熱狂と興奮の極致!ユベール・スダーン 東京交響楽団(12月16日・サントリーホール) | ベイのコンサート日記

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音楽評論家、長谷川京介のブログです。クラシックのコンサートやオペラなどの感想をつづっています。


シューマンの交響曲第1番「春」をマーラーが編曲した版と、ブラームスのピアノ四重奏曲第1番をシェーンベルクが編曲した版を並べた企画。

事務局長の辻󠄀さんいわく
4人の作曲家を一度に味わうコンサート』。

 

シューマン:交響曲 第1番 変ロ長調 op.38 「春」 (マーラー版)

ユベール・スダーン東京交響楽団とマーラー版のシューマン「交響曲全集」を録音しており、これも辻󠄀さんからの話だが、オリジナル版ではなく、マーラー版を知ってシューマンの交響曲を指揮してみたいとスダーンは思ったという。

 

スダーンが得意の版であり、マーラーがホルンを増強した第1楽章序奏から輝かしく充実した響きが生まれていた。東響は16型、コンサートマスターはグレブ・ニキティン。

 

第2楽章はマーラーが主題を弾く第1ヴァイオリンに第2ヴァイオリンを追加するなど、ここでも響きは分厚い。

 

第3楽章スケルツォも重厚に進む。リズムも重々しい。

 

第4楽章のコーダは金管が輝かしく厚みがあり、弦も充実して切れ味があった。ブラヴォも飛び出した。

 

マーラーの編曲は金管の強調と弦の厚みで、シューマンのどこか爽やかさも感じさせるオリジナル版が、堂々とした大交響曲に変身した印象を受けた。

 

ブラームス/シェーンベルク編:ピアノ四重奏曲 第1番 ト短調 op.25

スダーンの指揮はこの編曲の魅力を良く伝えていた。シェーンベルクはブラームスを土台に、夢中になって自分のアイデアを盛り込んだのでないだろうか。そんなシェーンベルクの興奮が伝わってくるような、様々な楽器が登場し交差する色彩感に溢れる演奏だった。

 

第1楽章ではチェロの第2主題の厚みと奥行きのある音に惹きつけられた。笹沼樹がトップサイドに座った。

 

第2楽章はシェーンベルクの編曲のセンスの良さに感心する。翳りのある主題を、弱音器を付けた弦セクションが弾いていく。寂しさ、侘しさが募る響きだ。長調となる中間部も、弦がひんやりとした響きを奏でるので、どこか影のある音になる。再現部のオーボエやクラリネットのソロも味わいがあった。

 

第3楽章も驚きの編曲。総奏で出る穏やかな主題も金管や木管が加わることで、一種の鋭い響きになる。中間部は異様だ。軍隊調の行進曲が始まると、金管が強奏し、打楽器が打ち鳴らされ常軌を逸したような狂乱が引き起こされる。

シェーンベルクが編曲したのは1937年の5月から9月にかけてのこと。その3年前の1934年にナチス・ドイツから逃れてアメリカに亡命しており、ナチスへの怒りを込めたのだろうか、と思わざるを得ない。その凶暴な響きをスダーン東響は思い切り爆発させていた。

 

第4楽章はブラームス自身「ジプシー風のロンド」と名付けており、これまでとは打って変わって情熱的なジプシーの踊りが展開される。フォーレ四重奏団のオリジナル版演奏でも興奮したが、スダーン東響のオーケストラバージョンは規模が桁違い。

 

最後の山場の前のクラリネットのカデンツァが入り、ヴァイオリンやチェロのソロもあり、狂乱の場面に入る直前にたっぷりとした間をとる。モルト・アレグロのコーダはまさに熱狂と興奮の極致。

今年1月に聴いた小泉和裕指揮都響以上に白熱した演奏。

聴衆も熱狂し、スダーンのソロカーテンコールとなった。