・サイド・ストーリー」セレクション

元気いっぱいの演奏で、飛ばしていく。都響もそのスピードにぴったりとつける。

メイソン編曲の7曲は以下の順だが、
1.アイ・フィール・プリティ(I Feel Pretty)

2.マリア(Maria)

3.サムシング・カミング(Something's Coming)

4.トゥナイト(Tonight)

5.ワン・ハンド・ワン・ハート(One Hand, One Heart)

6.クール(Cool) 

7.アメリカ(America)

今日は3.サムシング・カミングがカットされていたように思った。

 

クール(Cool)ではフィンガー・スナップを客席にも促し、聴衆も参加した。

終わると原田は「まさか僕のコンサートに来てじっと座ったままで終わるなんて思ってないですよね」と笑わせ、バーンスタインについての面白いエピソードをひとつと切り出し、今公開中のNetflixの映画『マエストロ:その音楽と愛と』の関係者から、バーンスタインがタングルウッドで恋に落ちる若いアジア系指揮者役を打診された話を明かした。ベッドシーンもあることから奥さんから身体を見せるのなら鍛えないと、と言われジムにも通いオーディションを受けたが、残念ながら出演は叶わなかったという。指揮もでき、英語もネイティブの原田なら可能性はあったと思うが、演技は難しかったのかもしれない。

映画はまだ見ていないが予告編がyoutube↓にあった。

『マエストロ: その音楽と愛と』予告編 - Netflix (youtube.com)

 

前半最後は2022年ヴィエニャフスキ国際ヴァイオリンコンクール優勝前田妃奈によるヴィエニャフスキ「グノーの《ファウスト》による華麗なる幻想曲」

曲の後半はフラジョレットの連発に左手のピッツィカートも入り、まさに超絶技巧満載。原田都響もきめ細かなバック。前田は見事なテクニックで弾いていく。もう少しスケールを大きく見せ、演奏に余裕があれば、更に良かったのではないだろうか。

 

後半は、バーンスタイン「《キャンディード》序曲」。パワフルな演奏だが、ニュアンスの細やかさも聴かせてほしい。

 

前田妃奈がドレスを白から赤に替えて再び登場。サラサーテ「カルメン幻想曲」を弾いた。演奏前に原田が前田に優勝後の活動について聞くと、前田は「世界20か国、60か所でヴィエニャフスキのヴァイオリン協奏曲第2番を弾きました」と答えた。

続いて今後弾きたい曲はの問いに対し「ドヴォルザークのヴァイオリン協奏曲、ブルッフのスコットランド幻想曲、ハチャトゥリアンのヴァイオリン協奏曲を弾いてみたい。実は日本でヴィエニャフスキの2番はまだ弾いていないです」と言うので、原田も聴衆も驚く。原田も「都響さん、他のオーケストラもよろしくお願いいたします」と補足していた。

 

「カルメン幻想曲」はヴィエニャフスキよりもこなれていた。序奏に続き第1部ハバネラの変奏が終わったところで、ブラヴォと拍手のフライングがあり、原田がふりかえって、『拍手していただいていいですよ』と返した後から場内も和み、前田もリラックスしたのか演奏がより自在になった。原田都響の繊細なバックも前田の細かな動きを引き立てていた。原田は「僕たち演奏家は拍手はいつでも大歓迎。ブラヴォも楽しんでいるのかどうかわからないおじさんの低い声ばかりでなく、女性の華やかな声でいただければ更にうれしい」と笑わせた。

 

最後はニューイヤーコンサートらしく、ヨハン・シュトラウス2世「美しく青きドナウ」

第4ワルツの前半のゆったりとしたワルツをウィーン的に優雅にたっぷりと間をとったことがとても良かった。

 

アンコールはお約束のヨハン・シュトラウス1世「ラデツキー行進曲」。聴衆の手拍子をリードしながら盛り上げた。